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経営シリーズ

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運用を見据えた人事制度の改定

No.622 | 2022年2月号

今月の視点

 人事制度の見直しは、会社にとって重要な経営課題の一つである。改定の際は、現状の問題を網羅的に洗い出し、それらを目的に沿って解決するのが基本的なステップであるが、積年の問題を一気に解決しようと完璧を期するあまり、制度が必要以上に複雑になり、社員の理解や制度のメンテナンスが困難になってしまうことがある。
 人事制度改定は、社員の意識を変え風土改革を図る又とない機会なので、制度として完璧であっても、社員の腑に落ちない仕組みでは、本末転倒である。
 逆に、社員への影響の大きさや制度運用の負荷を考慮するあまり、現行制度を思い切って変えることができないと、それもまた問題の根本的な解決につながらない。
 制度改定の目的に見合った仕組みと、運用やメンテナンスのし易さとのバランスが重要になる。
 今月は、この点を、A社の事例を通じて考えてみたい。

1 A社の事例

(1)人事制度改定の背景

A社は、従業員千名超の化学製品メーカーである。十数年前に競争が激化して業績が悪化し、立て直しをはかった。中央集権型のトップダウンの組織運営のもと、事業の選択と集中が果断に行われ、業績は回復した。

今後、事業基盤をより強固にしていくために、付加価値の高い商品の開発、製造・営業・開発の連係による国内顧客との強固な関係づくり、 海外市場の一層の開拓等が、 事業推進上の重要課題であった。

しかし、経営立て直しの間、中央集権型の組織運営が続いていたため、管理職が自ら判断すべきことも指示待ちになり、現場での改善や関係部署間の調整等の場面で、リーダーシップを発揮する人材が少なくなっていることが問題になっていた。

また、 業績が悪化した際、 人件費を抑制する目的もあって成果主義の人事制度を導入し、 10数年間マイナーチェンジを繰り返しつつ、 現状と合わなくなった部分は、 運用で何とか対応している状態にあった。

厳しい業績の中で、目標達成度をとりわけ重視した仕組みだったこともあり、困難な目標を立てて挑戦するという意欲が喚起されにくく、努力・工夫したプロセスを評価に反映しにくいルールのため、頑張っても報われないという気持ちを抱く社員も多かった。

また、他部署の成果につながることに積極的に協力しても、自分の評価につながるような仕組みになっていなかったため、部門間連係が不可欠な全社的な課題が、取り上げられにくい状況であった。

社長は、こうした状況が社内の活力を低下させることを危惧していた。とくに、諸課題に取り組む際のチャレンジ精神の発揮、関係部署間の積極的な連係の必要性を強く訴える必要があると考え、社員の意識・行動改革につながる施策を矢継ぎ早に打ち出した。

その一つが、人事制度の抜本的な見直しである。これまで、抜本的な改定をしなかった制度を大きく変えることで、会社が変わるべき方向を示し、社員の意識改革につなげることを企図していた。

A社では、大きな制度改定は久しくなかったため、人事部を中心とするプロジェクトチームにコンサルタントを加え、検討を進めることとした。新人事制度の導入・定着を円滑に進めることを考慮し、プロジェクトチームには、人事部長から新入社員まで幅広くメンバーを選任した。

(2)現状分析・課題形成

まずプロジェクトチームは、人事制度に関するアンケートを実施し、広く問題意識の把握を行った。

並行して現行の人事諸制度の点検や運用の実態を把握した。具体的には、評価結果の分布状況、評価結果のフィードバック実施状況、給与・賞与支給額の分布状況、採用・離職の状況等を、データ分析や関係者インタビューを通じて把握した。

その結果に基づき、人事制度改定にあたって対応すべき主な課題を以下のようにとらえた。

1)管理職・専門職・職場リーダーの役割の明確化

複数の役員が、管理職が組織マネジメントをきちんと行えていない点を危惧する意見を述べており、さらに社員アンケートでは、専門職や職場リーダーの中に、担当業務が役職に見合っていない社員が少なからずいるという意見が多かった。

