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コロナ禍を契機とした海外現地法人の再点検

No.623 | 2022年3月号

今月の視点

 
 コロナ感染の影響は、新たな変異株の出現など、まだまだ予断を許さない状況であり、長期戦が予想される。

 海外展開している日本企業は、人の往来が著しく制限されたり、現地の販売、調達、生産体制の変革を求められるなど、コロナ禍をきっかけに事業運営全般を見直す必要に迫られている。

 また、コロナ感染が直接の原因ではないものの、これまで手がつけられなかった根本的な課題を一気に解決する好機ととらえ、まさに、災い転じて福となす取り組みをしている企業も少なくない。

 今月は、タイに進出して現地化を目指す生産財メーカーの事例をもとに、コロナ禍を契機に海外現地法人経営を見直す意義と留意点を紹介したい。

1 A社の事例

(1)事業の概要

A社は、関西に本社を置く生産財メーカーであり、日本の製造業を主要顧客とし、創業以来の開発力と顧客ニーズへの迅速な対応力により発展してきた。

主力製品は、国内で高い市場シェアを有し、顧客の要求に応じて製品を作りこむ技術力と品質への信頼性に加え、トラブルの際には、自社の技術者がすぐに駆けつけるアフターサービス体制が顧客から高く評価されてきた。

この強みを生かす経営を実践してきたA社ではあったが、日本企業のアジア生産シフトが顕著になった1980年前後から国内市場が伸び悩み、国内売上の成長は鈍化し続けていた。

A社の海外への取り組みは、1990年代、韓国や台湾で現地の販売事業者との提携から始まった。A社製品の高い品質は東アジアでも認められ、特に韓国の販売会社はその拡販に積極的であった。こうした販売会社を通じた市場開拓が、東アジアにおけるA社の売上増に大きく貢献してきた。

その後、今度はアセアン地域の経済が発展し、タイを中心に多くの工業団地が形成され、日本や外国の製造業が進出した。A社製品販売の土壌が整いつつあることを社長は敏感に感じとり、次のような方針を示した。

「東アジアでの展開は提携戦略を取ったが、アセアン地域は日本からの物理的距離がより遠くなる。また、様々な国があり、当社製品に対するニーズも微妙に異なると聞く。国内の販売市場は成熟し、生産面でも人手不足や生産能力の限界があり、拡張の余地はなくなっている。今のうちに潜在成長力のあるアセアン地域に進出し、現地生産拠点を設け、地域に根ざした新しい事業モデルを構築したい。」

このような社長の思いを受けてA社内で本格的な海外進出の検討が実施され、A社はタイでの生産拠点設置を決めた。自社の強みを生かした事業モデルを構築して、ある都市近郊の工業団地に進出した。周辺には多数の販売候補先があり、日系企業も多く、他地域に比べ良好な労働市場が形成されていた。

(2)タイ現地法人の課題検討

① コロナショックの影響

A社が、タイに生産拠点を伴う現地法人を設立してから、10年近くが経過した。

当初は、顧客の多くが日系メーカーだったため、ニーズを反映した製品開発は本社の開発部門が行い、製造はタイの工場で行うというやり方で対応した。

こうした実績を重ね、顧客の評価を得たところで、非日系メーカーへの売上拡大に着手した。現地企業のニーズに対応するため、新たに現地の開発スタッフを雇用して製品仕様の見直しを行うとともに、原材料の現地調達を推進し、コスト削減を図った。試行錯誤を重ね、非日系メーカー向けの拡販に努めたが、目標売上がなかなか達成できない状態が続いていた。

こうした中、世界中にコロナウイルスが蔓延し、得意先や自社の経営に大きな影響を及ぼした。現地の間接部門は一部在宅勤務、現場の従業員は交代で出勤するなどの対応を迫られ、工場の稼働が大きく低下した。

感染拡大の影響が大きくなるにつれ、A社の製品やサービス内容への不満も強くなり、クレームに発展するケースが多発するようになった。具体的には、生産体制変更による納期遅れや、個別の修繕要望への不適切な対応、あるいは期待外れの修繕結果などアフターサービス上のクレームであった。

アフターサービスは、提携した現地事業者が担っていたが、顧客の工場で緊急事態が発生した際、コロナの影響で現場の対応人数を即時に確保できず、24時間即時対応を謳いながら半日近く対応が遅れたり、復旧にかなりの時間を要した。

