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人材育成と組織風土改革

No.627 | 2022年7月号

今月の視点


 終身の計は人を樹うるに如くはなし、と言われるように、企業の長期的な発展を約束するものは、いつの時代にあっても人材である。

 人材育成の重要性は誰しも認識しているが、じっくり取り組む必要があり、すぐに数字に表れるような効果が出ないことから、厳しい経営状態の時も、事業環境に恵まれて日々の業務に追われる時も、思いのほどには力が注げない。

 人を樹うるとしたように、樹うる土壌すなわち組織風土は人材育成の源であり、風土づくりはさらに腰を据えた根気のいる取り組みになる。

 コロナ禍の勤務形態の中で、本物のリーダーが育っていなかったことや、対話を尽くさないと組織風土は伝承できないということに、今さらながらに気づかされたという切実な例もある。

 今月は、人材育成や組織風土改革にどう取り組んでいったら良いかを、コンサルティング事例をもとに考えてみたい。

1 人材育成、組織風土改革に取り組む背景

人材育成や組織風土改革に関連するテーマでコンサルティングのご依頼をいただく場合、いくつかのパターンがある。それによって重点の置き所やアプローチ方法が異なるが、典型的な三つのパターンをご紹介したい。

(1) 会社を担う各層の人材育成をしたい

○急成長をし、優秀な若手が大勢入ってきている一方、経験豊富な中間層が薄いため、30歳前後の若手管理職層を早急に育成しないと、成長にブレーキがかかりかねない。

○課長クラスがプレーヤーとしては頑張っているが、マネージャーとして組織統括ができていない。次世代の経営幹部として、マネジメント能力やリーダーシップを身に付けさせたい。

○部長クラスに経営者目線で会社の将来を考えてもらい、革新的な目標設定能力や、それを実現する計画立案能力を身に付けてほしい。

(2) 新人事制度や研修を人材育成に確実につなげたい

○期待する人材像に焦点を当てた人事制度の整備や、役割を意識した行動改革を狙いに目標管理制度の導入をしたが、思うような効果が得られない。実効性を高めるノウハウをもった外部の力を借り、意識や行動の改革を図りたい。

○人材育成には力を入れており、さまざまな研修も行っている。一般職は徐々に効果が出ているが、特に弱いと感じている部課長クラスのマネジメント能力向上の面で、座学中心の研修に限界を感じている。実際の経営課題や各自の役割に直結した、実践的な研修ができないものか。

(3)組織風土改革や、よき風土の継承がしたい

○当面の業績は良いものの、ぬるま湯的な雰囲気の中で社員が守りの姿勢になっている。新しいことに積極的に挑戦する社風に変えていかないと、これからは生き残れない。

○社員の定着率が悪く、現場の技能レベル低下、重要な顧客の喪失など深刻な問題を引き起こしている。
定着率を高め、社員の成長と会社の成長が好循環するような企業にしていきたい。

○経営理念に根差した顧客第一主義、現場主義という社風が風化しつつある。長年かけて培ったかけがえのないものなので、一人ひとりの気持ちによく浸透させ、行動に反映させていきたい。

2 課題を整理する際の観点

こうした問題意識を受けとめて、人材育成、組織風土改革のお手伝いをする際に、このテーマで肝心なことは、短兵急に教科書的な取り組みをしないことである。

社員一人ひとりの意識に関わることだけに、中途半端に取り組むと反って禍根を残してしまうことすらあり、一旦手を付けたら効果を生むまで長く続けて行かなければならないため、課題の見立ては、各社の実情を踏まえて慎重に行う必要がある。

まず、このテーマの下記の特質を念頭におき、全体を俯瞰することが大事である。

人材育成や組織風土改革を図るために社員の意識や行動を変えようとする際、二つの大きな課題解決の道がある。

一つは、経営戦略の策定や人事制度の整備など、さまざまな計画や制度、組織構造を変えることによって社員の意識や行動を変えていこうとするやり方である。そして、忘れがちなもう一つの大事な観点が、社員の心へのはたらきかけである。

制度や組織の面から社員の行動改革を図ろうとする場合、いくつかの検討領域がある。経営理念、経営計画、組織形態、人事制度、業績管理制度などである。これらは密接に関連し合っており、一つの仕組みだけを整備してもうまく機能しない。

例えば、組織や構成員の役割や責任が曖昧なままでは成果主義人事制度の導入は不可能である。成果を問うのであれば、人事制度の検討に先立って、機能、役割、権限が明確な組織への見直しや業績管理制度の整備を行わなければならない。