制度面では、等級基準としての「職能要件書」に対する問題意識が多く寄せられた。職能要件書は、製造、営業、開発については職種別・主要商品群別に、管理部門は、総務、人事、財務、経理、情報システムと、それぞれ細分化した職種別になっていた。しかし、長年見直しが行われなかったため、作成単位や記載内容が現状と合っていないところが多々あり、職能要件書が十分に活用されないまま、かなり年功序列の昇格や役職登用の判断が行われていた。その結果、等級別の人員構成は、管理職の最下位等級と、非管理職の最上位等級の人数が多く、 45才以上ではこの2つの等級の人数が7割
を占めていた。2つの等級に対応する役職は、それぞれ「課長代理」と「リーダー」であり、実際の職務と関係なく役職任用が行われた結果、担当業務と役職のずれが生じていた。

また、高い専門性を持つ社員を処遇するための専門職は、任用された社員は数名に限られていたが、実際には管理職の中に組織長でない役職者が多数おり、この中には専門スキルが高いことで評価されている社員もいて、 管理職と専門職の区別があいまいな面があった。

こうした状況を踏まえ、プロジェクトチームでは、管理職・専門職・職場リーダーの役割を明確にして、等級基準との整合性をとり、昇格や役職登用をその等級基準に沿って行っていく必要性を共通認識した。

2)役割に応じた処遇

給与水準が、担当職務の難易度や責任の重さに見合っていないため、頑張りがいがないと感じたり、昇格意欲が削がれるという意見も多く聞かれた。

原因の一つは、前述したように、等級基準に拠らずに年功的な昇格運用が行われていることや、役職登用が等級とは関係なく行われることにあったが、給与制度にも改善すべき点が認識された。

現行制度は等級間の給与レンジの重なりが大きく、上下の等級の社員同士で明確な差がつきにくく、逆転するケースも起きていた。

プロジェクトチームは、 新制度への移行時に人件費構造をスリム化
し、その後も年功的な運用に陥るのを避けること、難易度が高い仕事や高い目標に挑戦することを重視して意識改革を図ることの2つ
を主な狙いに、会社から求められる役割と役割に対する成果を評価して処遇に反映する仕組みに移行することを改善構想とした。

3)チャレンジ・組織連係を促進する多面的な取り組み

チャレンジや組織連係がより活発に行われる風土にするには、各部門が果たすべき使命や役割が明確になっており、その役割を果たすため様々な仕組み・ルールが整っていることが必要である。この点については、人事制度改定に先立ち、次世代を担う中堅幹部で構成されるプロジェクトチームが、新たな行動規範を作成し、各部門において「自部門では具体的にどのような役割を担い、どのような行動をとるべきか」を議論するという方策がすでに進められていた。

また、組織連係をとりやすくするために、実際の事業展開上の重要課題に取り組むための組織体制・会議体・各種手続のあり方が別途検討されていた。

こうした多面的な検討の中で、人事制度には、チャレンジや組織連係を積極的に行う意識を喚起することが求められており、制度設計にあたっては、下記の点が重要だと共通認識された。

・ 求める人材像、役割を定義するにあたり、チャレンジ、組織連係を要件として盛り込む

・ 管理職は、部下が目標設定やその達成方法を考える際、チャレンジや組織連係重視を指導することを要件とする

・ チャレンジ、組織連係の行動は、評価の際のウェイトを大きくし、取り組み意欲を喚起する

4)より客観性の高い評価

人事評価は、業務目標達成度評価と行動評価で構成され、評価者が両者の結果を踏まえて総合評価ランクを判断する仕組みになっている。

業務目標達成度評価は、運用の中で各部門が独自に項目や基準の追加・修正を重ねてきたため、全社で統一されたルールや考え方に基づく運用が、されなくなっていた。

行動評価は、目標達成のためのプロセスを評価することになっていたが、基準が具体的でなかった。また、目標達成度とプロセスのどちらを重視するかが上司の裁量に任されていたため、業績が厳しかったこともあり達成度主体の評価に偏っていた。

評価ランクの分布を調整するために、ランク別構成比の目安が示され、評価者がその構成比を意識して評価ランクを分散させていたため、被評価者に対して事実に基づく適切なフィードバックはほとんど行われていなかった。そのため、評価に納得がいかないという声が多く、評価結果を成長や改善につなげにくい状況にあり、改善が必要であった。