業績にも影響が表れ、生産数と売上高の減少が顕著となり、稼働率低下による固定費率が上昇する一方、材料費の高騰から変動費率も高まっていた。

コロナという不可抗力が、急速な業績悪化の原因ではあったが、社長は、ここ数年の伸び悩みと根は同じところにあると考えていた。そこで、このコロナ禍をむしろバネにして、根本的な課題解決を図ろうと意思を固め、以下のような方針を示した。

「コロナによる影響のため、現地経営に支障が出ており、今後も大変厳しい状況が予想される。

ただ、このような状況だからこそ、隠れていた課題が顕在化してきたともいえる。非日系顧客の拡大もここ数年停滞しているが、原因は同じところにあると思う。この機会を現地経営の抜本的見直しの好機ととらえ、仕事のやり方を再点検し、有事でも現地のニーズに対応できる体制を再構築しよう。」

「これを一過性の問題として、コロナ禍収束までの対応方法と体制を整えるという面もあるが、そもそもより少人数で運営できる生産体制、トラブル発生の予防やユーザー側での初期対応が可能な環境などを整備すれば、リスクが顕在化したときの混乱をより小さくできる。そういう発想で根本的な課題を明らかにしたい。」

A社は、新たな事業体制を構築すべく、検討を開始した。

② 現地実態の把握

現地法人のスタッフと本社とが、協同で現地の状況を調査した。コロナ対策により、本社スタッフは現地に行けなくなったが、双方ともウエブ環境が定着し、日本からリモートで会議に参画してデータを分析したり、現法管理者へのインタビューを行うことで、現地で起きた事象の要因を分析できた。

最初の確認事項は、資材調達であった。現法開設当初、資材はほとんど日本から調達していたが、現地で製品を販売するため、より安い現地資材を使用するようになってきていた。しかし、調達先を詳細に分析した結果、現地日系企業からの高価格品の調達がまだ多いこと、現地企業の比較購買が十分にできていないことなどが確認された。最終製品の現地化率は高まってはいたが、まだまだコスト削減の余地が残されていることがわかった。

また、製造部門に関しては、生産現場の映像データや、受注時のデータ入力時間、生産時のトラブル対応時間、完成品の検査時間を集計したデータを本社スタッフが丹念にチェックしたところ、他社より高いと思っていた労働生産性が、むしろ低いことがわかった。

現地スタッフとこの点について話し合ったところ、そもそも“労働生産性”の定義が、現地スタッフの上長と日本人の管理者クラスの間で共有されていなかった。現場の指導は日本人スタッフが行ってきたが、生産性を示す数字自体の相互確認を怠っていたことも原因の一つであった。

同時に、これまではあまり使用してこなかったAIや、情報通信技術(ICT)などのデジタル技術の活用により効率化できそうな工場内業務が数多く洗い出された。

要となる製造部門は、他社よりも処遇水準を高くして優秀な人材を雇い、様々な改善活動を通じて現場の力を向上させたいと考えてきたが、こうしたデジタルツールの利活用の立ち遅れが浮き彫りになった。

アフターサービスに関しては、提携先の担当者にウエブインタビューを実施し、詳細を聞くことができた。現地のサービス体制は、日本でのトラブル発生状況を前提に組んでいたが、製品自体に起因するトラブル、顧客の運用に起因するトラブルともに日本より発生率が高く、十分に対応できていなかった。また、コロナ禍により、顧客企業に直接訪問しての、製品に関する十分な説明や技術支援もできなくなっていた。

③ 他社調査の実施

A社は、改善策を考える前に、現状分析で認識された課題について、既に現地に進出した他業界の日系企業の工夫を知るため、ウエブインタビュー調査を実施することにした。

各社が時間をかけて積み重ねてきたノウハウであり、簡単には聞けないという危惧もあったが、趣旨や聞きたい点を明確に伝え、得られたヒントは集約して共有するという条件で、取り組むことにした。

定評のある数社に的を絞りインタビューを実施したところ、長く現地で事業継続している企業は、進出直後から好調だったわけでなく、事業を安定させるための工夫を凝らしてきたこと、またコロナを契機に、新たに様々な改善に取り組んでいることが明らかになった。

【事例P社:現地サプライヤーとのつながりの深化】

製造業P社では、現地サプライヤーの技術開発に協力することで、彼らとのネットワークを構築してきたが、より高品質の資材開発のため、政府に申し入れて現地研究機関との産学連携を行うことで、良質の資材を確保して生産を安定させる環境整備に注力していた。

