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事業再生を成功させるには

No.625 | 2022年5月号

今月の視点

 
 さまざまな分野でグローバル化が進んだことで、事業環境の変化が速くなり、変動も大きくなっている。こうした環境の変化への対応が遅れ、事業を抜本的に再構築し、再生を図らなければならない企業も多い。

 事業再生には、どの企業も懸命に取り組むはずなのに、窮状を切り抜けて新たな成長のステージに進んでいる企業もあれば、経営破綻してしまう企業までさまざまである。

 事業再生を遂げるための条件は、投じることができる経営資源に余力があるうちに着手し、当面をしのぐ施策だけではなく、中長期的な成長の布石を打っておくこと、そして、これを好機として企業体質も変革することである。そこまでして初めて企業は生まれ変わることができる。

 使命感をもった社員によって、見事に事業再生を果たした会社をみると、なんと言っても企業は生きもの、という思いを一層強くする。

1 A社の事例

(1)  事業再生に取り組む早期決断

1)A社の現状

A社は、従業員1,000人、売上高500億円の生産財製造業である。国内に3工場と支店・営業所をもつほか、中国とタイに現地法人がある。A社は、「顧客・社員と共に活きる」という経営理念を掲げ、技術力を活かした高精度の部品と、それを使った製品で、品質・コストの差別化を図り、顧客の支持を得てきた。しかし、 10年ほど前から収益にかげりが生じ始め、 最近3年は経常利益の赤字が続いて、ついに営業利益も小幅ながら赤字となった。キャッシュフローは、かろうじてプラスを維持できていたものの、工場の設備や製品開発用の機材などの投資資金が思うに任せず、老朽化した設備を改修しながら使わざるを得ない事態に陥っていた。銀行との関係は良好であったが、短期借入金は増加傾向にあり、財務担当の懸念事項になっていた。

2)事業再生の早期意思決定

社長は、「何とか黒字転換しようと取り組んできたが、その甲斐なく、いまや資金繰りに窮する事態も想定すべき状況にある。拡販とコストダウンとで、収支均衡を図ろうと努力してきたが、もはやそうした段階ではない。全社をあげて事業構造・収支構造を見直すべき事業再生の段階である。覚悟を決め、抜本的な対策を講ずる必要がある。できるだけ早く、自力再生ができるうちに着手したい。」と、いち早く決断した。

自力再生の機を失してしまうと、再生に必要な経営資源は減少の一途をたどる。打てる手も時間と共に狭められ、当面の資金繰り重視の中で、中長期の成長を目論んだ施策は、選択肢から除外される。そこで踏み止まれないと、私的整理、法的整理という段階に入らざるを得なくなる。

社長には、持ち前の技術力を活かし、会社を再び成長軌道に乗せたいという強い事業意欲と、理念を共有して一緒に頑張ってきた社員に対する思いがあった。それが、自力再生にこだわって、いち早く決断した理由であった。

社長は、まず、収支の実績と見通しを綿密に確認し、精度の高い損益・資金繰り計画を月次で立てるように指示をした。試算は複数ケースで行われ、最悪ケースでは、来期以降も期間損益の赤字が続き、検討されている対策を講じても、2年目には資金繰りに行き詰まるという結果であった。社長は、最悪ケースとはいえ、全社的な危機意識を醸成するためにも、これを基本にすべきだと考えた。何度も計画を下方修正し、追加対策を講ずるのは避けたいというのも理由であった。

この頃から、30才前後の社員が一人また一人と退職し始めていた。社長は、次の成長シナリオを描くうえで、理念を共有した次世代を担う人材が何よりも大切と考えていたため、再生計画を一刻も早く立て、実行に移す決意を一層強くした。

3)事業再生プロジェクトチームの編成

A社では、各部門の中堅幹部からなるプロジェクトチームを急ぎ編成し、信頼をおくコンサルタントの支援を得て、事業再生計画づくりに着手した。

社長は、プロジェクトチームのメンバーに厳しい現況を率直に伝え、こうした事態を招いたことをわびると共に、何としても事業再生に成功し、皆で会社を存続させ、再び成長させていきたいという思いを切々と語った。そして、一カ月後から着手できる施策を先行させ、二カ月後には、全ての施策を実行に移すというスケジュールが示された。