(3)新人事制度の基本方針

プロジェクトチームは、現状分析から得られた主要な課題に対応するため、改定後の新人事制度がどのような要件を備えているべきかを検討し整理した。

このように、現行制度から変えるべき要件を整理したうえで、改めて今回の人事制度改定の基本方針を、以下のように整理した。

ここでいう「役割」とは、会社が社員に期待することであり、経営目標を達成するために、組織階層ごとの役職に応じて社員が責任をもって果たすべきことを意味する。

明示する役割の内容は「どのような人材を求めているか」を社員に伝えるメッセージであり、そうした役割を果たせるように、社員のレベルアップを後押しし、役割に応じた貢献ができている人を高く処遇するといった仕組みにすることで、社員が常に「役割」を意識して行動することを促していこうというものである。

このように、これまで能力を等級基準のベースにおいた人事制度
から 「役割」 を軸にした制度にすることを、 強く打ち出すこととした。

(4)制度の再構築

次にプロジェクトチームは、基本方針に基づいて新制度の設計に着手した。

等級制度、評価制度、給与制度の整合をとりながら、制度全体の骨格を検討したうえで、それぞれの制度の詳細な設計を行った。

1)等級制度

①等級基準

各等級の定義を「役割」に基づいて刷新することとし、職種区分と等級の数を見直した。

現行制度のように、職種を細分化した詳細な基準にすると、メンテナンスが難しくなり、いずれ使われなくなってしまう懸念があるため、今回の改定では、全職種共通の基準とし、等級も役割の違いが明確に区分できるように10段階から6段階へと見直した。

実際に担う役割は、 業務目標達成度評価と連動させ、 経営目標
を踏まえて各自で具体的に設定してもらうという仕組みである。

②昇降格基準

基本方針段階で検討した等級基準の要件に基づき、昇格基準を見直し、新たに昇格試験を設けた。昇格可否の判断においては、現等級の役割が十分果たせていることを前提に、上位等級の役割を果たすことが期待できるかどうかも合わせて判断する「入学方式」とした。

昇格基準を厳しく見直すにあたっては、検討当初以下のような2つの懸念から、現行制度から大きく変えるべきではないという意見のメンバーも多かった。

A) これまで、キャリアモデルの提示や教育研修の実施等が十分ではなかったにもかかわらず、昇格基準を一度に厳しくすることについて、各部から批判が出るのではないか。

B) 試験を新設することで、人事部の負荷は増えるが、現実的に運用が可能なのか。

こうした懸念に対して、人事部長は「新設する昇格試験は、役割を担えるかどうかを客観的に測るもので、これは昇格の有効な判断材料である。昇格運用を厳格かつ公正に行わないと、元の木阿弥となってしまう。批判が出かねないことや、人事部の負担が増えることは想定しているが、目的が達成できるよう、できる限りの対策を講じながら取り組みたい。」との固い決意を示した。

プロジェクトメンバーの多くが「どう改善するか」「それは現実的にできるのか」という観点からの議論にやや陥っていたが、改めて以下の視点で検討を再整理した。

A)改善目的は何か

B)改善目的を実現するための手段は何か

C)その手段をとることでどのような影響があるか

D)その影響を回避する方法はあるか

その結果、上述の昇格制度に変更することとし、例えば新たに設ける昇格試験の実施運営には外部業者を活用するなど、人事部の負担増をできるだけ抑える方策を検討した。各部に対しても、今回の改善目的を丁寧に説明し、意識改革を促しながら理解を深めていくことにした。

2)評価制度

評価制度については、現状把握で確認したとおり、各部で異なる運用をしていることで公正さが損なわれている点や、社員の不満の多くが、評価の納得性に対するものであることなどが分かっていた。

基本方針の検討段階では、目標達成度評価と行動評価とで構成される現行の評価制度の枠組みを継承する方向で整理をしていたが、制度設計の段階に入り、プロジェクトメンバーから「目標達成度評価を継続することがよいのか、原点に帰って議論しておくべきだ」という問題提起があった。部門によって運用の仕方に違いのある目標達成度評価を廃止し、評価制度を刷新した方が全社に浸透させやすいという意見が、プロジェクトメンバーの中に多かった。