また、調達先の多様化を進めるため、共同研究の結果を普及させる活動を行った結果、各サプライヤーに開発ノウハウが定着し、資材の品質レベルも格段に向上したとのことであった。

個別企業の利害を超え、その地域全体の産業発展に資するという意識から、 最近では持続可能な地域づくりのためのSDGsを調達先との共同研究のテーマに設定するなど、常に地域の将来を見据えた取り組みを行っていた。

調達先の真の現地化を図りたいA社にとって、地域の複数のサプライヤーを指導育成するというやり方は非常に参考になった。また、コロナ禍の情勢においては、特定先からの原料調達はリスクが伴うため、調達先を多様化するという考えの重要性も再認識できた。

タイに進出して10年経過しているものの、現地調達比率の早期達成に目が行きがちで、現地企業への貢献や将来を見据えて取り組む意識に欠けていたことに、改めて気づかされた。

【事例Q社:生産業務の標準化と労働生産性の向上】

製造業Q社は、地域特有の労働者のジョブホッピングは止むなしという認識に立ち、人が入れ替わっても品質・コスト・納期が維持できるよう、徹底的な業務の標準化と生産性向上を進めてきた。

コロナの影響により、A社と同様、日本人スタッフは帰国していたが、オンラインで現地とのコミュニケーションを頻繁に行うことに努め、その中から、以下の現場の生産性向上の施策が検討されていた。

■工場内にモニターやセンサーを設置して、得られたデータから生産状況を見える化することで現地スタッフと認識を共有し、最適な生産体制の維持に役立てる。

■撮影した現場の状況解析により、頻繁に起こるトラブルの事前防止と対応の迅速化に結びつける。

■完成品の検査過程においてAI解析装置を利用することで、不良品判別を迅速化する。

■納期問い合わせ業務の省略や、ジャストインタイムでの納品を図るため、主要な取引先と生産の進捗情報を共有化する。

コロナ禍における、工場内で作業する人数制限や、作業者の間に仕切り板を置くといった制約を克服するため、現場の作業方法を繰り返し見直した。現場指導は、日本に帰国したスタッフがオンラインで作業を観察し、改善点を動画で伝えることで、離れていても緊密な対応がとれるようになった。

Q社は、さらなる標準化徹底のため、従業員に対して自社の経営理念や価値観を浸透させ、標準化の意義・重要性を自覚してもらう努力を継続している点が印象的であった。同社では、現地法人の操業当初から、毎朝従業員に対し、「顧客志向」、「品質の重要性」、「5Sの目的」等のテーマを設定し、自社の考えを伝える時間を多く設けていた。

直近では、コロナ禍を契機にして、本社と現地法人がさらに緊密なコミュニケーションをとるようになっており、頻繁に打ち合わせが開催され、本社幹部がグループの経営指針や今後の事業展開の方向性を、ウエブ会議で直接話すこともあった。

また、仕事や製品の品質を維持する上で、組織としての一体感の醸成も重視していた。

コロナ感染拡大の前後で比較すると、現地でも在宅で働く管理部門のスタッフが増えており、業務自体は遅滞なく行われていても、組織としての一体感を持たせるために新たな工夫が必要な状況であった。

工夫の一例として、タイ企業で頻繁に開催される社内旅行を現地スタッフがバーチャル化し、他の従業員は自宅からオンラインで参加できるようにしたところ、非常に盛り上がり、鬱々とした空気が随分解消されたという。Q社は、このような企画を重ねて、 組織の結束力が高まるのを実感できたとのことだった。

日本とは思想や文化が異なる場所での組織運営には、このような緊密なコミュニケーションをできるだけ多くし、時間をかけた話し合いが日本以上に大切なことを教訓として得られた。

アフターサービス体制に関しては、R社から参考となる話を聞くことができた。

【事例R社:現地でのアフターサービス体制構築】

R社は、国内では医療向け機器の製造大手で、病院や療養所に主に直販で製品を提供しており、日本で大きな市場シェアを占めている。タイの都市部で医療施設が増加していく中、大手病院に狙いを定めて現地進出を果たしていた。

病院で使用する故障が許されない製品であるため、アフターサービス体制の整備が重要であり、すぐに対応できる現地エンジニアの確保が不可欠であった。しかし、タイでは容易に技術者を採用できる環境になく、外注事業者数も限られていたため、進出当初は現地の体制をきちんと整備できなかった。そこで、販売量が限定され、赤字が続いていた時期にもかかわらず、敢えて本社からアフターサービス要員を重点投入し、自前の体制を構築することにした。現地採用のエンジニアが一人前になるまでは、サービス料を無料にするという、実に思い切った施策もとった。

