JMS 日本経営システム

経営シリーズ

  • 経営戦略・事業計画

環境変化が大きい時代の中期経営計画策定

No.618 | 2021年10月号

今月の視点

中期経営計画は、現在から将来にかけての環境変化の洞察に基づいて会社の目指す姿を明確にし、それを実現するための課題にどう取り組むかについて、会社の意思決定を示す計画である。全社が一丸となって進むべき方向を指し示す羅針盤となる。
今、中期経営計画を策定するにあたっての前提に大きな変化が生じている。新型コロナウイルスによってオンライン取引やリモートワークの進展等、数年先のことと予想されていた環境変化が前倒しで加速している。また、2030 年にゴールを設定したS D G s に代表されるように、企業を取り巻く社会的要請への対応が従来にも増して重視される状況になっている。
今月は、こうした非連続的な環境変化に直面し、新たな中期経営計画の策定に取り組んだ3社の事例を通じて、そうした際の留意点を考えてみたい。

1 中期経営計画の策定プロセスと環境変化

(1) 中期経営計画の検討ステップ

 中期経営計画は、中期的な会社の目指す姿とそれを達成する道筋を示す。経営トップは、現状の基本認識と環境変化の見通しに基づいて目指す姿を見定め、それに向けて変えたいことと、取り組むべき重点施策という会社の意思決定を示す(図1)。そして、計画をもとに社員のベクトルを揃え、今を変える動きを作り出すことを狙いとしている。計画策定は経営トップが中心になって、図2のような検討ステップで進めることが多い。

(2) 中期経営計画の立て方

 中期経営計画の立て方は、事業環境の変化に応じて毎年計画を見直す「ローリング方式」と、計画期間の途中では見直しをしない「フィックス方式」の2つがある(表1)。

 中期的な方向性について全社のコンセンサスを維持する観点からは、計画を頻繁に変更しない方が望ましい。この面では、フィックス方式が適している。一方、環境変化に順次対応していくためには、毎年計画を見直していくローリング方式が適している。両者の特性を踏まえて、中期経営計画の目的に合った選択をすることが重要である。

(3) 非連続的な環境変化

 将来の事業環境を予測することが難しくなり、様々なシナリオを想定しておくことが大切と以前から言われているが、昨今はこれまで想定していなかった程の急激な変化が生じている。

①コロナ禍による変化の加速
 100 年に一度のパンデミック「新型コロナウイルス」は、私たちの生活や企業の事業環境を大きく変えた。振り返ると、リーマンショック、東日本大震災等、想定外の大きな変化は過去にも生じてきたが、特にコロナ禍は広範囲に影響を与えている。巣ごもり需要、オンライン取引、リモートワーク等、生活様式の変化がプラスに働いた企業がある一方、自粛生活やインバウンドの減少、経済活動の停滞等に伴い、売上や利益が落ち込んでいる企業もある。
 「何が」「いつまでに」「どのくらい」戻るか、もしくは、不可逆的な変化なのか、数年先を見通すことは難しい。計画の策定に際し、将来の事業環境を見通すことが、従来になく難しくなり不確実性が高まった。また、計画の実践中に環境が変化して当初の想定と異なった場合は、タイムリーに計画を見直さないと時代の流れに取り残されてしまう。

②SDGs/ESG等の社会変化の本格化
 SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みは、2030 年という達成時期に向けて機運が高まっている。例えば、脱炭素の取り組みや CSR 調達に対応しないとサプライチェーンに入り込めない、男女問わず会社を牽引している姿や多国籍な社員の活躍が伝わらないと採用面で後れを取る等、SDGs に向けた対応度合いが事業に影響し始めている。
 そして、SDGs(ゴール)に向けた企業の活動(プロセス)と言える「ESG」が、資本市場から注目されている。例えば、中期経営計画等に掲げる経営指標について投資家が重視する指標は、「利益」や「売上高」よりも、「資本効率」や「ESG 関連」が上位となる調査結果もある。中でも今は「E」のうち、特に気候変動にかかるリスク及び収益機会への対応が関心を集めている。例えば、コーポレートガバナンスコードの改定では、サステナビリティに関する開示について、特にプライム市場上場会社に対しては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフ ォース)またはそれと同等の国際的枠組みに基づいた情報開示の質・量の充実を進めるべきとしている。