コンサルタントは、現状を前提に存廃を検討するのではなく、人事制度の基本方針を実現するために何を評価すべきかに立ち戻って、検討を進めることを提案した。

目標達成度評価に不満を持つ社員の多くは、評価の判断基準が具体的でないため、個々の社員の理解に差が出てしまう点や、評価者の裁量余地が大きく、甘辛が生じてしまう点を理由に挙げていた。これを解決する方法は、2つ考えられた。

A) 評価基準やウェイト等の評価ルールを明確化して、評価者による甘辛を極力減らすこと

B) 評価者研修を定期的に実施して評価者の教育を行い、レベルアップを図ること

まずはA) の詳細な基準やルールを検討し、作成した評価制度の原案をもとに一部の社員と協議したところ「これほど大変な仕組みになったら実施できない」「評価に時間がかかりすぎて日常業務に支障が出る」といった声が噴出した。プロジェクトチームにとって想定以上の反対であったが、人事部長は「評価に対する納得性を重視して、これまでよりも丁寧に取り組むことが必要であるため、評価者にも負担がかかることは承知している。けれど、公正で納得性の高い評価は、役割を重視して挑戦意欲を喚起していくうえで不可欠のものである。制度・ルールの簡素化余地は引き続き検討するとして、現場に理解してもらえるように、繰り返し説明しよう」と決断した。

プロジェクトチームは、例えば「目標の難易度判定」の簡素化や、工場勤務の社員向けには、業務実態に即して評価項目を絞る等、評価者の負担軽減につながるいくつかの工夫をしたうえで、改めて各部門と協議を行い、何とか実施にこぎつけることができた。

3)給与制度

役割に応じた貢献ができている人を高く処遇することで、社員に常に「役割」を意識することを促すという基本方針を具現化するため、給与レンジの重複を無くし、役割の軽重と給与水準を一致させた。

これによって、昇格昇給が必ずあり、早く昇格すればその額も大きくなるため、重要な役割を率先して担う動機づけが図れる仕組みとなった。

新制度への移行に際しては等級の再格付をせず、新旧の等級対応ルールに沿って、そのまま移すことにしたため、新等級基準に見合った役割を担っていない社員が少なからず出現することになったが、毎年の評価を通じて、妥当な等級に2年かけて移していくことにした。

今後は、 果たした役割を厳正に評価し、 毎年の等級内昇給や昇格昇給に反映することで、個々の社員の給与水準の妥当性や会社の人件費構造の健全性を維持していくことが共通認識された。

2 改定の目的を制度に落とし込むために

制度を見直す目的と運用とのバランスを取りながら、検討を進めるための留意点を整理してみたい。

(1)問題を見極める

人事制度は、等級制度や評価制度など、いくつもの制度が密接に関連しているため、見えてきた問題を一つひとつひも解きながら本質を見極めることが重要となる。そのためには、以下のポイントに留意して現状を確認する。

1)何がどのように問題なのか

人事制度に関しては、経営者や社員のインタビュー、アンケートなどから様々な問題提起がなされるが、解決しなければならない問題をしっかり定義することが大切である。

・ それは、なぜ問題視されているのか

・ 放置するとどうなるのか

・ 客観的・定量的に見たときに、どの程度重い問題か

という視点での確認が重要である。

2)その問題の発生原因は何か

問題の背景にどのような要因があるかを的確にとらえていないと、効果的な対策が打ちにくい。人事制度に関連する問題には以下のような発生原因がありうることを念頭に置いておきたい。

・ ありたい姿が不明瞭、または、共通認識になっていないことに要因がある

<例>

-「何をすることがチャレンジか」「なぜチャレンジが必要か」について認識がそろっていないため、経営者から見て社員の行動が物足りない

-評価結果を人材育成に活かす評価者の意識が欠けているため、フィードバックが行われない

・ 組織運営に要因がある

<例>

-管理職層が保守的であるために、チャレンジングな提案が通りにくい風土になっている

-経営計画からの組織目標・個人目標への展開や、企画部門の調整が不十分なために、設定する目標のレベルにばらつきが生じる

・ 人事制度に要因がある

<例>

-チャレンジしてもしなくても、評価や報酬が大きく変わらないため、意欲が喚起されない

-二次評価者が評価を確定させるが、一次評価者と二次評価者の間で評価結果を話し合うルールがないため、一次評価者が自信をもって評価結果をフィードバックしにくい

・ 当事者の知識・スキルに要因がある

<例>

-被評価者がチャレンジングな取り組みにはどのような準備が要るのか、知識がないために行動に移せない

-評価者がフィードバック面接の留意点を理解していないために、納得を得られる話し合いができていない

3)その問題の影響がどの程度なのか

例えば、転勤免除制度の導入を検討する場合がある。制度化することで、転居を伴う転勤を望まない社員が、安心して働けるようにする狙いがあるが、制度が明示されることにより、転勤を望まない社員が増え、事業運営に影響が出ることなどが懸念される。これに対しては、転勤免除の適用を受ける社員の給与を抑えるなど、派生する問題への対応も必要となる。