これにより、サービス体制が強化され、充実しているという評判が口コミで伝わり、取引が拡大した。同社は、日本市場で発展してきた自らの強みをもとに、差別化のポイントとなるアフターサービスを一層徹底し、強固な顧客基盤を形成できた。現場に行きづらい状況の中、アフターサービスのスタッフが、スマートフォンやモバイルパソコンを活用して顧客フォローをきめ細かく行う仕組みを他社に先駆けて構築し、さらにシェアを高めているという。

総合建設業のS社も、進出当初、受注が伸びず赤字に陥り、このままでは人員削減を行わざるをえない中、現地法人の社長が、3年を期限に逆に営業要員を増員し、結果的に受注量を増加させたという話も、その場で聞くことができた。

今は順調な、こうした現地法人が、実は当初、なかなか成果を出せない状況にありながら、例外なく中長期的な視点で思い切った施策をとり、現地に受け入れられる努力を地道に積み重ねてきたことを教えられた。海外で成功をおさめるには、長い目で、現地に根ざした事業づくりと人づくりへの注力が重要であることを、改めて認識できた。

④ 今後の事業運営の基本方針設定

A社は現状分析の結果と他社の調査結果をもとに、現地法人の今後の事業の進め方について、以下の方針を設定した。

■方針1:真の現地調達のためのサプライヤー指導と多様化

○現地のサプライヤーから調達する資材の品質維持・向上と数量確保が、安定生産の重要なポイントである。この二つを実現するため、 現在取引しているサプライヤーに継続的な指導を行う。

○それと同時に、原価低減の観点から、日本企業からの原材料仕入れの比率が高いサプライヤーに対し、明確な品質基準に沿ったオンラインでの技術指導を行いつつ、安価な現地仕入先開拓を支援する。資材調達先の多様化を図ることで、コロナ禍のような危機に対するリスクを回避し、アセアン域内でのネットワークを構築する。

○現地法人の技術者や資材購買担当者を、一定期間サプライヤーに派遣し、彼らの技術レベルを向上させるための支援を継続する。また、現地の大学との産学連携協定を締結し、資材の品質を高めるための共同研究を実施し、成果はサプライヤーにもフィードバックして、現地の品質レベルを向上させる。

■方針2:生産現場の労働生産性の向上

○現場の生産性の定義を再確認した上で、昨今、進化著しい
AIや情報通信技術(ICT)をフル活用して生産性を高める。

ex.

-画像データを充実し、現場のトラブルを防止する。

-AI解析装置の利用により、不良品の判別を迅速化する。

-物流事業者と情報を共有し、ピッキングや出荷の自動化を目指す。

○コロナ感染の拡大時においては、出社人数が制限され、日本人マネジャーも帰国を余儀なくされるため、現地スタッフの役割がより重くなる。いざという時に現地で意思決定できるよう、緊急時の業務分担と権限委譲のルールを定める。

○日本の工場管理スタッフと、現地ナショナルスタッフとの課題解決の打ち合せを、オンラインで定期的に実施する。例えば、現地の生産性向上に関する課題について具体的に話し合うことで、日本側の現地理解とナショナルスタッフの問題解決力を向上させる。

■方針3:アフターサービス体制のレベルアップと現地エンジニアの育成

○A社発展の基礎となったアフターサービス体制の大幅なレベルアップを図る。当面は、契約している事業者と現状と課題を共有し、必要な支援を行う。例えば、A社のアフターサービスの基本的な考え方や、具体的作業方法を記載した分かり易いマニュアルを作成し、指導にあたる。また、コロナ禍に対応して、オンラインを利用したサービス充実のためのインフラを早急に整備し、マニュアルを活用して、顧客のメンテナンス担当者への技術伝承を図る。

○並行して、現地で対応できるエンジニアを自社内で育成する。将来的には広域でのメンテナンス体制構築を目標とし、エンジニアは現地大学で専門教育を受けた者だけでなく、生産現場を複数年経験した、叩き上げの従業員も選抜対象とする。

2 今後の海外現地法人経営の留意点

コロナ禍という特別な状況であっても、現地法人の経営に必要なのは、中長期的な視点で海外事業展開のための事業と人をつくり、現地経営の土台を構築することである。

国内市場で、顧客のニーズに徹底して応え信頼関係を深めたように、業績が停滞しても覚悟を決めて重点目標を設定し、その実現のための仕組みを地道に築いていくことが、現地経営を磐石なものにする。

