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コロナ禍における再建計画

No.617|2021年9月号

今月の視点

昨今のコロナ禍の事業環境は、企業経営に大きな影響を及ぼしている。我が国においては、緊急の財政政策や民間金融機関による企業への資金繰り支援が行われているが、引き続き厳しい状況に置かれている企業は少なくない。
特に、以前から業績が低迷していた企業は、コロナ禍をきっかけに再建への取り組みを一層急がなければならない。
再建計画は元々、通常の経営計画とは異なる特質があり、策定そのものが難しい。加えて、現在の環境下では、コロナ禍がいつまで続くかの見通しが立てにくい点と、収束すると需要回復の速度が速いという点も考慮しなければならない。
今月は、A社の事例をもとに、こうした特殊な状況下での再建計画策定の留意点について考えてみたい。

1 A社の事例

(1) A社の状況

 A社は、東日本エリアを対象とする売上数百億円の中堅食品卸売業者である。コロナ禍により、取引先の外食産業やホテル・旅館業界等の休業を受けてA社の売上も急激に減少し、今期は営業損失となる見込みで、来期以降も業績が厳しいことが想定された。コロナ禍以前の業績は、新規事業として立ち上げた飲食事業が軌道に乗らず、何とか当期純利益を確保できる程度の水準が続いていた。

 新規事業は、本業から見て川下事業への展開を企図したものであった。しかし、個人顧客を対象とした全く新しい事業領域であったため、先行して設備投資が嵩み、店舗オペレーションの効率化や目玉商品等のメニュー開発が後手に回ったことから、店舗数拡大も限定的で、黒字化のめどが立っていなかった。

 今期の大幅な業績悪化を受け、当面の運転資金として追加融資を受ける必要が出てきたため、次年度以降の3か年事業計画を急ぎ作成し、社長と財務担当役員が金融機関の説明に回った。
 事業計画の骨子は、「業績悪化は、コロナ禍という環境激変によるもので、今後は各事業の効率化を進めるのはもちろんのこと、事業の多角化をさらに進めるほか、海外市場にも進出して収益力を高めていく。」というものであった。

 後日、メインバンクから次のような厳しい返答と追加検討要請があった。
 「今期の業績悪化はコロナ禍の影響が大きいが、そもそも近年の業績はずっと低下傾向であったと認識している。御社としてこれまでも様々な施策を講じてきたが、あまり成果があがっていない。頂いた事業計画では、そうした状況に対する緊迫感が感じられず、この計画で本当に今後やっていけるのか、不安を抱かざるを得ない。」
 「この事業環境の中で、資金余力が低下しているのは理解している。しかし、これまでの延長線上の事業計画であるならば、追加融資しても借入金が増えて財務体質がますます悪化するのは確実である。このままでは借入金のロールオーバーでさえ厳しい状態だ。収益力が回復する筋道をもう少し具体化し、御社はどのように変わろうとしているのか、抜本的な事業計画として作り直してもらいたい。」

 金融機関の返答を受けて、A社社長は、
 「将来の方向性を示しているつもりだが、何が欠けているのかを明らかにし、金融機関の要請に応えなければならない。このままでは資金繰りがつかなくなってしまうので、早急に事業計画を作り直す必要がある。」と危機意識をつのらせた。
 限られた日程の中で、実効性のある事業計画を立案する必要性から、コンサルタントへ支援を依頼し、経営企画部、各事業部長、担当役員で構成されたプロジェクトチームが結成され、検討が開始された。

(2) 当初の事業計画の精査

 プロジェクトチームでは、金融機関に提出した当初の事業計画の内容を精査することにしたが、その際、「この計画なら必ずや再建できる」という確証の持てるものになっているかという観点で行うことにした。
 まず、当初の事業計画は、「中長期的には、将来の日本市場は拡大が見込めず、競争もますます激しくなるので、海外市場への進出も考えねばならない。また、バリューチェーン上の川上、川下の分野についても事業領域を広げられないか、可能性を探っていきたい。」という積極的な事業展開方針のもとで策定されたことが確認された。

 当初の事業計画の主要施策は、下表の7つであった。

 各事業部担当者等にもインタビューを行い、事業計画としての実効性という観点から精査したところ、下記の課題が把握できた。

● 中期的なビジョンや目指す方向性について多く示されているものの、具体的な施策にまで展開されていない。
● それぞれの施策の確実性がどの程度あるのか不透明で、数値計画の信頼性が低い。
● 市場環境は将来改善するという楽観的な予想に基づいており、構造改革関連の施策がほとんどない。(抜本的な固定費削減施策等は見当たらない)
● これまでの中期経営計画等での施策と同様のものが多く、事業環境が激変したことが反映されていない。特に、コロナ禍に対して、どのような方針で臨むかが示されていない。