分権的・自律的組織を志向する場合、経営理念に基づく価値観の共有という大事な点を忘れて、組織や業績管理のみの検討では方向を誤ることになる。組織としての一体感を維持しつつ一人ひとりの自律性を育むために、経営理念や理想とする人材像を明確にし、それを浸透していく仕組み、例えばそうした人事制度の整備や理念浸透に焦点を当てた研修などを併せて行う必要がある。

もう一つの社員の心に直接はたらきかける方策は、とっかかりがつかみにくいうえに一朝一夕には効果があがりにくい。そのため重要さは認識していても、往々にして手つかずにされていることが多いが、意識・行動改革を図るうえでは本質的な課題である。どんな優れた制度やシステムでも、それを運用するのは一人ひとりの社員であり、成否を分けるのはそれに関わる社員のやる気である。息の長い取り組みになることを覚悟のうえで、まず隗より始めるべきである。

この二つの点に対する問題意識の所在や大きさ、何からどう取り組んでいったら良いかについての認識は、社内でもさまざまな見方が出やすいが、それは、このように各課題が複雑に絡み合って優先順位がつけにくいからである。

各課題への取り組みは、皆が気持ちを揃えて取り組まなければ長続きせず、長続きしなければ成就しない。それだけに出発点の認識統一が極めて重要であり、まず的確な課題形成をしなければならない。

課題形成の出発点は、目的を明確にして問題を整理することであるが、意識・行動改革などと構えてしまうと、社内ではなかなか本音の話し合いがしにくいものである。また、各々の問題意識は正しくても、全体観をもって課題を整理することは難しく、合意形成がなかなか進まないものでもある。

このような時、コンサルタントが、関係者と個別面談をして問題意識を聴き取り、実態も確認しながら課題を体系的に整理して合意形成を図るのは、有効な方法である。

その際の観点としては、以下のような項目があげられる。

(1) 経営理念、経営計画

○経営理念、ビジョンが明確に示され、浸透しているか

○人(社員)に対する強い理念があり、浸透しているか

○挑戦意欲を刺激する大きな経営目標があるか

○中長期経営計画では、事業環境を踏まえて経営課題が的確に抽出されているか

○部門間で経営目標に対する共通認識が形成され、連携がとれているか

○経営計画に対して取り組むべきことが、各層各自の役割として明確になっているか

(2) 組織

○事業戦略が推進しやすい組織構造になっているか

○顧客の動向に機敏に対応できる組織体制、意思決定構造になっているか

○各部門の役割に展開された経営目標は、達成責任が明確になっているか

○損益責任を全うできるような機能、役割、権限が与えられ、自律的な組織運営がされているか

○経営情報が共有され、社内のコミュニケーションが円滑な風通しの良い組織運営になっているか

(3) 人事制度

○会社が求める人材像が明確になっており、行動指針として具体的に示されているか

○評価・処遇の仕組みは納得性が高いもので、ガラス張りになっているか

○管理職は育成マインドが強く、OJTや評価・フィードバックを通じて部下の自己啓発意欲を喚起しているか

○研修内容は業務に即した実践的なもので、研修結果が実際の仕事に生かされているか

○人材育成のための課題が明確で、的確に研修内容に反映されているか

(4) マネジメントシステム

各社で共通にあげられるのは、例えば下記のような点である。

〈業績管理制度〉

○部門損益だけでなく、課題に対する取り組みや成果につながる業務プロセスの管理がバランスよく行われているか

○部門収支偏重でなく、経営資源の最適配分を重視した考えで、制度が設計・運用されているか

〈目標管理制度〉

○経営計画制度と連動し、PDCAサイクルがきちんと回っているか

○社員が、それぞれ役割や給与に相応しい目標に自律的に挑戦しているか

○結果だけでなく、挑戦や努力が認められ報われる仕組みになっているか

〈ナレッジマネジメント〉

○上下間や横同士で経験や知恵が共有され、教え合う組織風土があるか

○知恵・経験を共有化する仕組みが定着し機能しているか

○若手がさまざまなかたちで伝承を受け、前向きに能力開発に取り組み、成長実感をもっているか

また、現下の特殊性として、コロナ禍によるワークスタイルの下で、人材育成や組織風土改革への対応が後手に回っていないかの確認も必要であろう。

このような論点ごとに話し合いを重ね、現行制度の確認や給与などのデータ分析を行うと、課題が浮かび上がってくる。整理してみると、根本的な課題は日頃の感覚や既成概念とずれていることが少なくない。