こうした観点からは、コロナ禍をむしろ改革の好機ととらえ、これまでの事業展開を再点検し、次の飛躍に向けて基礎を固め直す契機としたA社の事例は示唆に富んでいる。

ここから得られる、海外現地法人経営の基本的な留意点は以下のとおりである。

(1)従来の枠組みにとらわれない発想

日本の製造業の多くは現場現物主義で、現場に行き、現物を見て対応する考え方が浸透しており、現場から離れた場所から指導したり、現場に赴くことなく問題を話し合うやり方では本質を見失うという意識が強かった。デジタル技術の進化により、現場現物主義は少なからずかたちを変えて来たが、コロナ禍により状況は一変した。

インタビュー先のQ社は、デジタル技術を駆使し、日本にいるスタッフが画像で現場の状況を把握し、現地社員と事実に基づいて問題を話し合い、生産性を向上させている。現場現物主義という原則を最新技術の活用により実現している。

これまで熟練者しかできないと言われていた不良品の見極めや予測も、デジタルデータの活用により自動的に検出できるようになっている。これまで難しいと思われていたことが、技術や発想の転換で変わる可能性がある。ゼロベースで事業を点検することは、これまでの枠組みにとらわれない発想や、画期的な着眼による思い切った取り組みにつながる。

(2)現地法人として確立・強化すべき基盤の再確認

一方で、海外現地法人が確立し強化すべき事業基盤として、コロナ禍を被る前と変わらないものも多い。これらをこの機に改めて確認することも重要になる。

例えば、海外での事業展開では、目先の利益を追うだけでなく、現地の産業振興への貢献や調達先の多様化等、地域のネットワークづくりが重要になる。これは古くて新しい、今でも製造業共通の課題といえる。

コロナ禍においては、サプライチェーンの分断により調達先の見直しや新たな確保に取り組むケースもあるが、このような時だからこそ、地域の関連企業と協力して互いの事業基盤を強化することが大切になる。

A社では、資材調達先の実態をより深く分析し、資材サプライヤーの調達実態まで把握してコストダウンや調達の多様化を進めた。さらに、現地の研究機関と協力しながら素材の技術開発を支援することで、地域のサプライヤー全体の製造能力を向上させる取り組みを行った。

事業基盤の確立という観点からは、自社が従来培ってきた強みを生かす施策をやり抜くことが基本になる。

R社の事例では、日本においての絶対的な強みであった顧客へのアフターサービスを現地でも導入し、当初の採算を度外視して拡充したことが現地法人経営の基盤づくりにつながった。

アフターサービスは、多くの人的資源投入が必要で費用が嵩むが、とりわけ海外で自社製品を市場に浸透させるにあたっては、顧客の信頼を得るための有効な手段となり、さらに、顧客側のメンテナンス担当者の育成につながるメリットもある。

海外での事業展開の基本に立ち返り、維持すべきもの、これまで以上に強化すべきものを明確にすることが大切である。

(3) 多面的かつ緊密なコミュニケーション

国による地域特性や経済の発展状況による違いはあれ、現地法人を円滑に運営していくためには、現地の企業文化に対する日本で培った企業理念や価値観の融合が必要になる。今回のような事態においては、国内以上に対話に時間をかけ、組織的な結束を図る努力が求められる。

Q社の事例は、まさにその実践であり、デジタル技術を活用して現地人と日本人のスタッフが、組織の枠を超えて対話を深め、伝えるべき企業理念や価値観を、自然なかたちで現地法人に浸透させた手法として参考になる。

共通の価値観は、組織の結束を高める上での基本である。

デジタル技術の進歩を通じて、オンラインコミュニケーションの質は急速に向上し、双方の状況や意図など的確に把握したり伝えることが可能になっている。これにより現地法人に対する本社の支援内容がより明確になり、現地法人のマネジメント強化だけでなく、それ自身の経営の高度化と自立を促すことができる。

日本と現地とでは、言語、文化、社会、経済環境が異なり、対面でのコミュニケーションが制約される。成功している各社は、このような状況を受け入れた上で、日本国内で培った経験を生かし、事業と人を育てるために長い年月をかけて工夫を重ねてきた。日本式をそのまま当てはめるのではなく、海外現地法人としての新しい“型”を作り出し、それを浸透させることが重要になる。

当面はコロナ禍の影響を克服することが全企業共通の最重要課題であるが、A社のように、これを機にアフターコロナの持続的な事業推進の基礎を築くことが求められている。