(2) 実態把握と再生基本方針の設定

タイトなスケジュールではあったが、まずは既成概念にとらわれず、業績悪化の真因を突き止めることにした。

1)市場環境・競争力等の分析

収益が低迷している大きな原因は、汎用品が価格競争に陥り、売価低下と販売数量減を同時に来たしたことであった。製品開発費が乏しい中で、現製品のコストダウンに取り組むしか対抗策はなく、営業政策とうまくかみ合わなかったこともあり、更に価格競争に巻き込まれるという悪循環に陥っていた。

特に、中国企業の低価格攻勢で、A社現地法人が生産する汎用品は、大きな影響を被っていた。現地法人には製品開発・改良機能がなく、顧客の新規開拓機能も弱かったため、現状での打ち手は、ほぼ尽きていた。

売上高世界3位の特注品は、かつては高収益であったが、最終製品が徐々にコモディティ化していく中で、売上・利益が下落傾向にあった。しかし、特注品の中で、業界に先駆けて開発に成功した高機能品は、急速に伸びつつあり、プロダクトミックスを上手く進めることで、特注品全体の売上・利益を回復できる見込みがあった。拡販次第では、汎用品の不振をカバーできる可能性もあったが、そこまで増産するためには、設備や在庫に、相応の資金が必要となる点が課題であった。

タイ現地法人で生産する特定分野向けの高機能品(以下、特定機能品)は、ASEAN市場の伸びに支えられ、受注も上り調子であった。現地競合企業の類似品は、どこも改善のめどが立ちにくい品質問題を抱えているため、しばらくは特定機能品の競争優位性は揺るがないと見られ、増産投資によって更に伸びる可能性があった。

このように、市場をセグメントし定量的に分析してみると、幸いなことに、各市場の中で、技術力によって機能面で差別化できる製品は、拡充の余地が十分あることが確認できた。

2)製品別の採算性分析

国内工場の製造原価は、徐々に上がっていた。生産現場では、老朽設備の更新延期や保全費用の抑制、ベテラン工務社員の退職等によって機械故障が頻発し、稼働率を落としていた。また、機械の整備不良は、構造が複雑な製品の品質不良も招き、廃棄ロス、検査費用、仕掛在庫等を増大させていた。製品によっては、機能・構造の複雑さ不相応に低い売価から、明らかに原価割れしていると考えられるものもあったが、定量的には把握されていなかった。

製品毎の採算性が不明瞭の中で、とにかく拡販に奔走してきたことが、赤字の大きな原因になっているのではないかという仮説に基づいて、プロジェクトチームは、検証にとりかかった。

製品毎には、見積価格を提示する際に用いた標準原価が算定されていたが、理想標準原価であり、実態を反映したものではなかった。

プロジェクトチームは、実際原価をもとに製品別の採算性を判断していくことにし、工場の作業日報、原材料の仕入価格、外注価格等のデータを精査したうえで算定した。工数のかかる検討であったが、下記のように、製品群毎の取り組み方針を明確に定めるうえで、極めて有効な指針を得ることができた。

① 限界利益赤字の製品

分析の結果、特注品には、限界利益赤字製品は無かったが、汎用品には、予想以上に赤字製品があった。見積時に比べて小ロット化していたり、不良にともなう廃棄ロスや検査費用がかさんでいることに加え、こうした実態を反映せずに、営業政策で売価引き下げが行われていたことが原因であった。原材料価格の上昇を、全く価格転嫁できていない製品もあった。

中国製汎用品にも、限界利益赤字製品が少なからずあり、新規参入による価格競争が激化した折りの値下げが要因であった。

これら限界利益赤字製品は、一刻も早い対策が必要であった。

② 限界利益は黒字だが営業利益赤字の製品

汎用品、特注品には、限界利益は黒字でも、営業利益は赤字の製品が多くあった。

販売額が大きく、赤字の大きな要因であることから、固定費削減以外での拡販余地、生産性の向上余地、外注費用の削減余地等をよく検討したうえで峻別し、限界利益を更に増やしていくための対策を講じていく必要があった。タイの特定機能品も、このグループであった。