例えば、やる気を向上するために、能力や成果に応じてもっと格差をつけることが必要だと考えられていたのに対し、既に妥当なメリハリがつけられており、問題は、具体的な行動を喚起しにくい抽象的な評価基準にあった、というケースである。このケースの場合は、処遇という面では妥当な結果になっていても、社員には会社の期待値が明確に伝わっていないため、人材育成という面で大きな課題がある。

目標管理制度の運用がうまくいっていないと感じている企業は多いが、経営計画や管理職のマネジメント能力に問題があることがある。その場合は、目標管理制度の仕組みそのものより、経営計画制度と計画自体の見直しや、目標設定能力を含めた管理職のマネジメント能力を向上する施策に、力を入れるべきである。

3 事例紹介

人材育成、組織風土改革で取り組むべき課題が明確になれば、優先順位をつけて取り組んでいくことができる。

お手伝いした事例を、三つのケースに分けて紹介したい。

一番目は、経営幹部層の育成を図った事例である。経営者目線で会社の将来を考える力、そこから経営革新につながる中期的な課題を設定する力の向上に焦点を当てている。

二番目は、人事制度の改定時に、育成基準となるように評価基準を工夫した例である。検討した評価基準が生かされるような評価者研修を企画・実施した例も、併せて紹介している。

三番目は、風土改革をテーマに、職場の活性化に本格的に取り組んだ事例である。

(1) 経営幹部層の育成

《事例1》 中期経営計画策定に向けての幹部ミーティング

A社の中期経営計画は、機能別計画の指針になる事業戦略が曖昧で、製品別の売上や利益目標も数字合わせの予算になっていた。

予算のハードルは高いものの、中長期の事業環境を踏まえた経営課題の抽出が十分できていないために、戦略的なテーマや革新性の高い課題が設定されておらず、数値計画は未達成という状況が常態化していた。変革に取り組む全社目標がないため、個々人の目標も昨年までの延長線上のものが多く、活力が向上しない主因になっていた。

こうした実情を踏まえて、A社では、経営革新につながる中期的な経営課題の明確化と、それを中期経営計画に具体的に反映させることに焦点を当てて経営幹部層の能力向上を図ることにした。

A社で企画したのは、「経営幹部ミーティング」の実施である。これは、各部門を担当する経営幹部がじっくり時間をとって率直に意見を交わし、中長期の課題に対する認識の共通化を図るためのアクションラーニングである。

以下のプログラムに沿って進めたこの研修は、コンサルタントが事前準備、議論の舵取り役、検討結果の整理を担当し、高密度の検討を短期間で実施した。

ミーティングを通じて、今までじっくり考える機会がなかった事業ドメインが検討され、そこから基本戦略を見直す必要性が認識されるなど所期の成果が上がったが、各部門が抱える課題が複層化する中で、経営革新につながる課題形成を行うためには、部門の垣根を超えて問題意識をぶつけ合い理解し合うコミュニケーションが大切だということを学んだのも大きな成果であった。また、節目ごとに社長に報告し、従来なされていなかった率直な意見交換ができた点も効果的であり、以降の中計検討時の進め方として定着している。

《事例2》 目標管理制度での変革課題の設定

目標管理制度の運用を通じて、会社の成果追求と社員の自律性涵養という根幹の狙いが達成できていないケースの場合、出発点となる組織目標が革新性に欠ける点があげられる。

B社では、この点に着眼し、部門長の課題形成能力の向上を狙いに以下の実践的な研修を行った。

①変革課題の抽出

従来問題になっていたのは、部門目標の多くが顕在化している問題の改善型で、先を見据えた革新性の高い目標設定ができていないことにあった。課長以下の目標は部門目標を展開していくため、全体としても目線が低くなっていた。

そこで、毎年一月に行う部門目標の設定を部門長が主催する会議形式で行い、革新性の高い課題を抽出する研修を兼ねる場にすることにした。

部門ごとに開催する会議では、革新性が「高」ランクの課題を二つ、革新性が「中」ランクの課題を三つ抽出することを目安に、部課長が問題意識を話し合った。

その際、 事業環境の変化、 経営原則、 業務改革の着眼点などを情報として提供し、長期的かつ広い視野をもつことの重要性や、そうした情報から変革課題を抽出する思考プロセスが習得できるように、 コンサルタントが支援した。(次図参照)

②課題の吟味

こうして抽出した課題を、どのように解決するか、その際必要な経営資源は何か、見込める効果の大きさはどうか、予想される支障は何か、緊急性はどうか、といった観点から吟味し、部門目標として取上げるか否かを判断した。