 ところが、グローバルトップ企業として SDGs/ESG に対して先鋭的に取り組み、業界をリードしている企業がある一方、 SDGs/ESGについての本格的な事業準備が整わず、既に行っている社会貢献活動を SDGs/ESG の区分に照らし合わせて 再整理することに留まる企業や、中期経営計画においてSDGs/ESG をどのように位置づければよいか、試行錯誤している企業も多い。
 コロナ禍による生活様式の変化や SDGs/ESG の本格化に加え、デジタル化、モノからコト消費へのシフト、働き方改革、各種の規制変化等、企業を取り巻く社会の変化が進展し、人々の価値観にも変化をもたらしている。
時代の求める企業へと成長するためのヒントを得るため、環境変化が大きい中で中期経営計画を活かした3社の事例を以下にとりまとめた。

2 A社の事例

 A社は、食品包装材の製造販売業を営んでいる。品質第一のものづくりに努めており、計画に沿って着実かつ正確に事業活動を進めていくことが持ち味である。
A社事業の国内市場は、横ばいから微減傾向で大きな変化がなかったため、フィックス方式で3年間の中期経営計画を作成し、途中で修正するよりも計画をやりきることに邁進していた。

 次の中期経営計画の立案時期が迫る中、海外発端の化学物質規制、ペーパレス化進展等の市場変化にどう対応するべきかが話題に上り始めた。社長が危惧したことは、今までと同じように計画立案をすることによって、変化に対する根本的な対応で後手に回り、目標が達成できなくなることである。これまでは、一定の傾向が続く事業環境下にあったため、計画よりも実行に社員の目が行きがちであった。社長の危機感の背景には、事業の将来の方向に対して、社員の「考える力」が弱まっているのではないかという懸念があった。そこで社長は中期経営計画の検討にコンサルタントを起用することで外部からの風を入れ、社員の意識改革を図ることとした。

 社長は、A社の中核社員とコンサルタントとから成るプロジェクトチームを編成し、中期経営計画策定の検討を開始させた。

 プロジェクトチームは現状を確認し、将来の見通しを立てるために国内市場での主要顧客や取引先へのインタビューを行い、情報を収集した。すると、各社の対応にはばらつきが見られた。

<国内市場の主な企業の動向>
● 大口顧客が、一部製品で規制対応を仕入条件とする予定。また、脱紙化プロジェクトチームによる検討が本格化。
● 当社の販売先がその先にいる顧客から規制対応を要請されるケースが広がりを見せている。
● 一方、コスト面から対応が本格化していない企業も多い。

 プロジェクトチームでは、「環境変化を見通すことは難しく、今後3年間の製品開発や販売施策等を決めることには、大きなリスクがある」という意見が挙がった。

 また、営業本部長から「国内市場が縮小傾向にある中、新たな成長に向けて今のうちに海外市場戦略を見直し、代理店販売から直販への転換を進めておくことが必要である」という意見が挙がった。これはA社自らが市場環境を変える挑戦である。

 現在海外では代理店を介しているため、最終顧客のニーズや海外エリアでのA社の訴求点がはっきりと掴めていないことが、代理店や取引先の一次調査から分かった。そのため、「このまま直販への転換を進めても効果が期待できないのではないか」という意見も挙がった。それに対しプロジェクトリーダーは中期経営計画のコンセプトに「海外直販に転換するチャレンジ」を掲げて、前向きな取り組みの気運を高めたいと考えた。ただし、実効性を高めるために次の3点を条件とし、小規模に開始してリスクを最小に留める案を土台に議論を深めていった。

[条件1]事前の現地情報収集によるニーズの深掘り
[条件2]エリアを絞った段階的な直販への移行計画
[条件3]毎年の事業計画の更新

 このように、国内/海外市場ともに必要に応じて計画の妥当性を検証することが不可欠と考えられたため、1年ごとのローリング方式で計画を作成するべきであるという意見が中心とな っていた。しかし、「中期経営計画は3年かけて達成すべき目標と取り組みを定めるのだから、途中で変えるべきではない」という意見も根強かった。