 こうしたことを踏まえ、金融機関の危惧はもとより、自らも「この計画なら必ずや再建できる」という内容にはなっていないことが、共通認識された。

(3) 窮境の要因の確認

 次にプロジェクトチームは、当社の置かれている状況、窮境に陥った要因について、改めて確認することにした。

①収支構造、財務体質の正しい認識
 現在の業績悪化は、コロナ禍の影響による受注減が直接的な要因であるが、それ以前の 2019 年 12 月までの過去3年間の実績を分析し、本質的な課題を探った。
 その結果、本業の利益率が近年低下傾向にあり、業界水準を下回る状態が定常化していること、そして、その利益を不採算事業の損失が食いつぶしていることが確認された。
元々低水準であった自己資本比率は、今期の大幅な損失計上によってさらに低下することが確実であった。
 また、卸売事業の特性上、B/S における債権・債務のウェイトが高いが、コロナ禍の影響から売掛金回収サイトの長期化や貸倒れリスクが増加し、収益圧迫リスクが次年度以降一層高まっていくことも明らかとなった。

②卸売事業の収益力低下が続いている要因
 会社再建のためには、本業である卸売事業の収益力を向上さ
せることが不可欠であるとの認識のもと、なぜ利益率が業界標準以下なのか、なぜ収益力の低下が止まらないのかを分析した。その結果、以下の点が明らかになった。

●顧客への個別対応の手間や物流費等の販売管理費を含めると、実質的に粗利が低い大口顧客が複数存在している。
~ 例えば、大手飲食チェーンは、当社売上における割合が増加傾向であったが、買い手側のスケールメリットにより粗利率は低く、きめ細かい対応も求められるため販管費は増大傾向にある。(粗利率の高い小口顧客の減少)
● 物流費については、創業以来の自社倉庫、自社配送網が基本となっており、毎年物流費削減に努めているものの、売上高物流費比率は微増傾向である。
● 飲食店側で調理のしやすい商品等、顧客の視点から見て、他社を差別化できるほどの魅力ある商品が少ない。

 本業の稼ぐ力がいかに低下してきたかは、社内でも共通認識
がある程度できており、早急に具体策を検討することになった。

(4) 施策の組み立て直し

 プロジェクトチームは、事業環境や事業の現状を客観的に捉えると共に、自社は民事再生や事業再生 ADRではないにしろ、それに近い再建計画が求められているという認識のもとで、施策の練り直しを行うこととした。その際、金融機関からの要請にも留意して、次の3つの作成方針を設定した。

(ⅰ )本業の収益力の回復を確かなものにする構造改革施策を計画の主軸にする。その際、確実性の高い施策を中心とし、確実性の低い施策とは明確に仕分ける。
(ⅱ )コロナ禍に対しては長引くことを前提とし、アフターコロナでも事業環境は元に戻るという楽観視はせずに、各事業の有り様を検討する。検討に当たっては、既存の事業領域にはこだわらない。
(ⅲ )一方、コロナ禍の収束は、消費抑制の反動で需要の急増につながる可能性があるため、ビジネスチャンスとも捉え、最重要なリソースである社員と顧客・チャネルを守ることにも配慮する。

<具体的施策>
1. 固定費削減・資産圧縮
売上減少のもとでも利益が出るよう、確実性が高く、すぐに実行に移せる施策が不可欠だとプロジェクトチームは考え、次の3つを早急に実施することとした。

①不採算事業(飲食事業)の撤退
 当初の事業計画では、市場環境が徐々に以前のように回復する前提で、いかに黒字化するかを念頭に置いていた。しかし、コロナ禍がどう収束するかは想定がつかないこと、またインターネット通販・宅配の浸透、おうち需要の増加等の消費者行動の傾向は今後も変わらない可能性が高いと想定されることから、客足がコロナ禍以前に回復しないという前提で再検討した。
 市場環境の回復が遅れると、食材原価率や人件費の見直しといった自社が取り得る施策では黒字化はおぼつかないことが明らかとなり、撤退が最善であると決断した。
 なお、撤退するにも店舗の原状回復費用等の費用が必要ではあったが、毎年約1億円弱の損失が防げるため得策であるとの試算も行った。