③ 営業利益黒字の製品

幸いなことに、高機能品は、ほとんどが営業利益段階では黒字だった。前述したように、需要が伸びている製品群でもあり、全社収支の黒字化を実現することで投資余力を生み出しながら増産・拡販を図っていくことができれば、事業構造を転換して次の成長を牽引していく原動力となる製品群と位置付けられた。

3)顧客別の採算分析

顧客別採算分析を行った結果、大口の顧客に、限界利益や営業利益の赤字製品が多いことが突き止められた。

ネームバリューのある大手であったり、大ロット受注であったため、いずれ価格改定できるとの判断で安値受注し、そのまま取引を続けていた先がほとんどであった。

反面、小口の顧客は、適正な価格で販売できている先が多く、多品種少量製品は儲かっていない、という既成概念とは違った結果であった。

4)販管費及び一般管理費の分析

これまでも経費削減には継続して取り組んでおり、やり尽くした感があったが、更に15%削減するという達成目標を掲げ、例え必要なことであっても影響の小さいことは止めて削減する、という方針で積み上げていった。新たに対象となったのは、汎用品のサンプル添付や、稼働率の低い営業車両、製品の一時保管倉庫、定期刊行物の購入費、各種団体への会費や協賛金等、細かなものまで広範囲に及んだ。

5)資産・負債の分析

有休資産の資金化や負債軽減の可能性を検討し、金融機関と交渉し、担保となっている保有株式の売却や空き駐車場の売却等を行って借入金の返済に充てること、社長や親族からの借入金を資本金に振替えるといった対策を講じ、債務超過を防ぐことにした。

6)海外現地法人の収支・資金繰り分析

これまで、海外現地法人は踏み込んだ検討が十分なされてこなかった。特に中国の現地法人は、将来の柱として、果断な投資に踏み切った創業者の思い入れが強く、聖域となっていたからである。プロジェクトチームは、そこにもメスを入れることにした。

① 中国現地法人

30年前に設立した現地法人は、7年前から期間損益が赤字に陥り、本社からの資金支援が増え続けていた。赤字に陥ったのは、取引先からの値引き要請の際に、現地競合企業への転注をほのめかされ、確たるコスト削減の見通しがないまま主力製品の価格を大幅に下げたためであった。継続的にコストダウンには取り組んでいるが、今も値引き要請が続いており、赤字脱却のめどは立たない状況であることが確認できた。

② タイ現地法人

タイへは、顧客からの強い要請に基づき、東南アジア市場開拓もにらみ、5年前に進出した。特定機能品の生産高は順調に伸びていたが、期間損益はまだ赤字で、本社からの資金支援も続いていた。長期契約を前提とすれば、3年で黒字転換する計画だったが、想像以上に人件費が高騰して遅れていた。しかし、生産性の向上余地が大きく、着実に改善が進んでいることから、1年後の黒字転換の見通しが明確についていた。

7)事業再生へ向けた基本方針の設定

プロジェクトチームは、 現状分析結果を社長へ報告し、 「3年で事業再生を果たす。勝負は、最初の1年。連結での経常利益の黒字転換を果たし、次の成長シナリオが描ける状況にする」と示された方針の下、当面の目標を次のように定めた。

・ 1年目:連結ベースでの経常利益を黒字にする。

・ 2年目:連結ベースでの経常利益率1%以上を実現する。

・ 3年目:連結ベースでの経常利益率3%以上を実現する。

社長は、「今次検討は、自力再生の最後のチャンスである。この目標が達成できなければ倒産するという覚悟と、達成できれば必ず再生できるという希望をもって臨んでもらいたい。対策に聖域はないという覚悟を私もしている。」と、プロジェクトメンバーを鼓舞した。