 プロジェクトリーダーは、メンバーの意識が揃わないまま計画策定に取り掛かると、当事者としての主体性や意思が込められないと考え、立案方法を協議することとした。
 ローリング方式は、これまでのフィックス方式と比べて計画を立案する回数や業務負荷が増えるデメリットがある。しかし、計画をこなすよりも「考える」機会が増えることで部門責任者の責任感や問題意識が醸成され、一段と意思の入った計画策定に繋がるメリットがある。
 また、計画の実効性にもメリットがある。計画と実際との乖離を1年ごとに確認して将来予測を見直すことで、計画の前提となる事業環境の不確実性は低減する。そして、計画の施策展開では、2年目、3年目に改めて具体的な施策を見直すこととなる。これまでも年度予算は策定していたが、元の中期経営計画の焼き直し、あるいは中期経営計画とは切り離された足元の年度予算に留まることがあった。節目毎に将来想定を見直し、取り組みを調整することで計画の実効性を高めることができる。

 以上のようにプロジェクトチームでゼロベースから協議した結果、環境変化が激しい今は、柔軟性が高い「ローリング方式」の有効性が高まったという意見にまとまった(図3)。

 報告を受けた社長は「当社は国内市場での規制等への受動的対応、海外市場への挑戦という能動的対応、共に大きな変革の時代に突入する。計画を固定的に捉えるのではなく、環境変化に応じて迅速かつ的確に軌道修正する仕組みを大事にしたい」とプロジェクトチームに伝え、具体的な検討に進む指示をした。

 しかし、中期経営計画をローリング方式で策定する検討は簡単には進まなかった。直近1年間に焦点をあてた重点施策の検討ができるが故に短期的な改善に偏り、中期的な開発や育成の観点が疎かになってしまった。
 社長は協議の場を通じて「中期経営計画は会社の目指す姿を達成するために、ゴールから振り返って今取り組むべきことを示した未来起点の計画であること」を改めてプロジェクトに浸透させ、巻き返しを図った。
 プロジェクトチームは、中期経営計画における目標のさらに先にある「将来像」を明確にすることで短期視点から抜け出せると考えた(図4)。そこで、「将来像に向けた今年の計画」という位置づけを際立たせて毎年の軌道修正を図りやすいように将来像を具体的に表現することとした。

 「将来像」の表現は一般的な耳障りの良い言葉では響かない。プロジェクトチームは、A社の創立 30 周年を契機にこれからのA社の将来像を社員で話し合う集中研修を開催することとした。研修で挙げられた意見や社内アンケートの結果を踏まえて、「プロダクトアウトからマーケットインへの転換を目指す」という社長の思いを込めた「将来像」を設定した。朝礼で新たなA社の将来像を伝えてみると、多くの社員が社長からのメッセージとしてA社の将来像を感じ取ってくれた。
 次にプロジェクトチームは、将来像を社員が目にする機会を増やして定着させる「可視化」を試みた。毎日の朝礼場に掲載する、部屋にパネルとして置く、帳票や名刺に記載する等から始めた。プロジェクトリーダーは、 「将来像の視覚的な接点を増 やすことは第一歩でしかない。重要なことは部門をマネジメントする役職者が日々実践して社員に働きかけ、企業風土といえるまでに浸透させることだ」と風土改革の大切さを噛み締めた。

 最終報告会で、社長はプロジェクトを振り返り「不確実性の高い環境下ではゴールに向けて軌道修正する計画が有効である。市場の3年先を見定めることは困難であるため、当初計画を既定のもととせずに、市場変化が見られたタイミングで取り組みを切り替えていくことが重要である。そして、計画を活かすのは社員である。これまでより検討に時間を要したかもしれないが、中期経営計画の策定プロセスが社員のレベルアップに繋が った」と、今回の中期経営計画策定の進め方に自信を深めた。