固定資産の流動化による財務改善
 A社には幸い、自社保有の土地や建物、物流拠点等の固定資産があった。プロジェクトチームは資金繰りが悪化する中、資産売却・流動化によりキャッシュフローの改善や財務体質向上を図らなければならないと考えた。

③役員報酬及び人件費削減
 コロナ禍収束後のV字回復に備えて人員削減は極力行わない方針で臨むことにし、社員にも明示することにした。
 一方、現状の財務状況から、役員報酬のカットに加え、従業員の給与・賞与も当面2年間の期限付きでカットすることとした。

2. 既存事業の構造改革
 本業である卸売事業の収益力を向上することは、再建計画の大きな柱であり、プロジェクトチームはこの検討に最も力を注いだ。
 計画策定方針に定めたように、確実性の高い施策を検討すると共に、将来の成長基盤である顧客・チャネルを守りつつ攻めに転じる先行投資をするという多面的な施策を織り込んだ。

①物流体制の刷新によるコスト削減
 卸売事業において、物流費は主要な費用の一つであるが、物流構造にメスを入れた改革は長い間行われていなかった。
 現在の物流拠点網は、売上がピークの頃に合わせて築いたもので複数に分散し、倉庫内設備等も老朽化して人手を要する非効率な業務が多く残っていた。

 労働集約型の物流関連業務は、将来ますます人材獲得が難しくなり、物流費も増加傾向が続く見通しであることから、物流構造を抜本的に見直すと共に、効率化のための投資を行うことでコスト削減につなげていくべきだとプロジェクトチームは考えた。
 具体的には、4か所の物流拠点を2拠点に集約して配送効率を高めること、そしてその2つの主力倉庫内に最新の自動倉庫を導入し、自動ピッキングを基本とする業務効率化と物流要員体制の見直しを図ることとした。
 この施策には、5億円程度の投資が必要であり、約1億円弱の改善効果と合わせて事業計画に織り込むこととした。

②PB商品開発・販売(商品力強化)
 当初の事業計画では、「卸売業という枠組みの中でいかに粗利率を高めるか」という視点で、粗利の高い商品や顧客に絞り込む施策を継続・徹底することを重点としていた。食品加工分野への事業領域の拡大という方向付けはあったが、具体性に欠ける施策にとどまっていた。
 計画策定方針の一つ「既存の卸売事業にはこだわらない」も念頭に置きつつ、川上の分野にどのように関与すべきかを再検討した。その結果、収益率を向上させるには、粗利の高い商品を自ら創っていくことが今後重要であることを共通認識し、効果創出の時間的な猶予や実現性の観点から、PB 商品開発を重点施策とした。
 PB 商品開発は、数年来社内で検討し構想はできていたが、業績の低迷もあって踏み切れないでいた。事業環境を厳しく想定したことで、むしろ、社内にノウハウ蓄積のある積極策を併用していかないと打開できないとの合意が社内で得られ、計画を推進することになった。

 顧客ニーズ等の市場調査をもとに PB商品の付加価値を設定し、その実現のための具体的な課題とスケジュールを詳細に展開し、3年目までに PB 商品売上構成5%という目標を掲げ、売上数値等に反映させることとした。

取引先との協業による売上向上策の展開
 卸売事業の有力顧客である飲食業者からの受注も、コロナ禍の影響で減少が続くと予想された。加えて危惧されたのは、既存客が事業を縮小したり廃業することで、当社の事業基盤が将来にわたって損なわれてしまうことであった。コロナ禍が収束した際には、V字回復が成し遂げられるよう、何とか有力顧客を守りながら、自社の収支にも貢献する対策を講じなければならないというのが、再建計画の方針でもあった。
 この対応策をプロジェクトチームで検討した結果、取引先と協業でフードデリバリー事業(宅配事業)に参入することにした。当社が中心となってフードデリバリー事業を展開することで、顧客と共存共栄を図ろうとする施策である。
 取引先の中には、数年前から同事業に取り組み、A社も協力することで業績を伸ばしている先もあることから、他の数社が関心を持っていた。各社単独では取り組めないため、当社が卸売の立場からプラットフォーマーとなってとりまとめ役を担い、取引先に参加してもらうことで事業をスタートさせるのが現実的と判断した。
 A社は事業化のスピードが重要と考え、1か月程度でビジネスモデル(宅配商圏、宅配商品の価格設定、宅配のための配送網や配送方法、システム関連費用等)を詳細に構築し、事業計画として整えた。
 数か月の準備を経て、今期から主力エリアの数か所で試行を開始することとしたが、事業計画上では不確実性が高いため、必要コストのみを織り込むこととした。