(3) 三つの柱からなる事業再生計画の立案

プロジェクトチームでは、コンサルタントの助言から、掲げた数値目標を達成していく際の事業再生計画は、以下の三つの観点を明確にもって検討することにした。

・ 1年目には、あらゆる手を尽くして黒字化を実現する。

・ 2年目以降は、黒字を定着させながら、将来の成長シナリオに沿って布石を打つ。

・ 加えて、営業力や利益管理レベルを高めるための仕組みを整え、強固な企業体質への転換を図る。

計画には、この三つの柱があることを社内にも周知徹底し、良い会社に生まれ変わろうという前向きの意識を醸成していくことにした。

1)連結での経常利益黒字化

プロジェクトチームでは、まず、1年以内と目標設定した連結での経常利益の黒字化を目指して検討を開始した。再生計画の一番大事な柱である。

① 限界利益赤字製品からの撤退

黒字浮上への最大のポイントは、限界利益が赤字の製品を無くすことであった。これらの製品は、目標金額への売価改定ができない場合は生産終了することを前提に、今回算定した原価をもとに、取引先と交渉することにした。大手の取引先が何社もあったため、営業部門は難色を示したが、会社方針として臨むことになった。

今までは拡販に努めていた製品が多く、まさに180度の方向転換であった。

② 営業利益赤字製品の原価改善

二つ目のポイントは、営業利益赤字製品の黒字化であった。

限界利益赤字製品と同様に、売価改定交渉を営業部門に行ってもらう一方、プロジェクトチームでは、1年以内に可能な製造原価低減策を、工場部門と協議しながら積み上げていった。

原価低減策の中には、設備の改修に費用がかかるものもあったが、トータルコストが確実に下げられる投資は、販管費の削減による資金の一部を充てることにした。

製造原価低減策は、営業利益黒字の製品にも波及する要素が多く、全体の利益率改善が期待できた。

③ 利益率を重視した拡販策

こうした検討を踏まえ、個別製品の採算性を固く見積もったうえで、できるだけ好採算のものに注力する方針で販売計画を立案した。将来の成長性が期待できる高機能品や、競争力が維持できている特注品の拡販寄与度が大きい計画を組むことができたため、先ずは黒字化という緊急対応と、中長期的に目指す製品戦略の整合性がとれたことは、幸いであった。

④ 中国現地法人の売却

事業性の評価によって、中国現地法人は黒字化する見込みはなく、 資金支援は止められないことが明らかになった。それでも、会社を売却できる可能性はあるので、負債をこれ以上増加させないうちに撤退を決断し、譲渡スキームの検討や、買い手探しに着手すべきというのがプロジェクトチームの結論であった。

この結果は社長へ報告され、早期売却が時を移さず決定された。売却時期は、交渉の長期化を想定して、計画2年目末とし、譲渡スキーム毎の資金計画を再生計画に織り込んだ。

これらの主要施策を反映し、下振れの要素をできるだけ排除した再生計画を取りまとめた結果、1年目に、連結の経常利益黒字転換が実現できる見通しがついた。

2)黒字体質の確立と成長への布石

初年度の再生計画が達成できれば、黒字転換できるというめどがついた。しかし、これだけでは縮小均衡の悪循環に陥り、企業体力も社員の気力も長続きしないおそれがある。次の成長に向けた布石を打つため、社長がいち早く再生計画に着手した思いも実らない。

プロジェクトチームでは、引き続き、将来の成長に向けて事業展開を図っていく計画を検討した。再生計画第二の柱である。

① 将来性のある高機能品の増産投資

採算性が良く、成長可能性のある高機能品のうち、約半分は顧客からすでに増産が要請されており、市場調査結果からも潜在需要が大きいことが裏付けられていた。プロジェクトチームでは、高機能品の増産対応を的確に行うことで、黒字体質を定着させ、成長軌道に乗せていくことが可能だと考えた。

拡販及び増産計画を検討した結果、他のラインから社員を移し、現状の設備をフル稼働しても、対応できるのは2年までで、今から計画的に増設対応をしていかないと間に合わない、ということが判明した。