3 B社の事例

 B社は鋼材販売事業を営んでいる。創業から物流の要所に在庫拠点を持ち、豊富な品揃えと「必要なものを 必要な時に 必要な数だけ」供給するジャストインタイムのデリバリーを武器に販売エリアを広げてきた。顧客は建築、工作機械、輸送機械、電気機械と幅広い業種に及ぶ。また、調達、販売ともに需給バランスによって価格が大きく変動する景気変動に敏感な事業である。昨今、貿易摩擦やDX の進展等の激しい環境動向の下、顧客業種の浮き沈みが数か月単位で変化していた。更に地域や顧客企業単位の構造改革や戦略変更が頻発していた。

 B社の直近の中期経営計画では、加工技術の強化による納期短縮と付加価値向上への転換により競争力を高める新たな戦略を掲げていた。しかし、B社の現場は今までの取引対応に重きを置いたままであり、加工技術の強化は遅れていた。社長は「環境変化を見据えて計画を立案しても、現場で計画を実践できなければ変化に対応できない」と危機感を募らせた。そこで必ず実践される計画になるよう策定方法を見直したいと考え、コンサルタントを起用し、プロジェクトチームを編成した。

 プロジェクトチームは、このような環境下の中期経営計画として何を重視すべきか という議論を重ね、①高付加価値製品群の強化、②顧客ニーズへのきめ細かい対応力の強化 に絞り込んだ。この2つを志向するには営業・商品企画、加工技術等、それぞれの現場単位での計画実行力、変化対応力が重要であり、次の2つを計画の両輪と位置づけた。

1.会社方針の展開と実行(構造改革)
2.現場単位のニーズ対応力の発揮(基本の徹底)

 次に、プロジェクトチームは組織長にインタビューを行い、計画の立案と運用における課題を把握した。すると、中期経営計画に対する組織長の腹落ち感の弱さが鮮明となった。直近では、経営管理部が各部門の計画立案を先導したことで部門計画を細かく設定できた一方、「計画のやらされ感」が組織長に蔓延し、モチベーションが下がっていた。組織長は、計画の腹落ち感が弱いことからこれまでの現場業務を優先し、新たな取り組みを後回しにしていた。

 これらを踏まえ、プロジェクトチームは次の3つに主眼を置いて改善に取り組んだ。

①方針展開
 立案時点で事業本部 → 部 → 課の順に現場業務を実践する組織まで計画を浸透させるためには、上位組織が下位組織の目標や取り組みを適切に設定する必要がある。重要なことは、組織の上下間で「何をどこまで/どうやって達成するか」について共有した上で、担当組織ごとに意思を込めた計画とすることである。そのために例えば上位組織と下位組織の間で取り組みが連動するように計画展開の仕方を工夫した(図5)。こうすることで、コミュニケーションを密にした計画作成には時間がかかったが、会社として一貫した行動に繋がる計画になった。

②各部門の主体的な計画づくり
 組織長の抱いた「やらされ感」の反省から、プロジェクトチームは「組織長が自分事として考えること」が計画を確実に実践するためのポイントと考えた。そこでプロジェクトチームが部門の計画を作り込むのではなく、計画の作成主体を組織長とする体制で臨むこととした。
 まず、プロジェクトメンバーは組織長の考えを文字や数字に起こす等の見える化から始め、組織長の参加意識を高めるプロジェクトマネジメントに努めた。組織長は自身の考えが社長を始めとしたプロジェクトの議論に挙がることを通じて、当事者意識を高めていった。組織長の気持ちに火がついた後は、計画立案サポートや全体調整がプロジェクトチームの役割となる。
 計画策定後、組織長は「プロジェクトチームが先導して計画を決めたら、早く作れたかもしれないが、進んで計画を実践する気になれなかった。また事業環境等の想定が変わった時に、自分自身で計画を更新できないかもしれない。自ら計画し、実践する大切さと責任を実感している」と振り返っていた。
 組織長が考え抜くことで、自分事としての計画立案に繋がった。

③PDCAサイクルの徹底
 PDCA の実践を促進するために処遇で報いる仕組み、例えば業績連動型の賞与原資を組み入れる賞与制度がある。プロジ ェクトチームはメリット/デメリットを検討し、組織長の当事者意識を高める仕組みとして制度を導入する方針とした。