以上のように、問題をいかに的確にとらえるかが、効果的な解決策の検討に欠かせない。問題を見極めることは、やるべきことの見極めにつながる。

(2)制度改定の背景と目指すものを人事部の中で共有化する

人事制度改定は「なぜ今制度を変える必要があるのか」「制度改定を通じて何を目指すのか」を明確にしておかないと、対症療法的な対応や、社員への影響を懸念し過ぎて、現状から大きく変わらない対応になってしまう。

目指す姿は全ての社員で共有すべきものだが、 殊に制度を運用し
ていく人事部の担当者の間で、繰り返し確認することが大切である。

A社の場合、プロジェクトチームには新入社員を含む担当者レベルの社員も参画して検討を進めていた。そのため、プロジェクトチーム自体が大所帯となり、意見の集約に時間がかかる場面がしばしばあった。

しかし、設計を終えた段階では、なぜこのような基本方針を掲げたのか、なぜこのような制度設計としたのかを、メンバー自身が実感を持って理解できていた。そのため、社員説明会での説明は円滑に進み、運用に落とし込む検討でも制度の趣旨を捉えた運用方法をそれぞれが考え出し、具体化することができた。

人事部門の日常業務を抱えて検討に参画することは大きな負担を伴うが、参画できなくとも、制度の中身とそこに至った考え方を繰り返し伝えることで、 担当者の理解を促進することが望ましい。

(3)実現したいことの優先順位をつける

現状分析などで問題が見えてくると、この機会に一気に解決しようと考え「実現したいこと」をあれこれ制度に詰め込もうとする議論になりやすい。例えば「年功的な処遇を排したい」「評価にメリハリ(格差)を付けたい」「評価の納得感を高めたい」等の考えは、人事制度改定の時によく話題になる。

このような場合「年功的」「メリハリ」「納得感」といったものが、それぞれ“何がどのようになっている状態か”を具体的に共有しておくことがまず重要となるが、これら全てを解決することが難しい場合が少なくない。実現したいことのうち、どの事項にどの程度対応するか、優先順位づけが必要になる。

A社の事例では、評価にメリハリをつけるために、当初は評価結果を相対化して調整することで評価を分散させることを検討していた。しかし、プロジェクトメンバーから「評価を調整された社員から見れば不公平感が出る。納得感を高めるためにも調整は行うべきではない」との意見が出され、「メリハリ」と「納得感」とのバランスをどうするかが議論になった。

この時、プロジェクトでは「役割に応じて処遇する」という考えに立ち戻り、どのような制度であるべきか検討を行った。その結果、「役割に対する貢献の度合いを確認するものが評価である。評価者と被評価者がしっかりと結果を確認して振り返るためにも、相対化による評価調整は行わない」こととし、評価基準通りの絶対評価による納得性をより重視した。

このような制度にすると、評価結果の偏りが発生し、全体的に高い評価が続けば人件費の増加を招きうる。こうしたリスクに対しては、これまで緩やかだった昇格条件を見直し、評価結果の良否に応じた昇給の上限額を変更する等の施策が、歯止めになると判断した。

このように、実現したいことに優先順位を付ける際には、最も優先すべきことは何かについて、羅針盤となる基本方針を持つことが大切である。当初から話に上っていたことでも、繰り返し確認して共有し、その意識を持って検討を重ねることで、やっと関係者に浸透していく。

A社で最も優先した「役割に応じて処遇する」という考え方は、検討の当初から基本方針に据えられていたが、検討を進める中で、役割に応じて処遇するということはどういうことか、なぜこの考え方が今回の改定にとって大切なのかが少しずつ明確になっていき、プロジェクトメンバーに浸透していった。