※1 経営原則
経営理念、事業展開方針(顧客、製品、サービス体制・・)、仕事の原則、人材育成方針、組織運営方針などから、重視する十数項目を設定

※2 業務別改善着眼点
営業改革、生産改革、物流改革、業務改革などの一般的視点

変革課題に取り組むためには、多くのエネルギーを投入し、新たな方法論を編み出して適用していかなければならない。改善策を練り上げるのも大変だが、実施定着の大変さはさらに倍するものである。

だからこそ変革課題への挑戦は、人材育成や風土改革の面での効果が大きい。

(2) 育成基準としての評価基準の作成、活用

《事例1》 人事制度の評価基準改定

C社では成果重視の新人事制度を導入したばかりであったが、育成指針となる評価基準が抽象的だったため、意識改革や行動改革につながりにくいものであった。

そこで経営理念や経営計画を踏まえ、各層の使命・役割を明確にして期待する人材像を定め、それを具体的な評価基準に展開した。

例えば、課長クラスの評価基準は次のように作成した。

《事例2》 部下育成の目線合わせを重視した評価者研修

C社の評価者研修は、評価時の技術的な留意点を中心としたもので、育成の観点から部下を見る眼を養う本来の狙いが重視されていなかった。また、評価基準が抽象的だったこともあり、評価者の甘辛がなかなか解消できなかった。

そこで評価基準を一新後、部下育成を重視した目線合わせの評価者研修を実施して、意識改革を図っていくことにした。

以下の表に示したような評価基準・判断基準に対して、評価者が具体的な事例をもとにグループディスカッションを行って能力クラスごとの期待値を確認し合い、絶対評価の目線合わせと育成ポイントの共有化を図る研修内容である。

能力クラスに応じた適切な指導をし、評価やフィードバックもそれに沿って行うことで、部下の育成を図っていこうとするものである。

(3) 職場の活性化への取り組み

D社はOA機器を主体に扱う販売会社である。ここ数年事業環境に恵まれ急成長してきた。

業績は引き続き順調なものの、苦心して採用し育ててきた社員の中途退職が目立ってきたことに社長は心を痛めていた。

コンサルタントが参画したプロジェクトチームで、 アンケート調査や、若手から課長クラスまで社員の半数に及ぶ聴き取り調査を実施した結果、下記の点が原因として浮かび上がってきた。

①業務に追われているというのが実態で、仕事の達成感や自身の成長感がない

②管理職が職場の求心力、リーダーシップを発揮していないため、相談事のもって行き場がない

③職場での連携や協力が少ないため、仲間意識が希薄である

④業務の拡大に社員の採用が追いつかず、勤務時間が増加する中で疲労が蓄積している

プロジェクトチームは、離職者を減らすために「職場の活性化」という課題を設定し、検討を重ねた。その中で、離職者が極めて低い、S支店の下記のような取り組みが目を引いた。

①「社員を大切に」という社長方針を具体化し実践している

S支店ではこれを5項目の行動指針に展開し、支店の運営方針として全員に徹底していた。

②コミュニケーションが円滑で上下の信頼関係が強い

支店長がことあるごとに指導してきたため、S支店の管理職は、新入社員やパート社員の素朴な提案でも前向きに耳を傾けて相談にのり、改善につながる提案は少しでも早く、という姿勢で採用し実施していた。

③一人ひとりの役割分担が明確になっている

S支店では、毎年期首に上司との話し合いを行って、担当する業務がマンネリ化しないように決める仕組みになっており、支店内の役割分担が明確になっていた。新入社員も、支店報の編集やQC活動の個別テーマのリーダーとして活躍していた。

④パート社員の採用・育成に積極的に取り組んでいる

本部に増員を強く求めるだけではなく、支店自ら熱心に採用に取り組み、独自に整備した育成マニュアルを使って早期戦力化にも努めていた。

赴任した当初「昼食時にお茶を入れるやかんが欲しい」「休憩室の照明を明るくして欲しい」という業務とは直接関係のない小さな要望に、翌日対応したことが出発点だったいうS支店長の話しが、社員の気持ちにはたらきかけることの重要性に対する皆の共通認識を形成した。

これを踏まえ、D社は、下記の項目に取り組んだ。些細なことや前々から言われてきたこともあり、本当にこれで効果が出るかという声もあったが、「必ず、直ぐに、継続して」を合言葉に取り組みを始め、着実に成果を上げている。