<業績連動型の賞与制度の主なメリット/デメリット>

 ただし、課までは方針管理制度が徹底しきれていないこと、業績管理制度や特に若手社員の配属による不公平感を考慮した異動ルールが検討中であること等を考慮し、2年後までに仕組みを整えた後に業績連動型の賞与制度を導入することとした。

 これらの検討を経ることで、部門間で連動した計画が練り上げられた。組織機能や連携方法の議論にも発展する検討過程を見た社長は、B社の組織力が上向き始めたと実感した。

4 C社の事例

 C社は、東海エリアで合成樹脂の製造販売事業を営んでいる中堅企業である。地域に密着した社会貢献活動や地域行事への参加等、積極的に取り組んできた。
 昨年からC社の複数の顧客が CSR 調達を強化し始め、対応要請が強まった。この変化をきっかけに、競合企業による切替攻勢の話も聞こえてきた。C社は、これまでも環境配慮型の製品の研究開発や展開を行ってはいたが、SDGs/ESG の取り組みに対しては、業界他社の動向を当面は見守る姿勢であった。
 社長は SDGs/ESG を正面から捉える必要があると考え、次の中期経営計画において対応を盛り込む考えを示した。 SDGs/ESG と事業を直接関連づける検討は初めての試みであることと、取引先や競合他社の SDGs/ESG に対する取り組みの調査も必要であることから、社長はコンサルタントを起用してプロジェクトチームを編成した。

 プロジェクトチームは社内の SDGs/ESG に関する意見を確認することから取り掛かった。すると一部には「SDGs/ESGの取り組みはボランティアに近く、収益を稼ぐビジネスには直結しない」という意識を持つ組織長もいた。この意識がある限り SDGs/ESG に関する本格的な取り組みを開始することは難しい。プロジェクトリーダーは、社員の意識を変えるためには社長からのメッセージが有効と考え、社長へ報告した。
 社長はすぐに「SDGs/ESG の取り組みはビジネスのスタンダードとなる。足元の短期リターンを追うだけではいけない。企業にとって持続的成長は基本命題である。事業としてのSDGs/ESG への取り組み方を今から考えよう。それがこれからの当社の発展に繋がる」というメッセージを出した。すると、これまであった懐疑的な社内の声が一気に静まり、プロジェクトチームの気持ちが一つの方向を向いた。そして社長の強い意思と見守る姿勢がプロジェクトメンバーの検討推進の支えとな った。

 プロジェクトチームは、SDGs/ESG の視点からのベンチマーク調査やマテリアリティ分析などから取り組んだ。しかし、サステナビリティ課題の整理の後に、中期経営計画においてSDGs/ESGにどのように取り組むかという検討は難航した。自社の社会貢献活動に目が行きがちであり、また、自社の製造プロセスだけの環境負荷低減に留まったためである。これだけでは社長の思いに応えきれていないとプロジェクトメンバーは悩んだ。
 そこでプロジェクトチームは、顧客に近い現場感覚を持つ課長を中心とした分科会を企画することとした。今の現場目線の意見からヒントを得る狙いである。この協議を通じて生まれた「マーケットインの SDGs/ESG」というキーワードが議論を深めることに繋がった。「何を売るか?」というプロダクトアウトではなく、「誰に届けるか?」というマーケットインの考え方を事業におけるSDGs/ESGに適用するものである。 SDGs/ESG の検討範囲を「C社もしくはC社が生産する製品」から「(C社の製品を利用する)顧客の活動」に広げて、顧客が行う SDGs/ESG への取り組みに対して、C社が役割の一翼を担うという視点を持つことで、次のようにアイデアが出やすくなった。

<マーケットインの SDGs/ESG に向けたアイデア例>
(例1) 顧客の生産現場に廃棄や汚れが出にくい製品
    → 顧客の作業現場環境の改善
(例2) 顧客の総生産時間が短縮される設備・プロセス提案
    → 顧客の総 CO 2 排出や電力使用量の削減