高機能品は、国内自社工場でしか製造できないため、特注品の一部を協力会社へ製造移管して空きスペースを確保し、そこに増産設備を新設して対応することになった。初年度に連結での黒字化が達成できれば、投資資金を生み出せることから、移管先の候補探しや増設ラインの検討は、先行して着手することにした。

② タイ現地法人の事業推進

事業性評価では、特定機能品の生産性向上策を急ぐことで、再生計画2年目から経常利益が黒字化し、資金支援もこの下期から生じないことが確認できた。特定機能品が組み込まれた最終製品は、ASEAN市場の伸びも期待できることから堅調に受注が伸び、年率5%の売上増とそれを上回る率の利益増が計画できた。タイ現地法人は、一刻も早い黒字化を目指して事業推進することを決定した。

3)体質改善への取組み

プロジェクトチームでは、中長期的に成長し続けていくためには、前述の2)で検討した製品・市場戦略の推進だけではなく、それを支えていく企業体質に変える必要があると考えた。再生計画第三の柱である。

現状分析の結果をみても、業務ルールの曖昧さや利益管理体制の弱さ等が不採算製品の増加を招いており、改善しないと、元の木阿弥になりかねないとの認識を強くした。高い技術力が仇となって、こうした甘い体質に陥っていた面があった。

プロジェクトチームでは、見積りから受注可否判断までの業務ルールの改善や、在庫に頼ったモノづくりからの脱却、設備保全体制の強化等、これまで課題と認識されながらも手が付けられていなかった項目を、着実に実行していくことにした。見積り機能の強化と原価管理の高度化を例に、主な検討内容を示すと以下の通りである。

① 見積りの精度向上、迅速化

これから力を入れていく特注品や高機能品は、引き合い対応時の見積りのスピードが他社と差別化する重要な要素である。加えて、その精度が利益率を左右することはいうまでもない。

A社では、体制整備が不十分であったため、他社に後れをとっており、見積り担当者による個人差も大きく、受注率や粗利益率に大きな差が生じていた。

プロジェクトチームは、製造部門でかねてから課題となっていた部品の標準化を進め、共通部品を多くすることにまず取り組んだうえ、部品構成表をベースにしたモノづくりに転換していくことを検討した。部品構成表には、加工時間を決めるさまざまな情報をもたせ、設計段階で所要量が分かれば、見積りが迅速に行える仕組みを構築していくことにした。その際、検討が棚上げされていた、過去の貴重な図面や参考資料を集めたナレッジデータベースを構築し、部品設計の標準化と効率化に活用していくことも決定した。

このデータベースを構築することで、熟練技術者の設計図面・知見等が蓄積されていくため、保全業務の高度化や技術継承の面でも大きな効果が期待された。

② 原価管理の高度化

従来は、見積原価を理想標準原価としていたが、実際原価は算定しておらず、原価管理は機能していなかった。プロジェクトチームでは、不採算製品の整理が済んで生産品目が安定するタイミングに合わせて原価管理を行っていくこととし、目標となる現実的標準原価と実際原価を算定する仕組み、それらを活用して原価低減を図っていく仕組みの基本設計を行った。

見積原価、標準原価、実際原価の各データは、前述のナレッジデータベースで一元管理して精度を上げ、管理の高度化を図っていくことにし、詳細な仕組みは、経理と工場生産管理部門で、練り上げることにした。

4)事業再生計画の取りまとめとアクションプランへの展開

事業再生計画は、損益・資金シミュレーションを繰り返して当初の設定目標が達成できるか精査し、取りまとめられた。

再生計画には、人員再配置や賞与カット継続、福利厚生諸経費節減等、社員にも耐えてもらう施策を織り込まざるを得なかった。自らの報酬を半分に減額した社長は、アクションプランへの展開に先だって、全社員に対して「こうした事態を招いたことを心からお詫びする。しかし、この計画が達成できれば、必ず再生できる。皆に犠牲を強いるのはつらいことであるが、厳しいこの3年を一緒に乗り越え、再生に向けての責務を果たしたい。」と決意を述べた。