自社独自の販路構築
 これまで卸売事業が本業であったが、市場がコロナ禍以前に回復するには相当の時間を要することを想定し、自社独自に販路を構築することで売上を維持・拡大することも検討の俎上にあがった。コロナ禍が収束しても、既存市場全体としては縮小傾向が続くことを想定して、川下志向を強めていきたいという方針も踏まえてのことである。
 プロジェクトチームでは、いくつか候補となるアイデアを出し合い、下記のような理由からインターネット通販事業を立ち上げ、BtoC 市場へ参入することとした。

● 巣ごもり需要からネット通販が一層伸長しているが、この傾向は続くとみられる
● 外出自粛等の影響で支出抑制されており、食についても「時にはお取り寄せで贅沢をする」と消費者意識が変化し、自社の得意なこだわり食材の調達力が活かせる
● 個人顧客に直販することで、把握したニーズ(調理のしやすさ、味等)を卸売事業の商品開発にも活かせる

 この施策は、全く知見の無い新規事業となるため、1年後から試行することを前提に準備を進めることとし、必要費用のみを事業計画に織り込んだ。

以上の検討を踏まえて、当初の事業計画の施策も活かしながら、新たな事業計画として、次ページの表のようにとりまとめた。

 これらの具体的施策を数値計画に展開した結果、コスト削減や資産圧縮による P/L・営業キャッシュフローの改善が見込まれる一方で、構造改革費用として約7億円強が必要となった。初年度から損益分岐点を低くしスリム化されること等から、 3年 目以降には黒字となる計画となった。
 そして、これらフリーキャッシュフローに金融機関への借入金返済計画・追加融資等の財務キャッシュフローを加味し、金融機関への新たな事業計画とした。
 また、金融機関への説明資料では、既存施策の継続・徹底となる施策と抜本的な構造改革施策とを明確に区分した上で、各施策の実効性・実現性がどの程度なのかも合わせて明記することに留意した。

(5) 金融機関との協議

 作成した新事業計画に基づいて、A社社長から金融機関に次のように説明を行った。
 「今期の業績が厳しい結果となった直接要因は、事業環境の変化に伴う需要の激減にあるが、そもそも卸売事業は恒常的に低収益率となっている。ここで何か抜本的な手を打たないと後手に回ってしまうと認識した上で、事業計画を見直した。固定費の削減や資産圧縮等の財務体質を改善する施策は、可能なかぎり講じたが、前向きな施策も手の打てる今のうちに取り組んでおきたい。私が先頭に立ち、全社一丸となって不退転の決意で臨むので、追加融資を是非お願いしたい。」

 これを受け、金融機関からは、
 「刷新された計画について、抜本的な構造改革を含めたものとなり、実施しなければならない施策の内容とその確実性につ いて理解が深まった。その結果、 計画数値の実現性も高まり、 信 頼できる計画となったと感じる。これから施策を御社で実施していくことになるが、我々も実施状況がどのようになっているかモニタリングしたいので、その仕組みをしっかり整えて欲しい。」と、新事業計画に対する一定の評価と追加要請とがあった。

(6) PDCAサイクルの強化

 これまでA社では、月次の PDCA は予算に対する実績対比とその原因分析を行っていたが、中計や年度計画で打ち出した施策についての効果検証は、半期に1回しか行っていなかった。
 PDCA サイクルを導入した当初は、四半期に1回振り返りを行い、対応策を練った上で次の四半期で実施するようにしていたが、次第に形骸化してサイクルも長くなり、現在に至っていた。
 今回検討した事業計画は、主要施策の実施や投資、返済計画や資金繰り等が月次で展開されており、遅延は許されないため、きめ細かく PDCA サイクルを回す必要があるとプロジェクトチームは考えた。
 事業計画の施策については、毎月の経営会議で進捗状況のレビューを行うこととし、曖昧になっていた担当責任者の明確化や KPI 項目及び目標の数値の設定も、すぐにプロジェクトチームで検討した。