 これらを通じて、プロジェクトチームは「マーケットインのSDGs/ESG」を計画のコンセプトの一つと位置づけた。

 プロジェクトチームは、施策を具体化するにあたって、その有効性を確かめるために、既存顧客に対して事前提案を試みることとした。提案をきっかけに、顧客から SDGs/ESG の取り組みを中心とした相談を持ちかけられる機会が生まれた。提案先の中にはその先の顧客に向けて、SDGs/ESG を切り口とした共同提案を図るプロジェクトを持ちかけてくる企業もあった。これらを通じて営業部長は「顧客にとって当社は単なる業者ではなく、お互いがビジネスパートナーであることを再認識する機会になった」と話した。プロジェクトチームは、この機運はC社個社だけではなく、C社を取り巻くサプライチェーン全体の SDGs/ESG の進展に繋がっていくと捉え、計画立案及び実践に向けた決意を新たにした。

 報告を受けた社長は「たとえすぐに収益に直結しなかったとしても、企業活動を通じて SDGs/ESG に取り組むというメッセージを発信して行動することが重要だ。全社一丸となって取り組むためには、会社としての経営計画に SDGs/ESG の要素を込めて立案することが有効である。硬直化していた市場では価値観や規制の変化にこそチャンスがあり、主体的に取り組んでいきたい。マーケット全体視点から SDGs/ESG の取り組みに挑戦していこう」と伝え、プロジェクトチームの検討に弾みがついた。

5 留意点

 環境変化が大きい今は、これまでの踏襲が通用しなくなる時代と言える。持続的な企業成長に向けて、実効性のある中期経営計画を策定するためには、特に次の3点が重要である。

(1) ゴールを見つめたローリング計画

 環境変化が大きい中、ローリング方式による計画の有効性が高まっている。事業環境の不透明さに対し、短期的な検証を行うことで予測の難しさをカバーする。2年目以降の計画の不確かさに対し、見直しを毎年行うことで実効性を高める。これらによって、環境変化に柔軟に対応していくことができる。計画を更新することを前提とするため、業務負荷は大きいが、社員の考える機会が増加し、事業展開や組織運営の方向性に対する意識が向上する。この意識の向上が社員のレベルアップに繋がり、自ら環境変化を捉えて繰り返し変革を続けられる企業体質を創る。
 その際、施策内容が現状に寄り過ぎないためにA社が行ったように、中期経営計画の先にある「将来像」を明確化し、達成に資する計画策定を徹底することが重要である。環境変化を確認しながら、節目で将来像に向けた軌道修正を行うため、中期経営計画をブラッシュアップすることができ、ゴールに向けて着実に一歩ずつ近づけることができる。

(2) 市場に近い現場でのPDCA

 計画が実践に繋がってこそ、企業は環境変化に対応できる。組織長が「与えられた計画」という受け身となり、腹落ちがなければ、主体的に計画を実践できない。環境変化に対応するための計画を立てても、実際の変化が生じた際に後手に回ってしまう。B社が行ったように計画立案時から、計画を実行する組織長が自分事として取り組むための工夫が欠かせない。
 環境変化の予兆は市場に近い現場にある。中期経営計画をもとにして、現場レベルできめ細かく PDCA を回す「計画の行動化」があって初めて環境変化に対応した中期経営計画の実践となる。

(3) 環境変化に対応した意識改革

 SDGs/ESG は社会貢献を掲げる企業にとって重要な要素である。しかし、すぐには企業収益に直結しない場合があり、社員の捉え方に温度差が生じることがある。また、数年の間に資本市場での注目度が高まり、対応に悩んでいる企業もある。そのような時、経営トップの意思表示が社員を一つにする。
 市場における価値観や規制の変化などのパラダイムシフトに対し、社員の意識を改革していくことが、変化をチャンスに変えるための条件となる。
 また、SDGs/ESG の取り組みは個社だけでなく、業界規 模の課題である。それには、マーケットインの視点を持った上で、能動的に考える姿勢が必要となる。例えばC社のように、自社の社会貢献活動だけでなく、顧客の事業活動におけるSDGs/ESG などサプライチェーン全体まで視野を広げることも一案である。そして、SDGs/ESG に関する散発的な取り組みに留めず、会社の意思を示した経営計画に SDGs/ESG に対する方針を明示し、全社一丸となって取り組むことが重要である。
 企業活動として SDGs/ESG の取り組みを推進することで、時代の求める企業としての持続的な成長に繋げていかなければならない。