〈D社が取り組んだ施策〉

①「一人ひとりの社員を大切にすること」を経営理念として一層明確に位置づけ具体的に実践していく

「どんなに小さなことでも、 すぐにできることから手をつけることが大事」という社長の指示で、新たに社員から改善提案をつのり、職場の作業環境の向上を中心に、50項目にも上る改善をすぐに実施した。こうした改善は、一回限りにならないように継続していくことにした。

②活性化に主眼をおいた目標管理制度の導入

形骸化していた制度を職場の活性化に役立てようと、以下の三点に主眼をおいて再度導入することにした。

◇制度の運用を通じコミュニケーションを活発にする

◇管理職にリーダーシップを発揮する場を与え、育成を図る

◇共通の目標に一致団結してあたることを通じて、職場の団結力を高める

③業務の効率化や人員増による負荷軽減

業務量の負荷があまりにも大きいことが活力を減退させているという認識から、何とか負荷軽減を図ろうと下記の検討も行われ、迅速に実行された。

◇営業マンの事務処理負担を、システム導入で軽減

◇配送センター業務を、 最新の機器やアプリケーションで効率化

◇パート社員の増強と育成の仕組みの整備

④部門長の権限拡大

支店の状況はそれぞれであり、例えばパート社員の採用などを即断実行することで事態をタイムリーに改善するとともに、支店長や管理職のリーダーシップと求心力を高めていくことが狙いである。

⑤管理職研修の実施

職場の活性化に果たすリーダーの役割の重要さが検討を通じて再認識され、従来おろそかにしてきた管理職に対する集合研修を計画的に行い、意識づけを図ることにした。

⑥役割は能力に応じて、を敢行

創業時からのベテラン社員は、創業期の功績があり、昔からの大口の顧客も担当しつつ、多くは支店長を務めていた。

但し、支店長としてリーダーシップを発揮し、部下を統率するのは不得手な者もいることから、能力のある社員を抜擢して代え、ベテラン社員には営業経験を生かした別の重要な役割を任せていくことにした。

4 留意点

さまざまな事例を紹介したが、最後に、どの施策を講ずる場合でも念頭におくべき点を、整理しておきたい。基本的なことだけに、各施策の企画に没頭するあまり、ついつい忘れがちなことでもある。

(1) 的確な課題形成がとりわけ重要

人材育成、組織風土改革を図ろうとすると、人事制度の見直しや研修といった方法がすぐに思い浮かぶ。

しかし実際は、経営理念・行動指針、経営計画、組織形態、業績管理制度などが密接に絡み合っており、人事制度だけを整備してもうまく機能しないことが多い。また、こうした目に見えるものに対するハードアプローチだけでなく、社員の心にはたらきかけるソフトアプローチという重要な観点があることも忘れてはならない。

どのような人材を望むのか、どのような組織風土に変えて行きたいのか、その理由は何なのか、それに対して現状はどうなのか等々を明確にすることが出発点であり、それによって適切な方法を考える必要がある。こうした課題形成が、とりわけ難しいテーマである。

(2) 人づくりには、やはり組織風土づくり

人材育成が木の成長に例えられるのは、木が健やかに生育する上での根をはる事の大切さ、根をはる時の土の大切さが共通しているからである。

土を作るということは、社員に対する思いである人事方針を明確にし、人材育成の大切さやそのための基本動作を個々の社員に浸透させるということ、すなわち組織風土づくりである。

良い組織風土は、仲間意識や帰属意識を高め、課題に取り組む際の連帯感やエンゲージメントの向上にも必要である。

(3) OJTと自己啓発が全て

かつてGEの人材育成10カ条の中に、 「OJTと自己啓発が全てである」という意味の項目があった。けだし名言であろう。

実地に即しての鍛錬を通じて自ら学ぼうとする意欲の喚起ができないと、どのような施策を講じても、表面的な効果の薄いものになってしまう。

状況変化に的確に対応できる柔軟で逞しい人材を育てるためには、OJTと自己啓発を軸において考えることが基本である。

(4) やる気に灯をともすのはリーダーの役割

やる気があれば普段の何倍もの力を発揮するのは、誰しも経験することである。

「プロジェクトX」を成し遂げる能力はだれにもあり、この計り知れない力を引き出すのは、血がたぎるような思いである。

もてる力を発揮させることが人材育成で一番の目標であり、最後は、いかにして一人ひとりの気持ちに灯をともしたらよいかという命題にたどりつく。

言うまでもなく、それは部下と直に接しているリーダーの役割であり、リーダー育成の最も重要な点がそこにある。OJTと自己啓発への動機づけもリーダーが担っている。

人材育成、風土改革においては、リーダーの役割の再確認と育成を忘れないようにしたい。