現場を巻き込んだアクションプランへの展開では、プロジェクトメンバーが各部門をまわり、合意形成と計画立案を行った。

計画は、月次展開・週次展開され、毎月、経営会議の場で、進捗確認と追加施策の検討を行うことが決められた。

計画3年目が終わり、再生計画で掲げた数値目標は、上方修正されて達成できた。体質改善策は、まだ道半ばであるが、着実に進んでいる。

A社は、こうして再生を果たすことができた。

2 留意点

(1)  再生に早期着手する決断

事業再生に取り組む決断を、早く行えば行うほど、成功する可能性は高くなる。これが最大のポイントである。

しかし、危機的状況に至る前に、抜本的な改革に踏み切ることは、たやすいことではない。

事業再生の必要性に早く気付くためには、正確な経営情報が前提となる。特に、先行きの想定が重要で、このまま推移したら債務超過にいつ陥るか、キャッシュフローはいつマイナスになるかといったことを、できるだけ正確につかんでおく必要がある。実態を反映した数字は、嘘をつかない。

状況が把握できても、事業再生の必要性を認め、改革の意思決定をするのは大変なことである。これまでの経営の誤りを自ら認めることであり、取引先や社員に対するさまざまな思いが、経営者の決断を遅らせる。上り坂と下り坂では、見える景色が全く違うものであり、平時とは別の人間になってしまう。

厳しい状況の中でも、冷静に判断するためには、例えば、資金に窮する想定時期、債務超過に陥る想定時期等によって、アクショントリガーを事前に決めておくといった方法がある。そのうえで、情報を経営陣で共有しておく。最後の決定は、社長が果断に行わなければならないが、周囲は、的確な判断ができるように支えることが重要である。

(2) 苦境に陥った真因の究明

資産売却による有利子負債の圧縮や、人件費・経費の削減だけで再生が達成できることはない。苦境に陥った大元の原因を取り除かなければ、いずれまた元に戻ってしまう。

原因を煎じ詰めれば、顧客のニーズの変化や競合先の台頭などの外部環境の変化と、そうした環境変化に対応できなかった内部の体制にある。それを正しくつかむことで、事業の枠組みや収支構造を再構築する必要性や方向性、順調な時には手が付けられなかった経営管理機能強化の重要性が、共通認識される。

真因にたどり着くには、既成概念にとらわれることなく事実を積み重ねていかねばならない。そうした時間を作るためにも、早期に着手することが重要である。

(3) 三つの柱での再生計画の策定

再生計画は、速やかに損益や資金の黒字化を図ることが最優先される。ただ、それだけでは再浮上後に成長力を取り戻すという、本来の目的を達成することはできない。

A社がそうしたように、成長の芽となる事業を残し育てていくための布石、競争力を一層高め維持していく経営体質への転換、この二つにも優先順位をつけて、同時にやっていかなければならない。

出血を止めるための短期の施策は、最優先で、可能なことは全て一気に実行する必要があり、将来への布石や体質転換策は、絞り込んで行わざるを得ない。それだけに、確かな分析に基づく、しっかりしたシナリオが必要になる。

(4) アクションプランによる実行性の向上

再生計画は、スケジュール通りの必達が至上命題である。債権者等外部に対して説明し、理解を求める必要がある場合にはなおさらである。したがって、計画が着実に実行されるように、細部まで具体的に内容を詰め、いつまでに誰が何をするかを練ったアクションプランが不可欠である。

再生計画の各施策は、高いモチベーションをもち続けなければ完遂できないものばかりである。アクションプランには、節目毎の小さなゴールが示されるため、日々の努力の結果が大きなゴールに近づいていることを実感し易い。社員の心に灯をともし続ける、またとないものとなる。

(5) 使命感で再生のエネルギーを創出

この計画が達成できなければ倒産するという危機意識と、達成できれば必ず再生できるという希望が、難局に対処するエネルギーを生む。

計画の遂行に当たっては、経営者自らが先頭に立ち、社員を鼓舞し続けなければならない。苦境にあって、重荷を背負って立つ使命感をもった社員が何人いるかが、最終的には再生の成否を決めるからである。