 最終的に、A社は金融機関からの追加融資を得られ、構造改革を含めた新事業計画を実施推進していくこととなった。

2 再建計画策定の留意点

(1) 特殊要因は除いて、冷静に現状を把握する

 コロナ禍という急激でかつ先の見通しが立てにくい環境変化は、現状認識を見誤らせる。
 A社のように業績低迷傾向にあった企業でさえ、環境変化は特殊要因だと考え、自社が再生に近い状況に陥りかけていることを認識できない場合がある。そして、環境が想定と異なったという外部要因を理由に、必要な構造改革に踏み込んでいない経営計画を策定してしまう。
 これでは窮境を脱することはできないし、金融機関からの信頼も損なわれる。

 コロナ禍のもとでの再生計画に限らず、「本当に自社の事業は大丈夫だろうか」といった冷静さで現状を見つめ直し、窮境の要因を正しく把握することが再建計画の基本であり、金融機関との対話の第一歩でもある。

(2) 中期的な時間軸ではなく、眼前の着実な計画を

 A社が最初に金融機関に示した計画は、中期的に何を目指すかといった社長方針のもとで策定された事業計画で、具体性の欠ける施策も含まれていた。
 中長期的なビジョンや目指す方向性を指し示すことは経営にとって大事なことである。しかし、業績が悪化し苦境に陥っている状況の中では(あるいはもっと厳しい再生の局面では)、最重要なことではない。
 「実現性の高い、地に足の着いた施策がどれくらいあるか」「その効果はどのくらいか」「その結果として、会社全体の業績や資金繰りはどうなるのか」といった確実な経営計画が必要である。それがあって初めて社員も一丸となって取り組む覚悟ができ、金融機関としても支援ができる。
 特に、コロナ禍という特殊な状況下では、計画の初年度の確実性がより一層求められる。

(3) 過去の環境を前提としない

 現状認識と同様に、これからの事業環境をどのように捉えているかによって、再建計画の内容が大きく異なるものとなる。
 A社の当初計画のように、いつかは事業環境も戻るだろうという前提で、業績も徐々に回復するといったストーリーで作られる計画もある。事業規模が小さい会社は、経営資源の制約もあり、既存事業からの方向転換等の抜本的改革を行いにくく、このような計画となることが多い。

 現在のコロナ禍については、いつ収束するかの予測は困難であり、収束時の回復スピードも通常より早いとの見方もある。また単純に需要が減少しているのではなく、新たな顧客ニーズや商品・サービスの利用方法が変化する等、その後の市場が変貌していることも考えられる。
 コロナ禍という特殊な状況下では、計画の確実性を高めるためにも、過去の環境は前提とせずに計画を策定すべきである。

(4) 事業基盤を毀損しないように次の手も考える

 コロナ禍の収束の予測は難しいが、いつかは必ず収束し、人々の経済活動や消費が回復した将来がきっとくるであろう。今できることは、収束後に備えてどのような施策を実行・準備しておくかということである。
 通常の再建計画においては、これまでの生産拠点や営業拠点の縮小、それに伴う人員削減等、企業規模を縮小して身を縮めるための固定費削減が施策の中心になることが多い。
 この点はコロナ禍における再建計画でも同様だが、加えて収束後に備えて、次を見越した施策を打ち出しておくことも重要である。

 A社は、自社の卸売業としての領域を越えて、「最終消費者にどのように食事を提供していくか」という視点から考え直し、取引先と協業することとした。また、従業員にも給料削減で我慢を強いたが、人員整理を行うことはしなかった。
 アフターコロナに備えて、自社の事業基盤を守っておくという方針のもと、最重要の顧客と社員を守ることを重視した結果である。
 足元を守りながらも攻め、将来の成長の糧を守っておくという観点から考え抜いた施策であった。

(5) 最後は、人と人との信頼関係

 コロナ禍という特殊状況に限らず、再建計画とは「経営者と債権者との間での信頼関係」を築き直すことでもある。

 金融機関は、再建計画の内容と共に、経営者の力量を推し量 っている。自社の置かれた状況についての認識の仕方、窮境に陥った原因分析の的確さ、再建計画の内容と推進に対する決意等を見て、信頼に足る人物かを総合的に判断している。
 また、金融機関は、経営者の想定以上に、「もっと早い時点から」「もっと厳しく」経営者を評価していることを念頭に置く必要がある。

 再建計画の策定を通じて、不退転の決意で実現性の高い施策を示すこと、その過程での謙虚で誠実な姿勢、そして最終的には実績を出すことが、信頼関係の再構築につながっていくことを肝に銘じなければならない。