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地域に根差す医療・介護施設づくりの留意点

No.641 | 2023年9月号

今月の視点


 我が国の4人に1人が65歳以上という時代を迎え、何らかの生活支援が必要な高齢者の増加が予想されている。

 医療や介護が必要でも、可能な限り住み慣れた地域で、本人の健康状態に応じて自分らしい生活を続けられるよう、医療・介護サービスが包括的に確保される“地域包括ケアシステム”の構築が各自治体で活発になっている。

 高齢者が、住み慣れた街でそれぞれの個性に合った生活を送れる街づくりを実現するには、本人の自助努力だけでなく、本人の状態に適した家族の協力、地域の事業者による在宅医療・介護サービスの充実が鍵になる。そして、これら三方が必要と考える施設整備が地方自治体の役割といえる。

 今月は、介護施設のリノベーションにより、ユニークな医療・介護拠点を設立した自治体の事例をもとに、新しい時代の医療・介護施設づくりの留意点について考えてみたい。

1 事例

(1)検討の背景

大都市近郊の自治体Aでは、30年前に設置された介護施設が老朽化し経営が困難となり、閉鎖されることになった。

ただ、この施設が最寄り駅から徒歩数分の好立地にあり、宿泊・厨房機能がまだ利用可能であったため、建物をリノベーションし、“今後の地域の医療・介護を充実させる拠点”として再出発させる提案が議会に提出された。

この提案に対して、首長は以下のように回答した。

「高齢者の一層の増加が見込まれるこの地域において、彼らが住み慣れた場所で安心して暮らし続けられる社会づくりが必要であり、その実現には、地域住民、その家族、医療介護事業者の協力が不可欠になる。自治体としてはこの三者を支えつつ、彼らにとって対処が難しい課題の解決に取り組まねばならない。」

「新しい施設については先ほど述べた三者のニーズに対応できる医療・介護の拠点としたい。この地域に求められる機能は何か、それをどう組み合わせ、どう運営すれば地域に貢献できるか、検討してみたい。」

(2)プロジェクトチームの設置

首長の発言を受け、役所内に「旧施設リノベーションプロジェクト」が発足し、関係者が招集された。

地域の医療・介護に詳しい有識者、地元の介護事業者、問題意識旺盛な地域住民らが委員に選定された。第一回目の会議では、新しい施設のあり方について意見交換が行われ、以下のようなコメントが出された。

「旧施設が廃止された最大の要因は収支にあった。市の負担が重くならないような施設にするべきである。」

「前の施設廃止の経緯を考えれば、余計なお金をかけないことが重要。介護を手厚くするというより、なるべく介護に頼らないための施設が考えられないか。」

「行政の立場からすれば、5年後、10年後の介護給付費の増加をいかに抑制していくかを考える必要がある。大きなスペースを利用して、介護予防や健康増進の場としたい。」

「地域には小規模事業者が多く、経営情報が得られにくいうえに、人材調達が困難という課題がある。このような事業者の経営を支援する事業が展開できるとよいのではないか。」

「事業所単体での人材育成が難しいところもあり、自治体がこれを支援する必要性は高い。また、育成された人材が地域の中で働き続けるための就職支援の仕組みを入れてほしい。」

「要介護者が家庭にいる地域住民は、多くが介護の実践知識を身につけたいと思っている。この施設を通じて知識を提供し、それがきっかけとなって将来、地元で介護サービスを志す潜在的な人の裾野を広げられたらよいと思う。」

これらは、各者の立場から地域内の医療・介護の現状を示すものであり、プロジェクトは意見集約しながら地域の医療・介護の実状をより客観的に分析することにした。

(3)現状分析

①実態分析

地域の65歳以上の高齢者が増加し、医療介護費が年々高騰していることに危機感を抱く委員が多かった。このまま手厚いサービスを継続すれば、さらなる費用の増加が予想された。

プロジェクトとしては、費用総額の変化や、費用高騰の要因である高齢化の現状について詳しく把握する必要があった。

また、医療介護費の抑制という観点から、「介護予防」「在宅生活の質の向上」が重要であるとの認識に基づき、関連するサービス・事業拠点・人材等の状況を調べることにした。

地域の住民から医療・介護の実践知識を得たいという声も多くあり、最近開催されているセミナーの内容や参加者の状況も確認しておくことにした。

さらに、医療・介護の専門人材について、専門分野別の人材不足の程度や、自治体の専門人材育成への支援内容を確認することにした。

以上の観点から、地域の医療・介護の実態分析を行った。分析項目は次のとおりである。

【ⅰ.地域の医療・介護費用の動向】

■年間総医療介護費のこれまでの推移、今後の予測

【ⅱ.地域の医療・介護の需要動向】

■65歳以上の高齢者人数の推移と今後の予測

■要介護度別の認定者数の推移と今後の予測

■家庭内に要介護者がいる世帯数の推移

【ⅲ.地域の医療・介護施設および人材の動向】

■医療・介護施設の稼働状況

■医療・介護職種別人材の需給動向

■医療・介護事業者への人材充足に関するインタビュー

■医療・介護人材の人材育成に関する現状の支援制度

【ⅳ.高齢者の健康維持に関する取り組み】

■全国における介護予防に関する取り組み事例

■最近開催された医療・介護関連セミナーの内容、来場者数

②分析結果の検証

定量・定性的なデータを分析する中で、新たな施設で保有すべき機能についてより具体的な仮説が徐々に見えてきた。

地域の高齢化は、団塊の世代が70歳を超えた頃から特に進み、医療介護費用は対前年での増加率が大きくなっていた。これまでの地域の医療・介護に関する行政の考え方を変え、新しい考え方で拠点施設の機能を選択することが必要であった。

プロジェクトチームが特に注目したのは、ここ数年で要介護度が上昇する高齢者が急増している点であり、介護予防のために早急に手を打つべきであるとの認識が強まった。

高齢者に対する介護予防の情報や、同居する家族が知っておくべき実践的な医療・介護の知識を浸透させる必要があった。この地域には大学病院や介護分野の専門研究機関があり、これらを積極的に活用して医療・介護分野の実践研究をしてもらい、地域住民に還元する機能が重要になると思われた。

医療・介護の人材については、行政は様々な分野の人材充足を目指していたが、特に在宅医療・在宅介護人材が不足していた。要介護者が自宅で暮らせる体制を構築するには、このような職種の人材を早急に育成する機能が必要と思われた。

また、管理職研修や新人研修など、小規模事業者では実施が困難であることが明らかになった。人手不足で日々の出面の調整に追われ、効率的な集合研修を開催したくてもできなかった。このような状況を改善するため、介護人材を育成し、事業所に供給する機能も中長期的には必要と考えられた。

施設面では、医療機関に付属するリハビリテーション施設が不足していた。長期の入院生活をしていた高齢者が、退院後直ちに自宅で日常生活を行うのは極めて難しく、リハビリテーション施設で一定期間療養して帰宅しているが、今回の分析で、年々利用者が増加し、全員を施設に収容しきれていない実態が明らかとなり、病院と自宅との間の中間サービスを実施する機能が求められた。

上記の分析結果より、プロジェクトチームは地域の医療・介護の状況をより詳細に把握でき、必要な機能と、その重要性・緊急性がわかってきた。

この認識をもとに、拠点施設の機能を次のように選定した。

(4)拠点施設の機能具体化

1)事業イメージの想定

①在宅医療・介護分野の実践的研究

今後も高齢化が進む中、複雑化する医療・介護のノウハウやスキルに関する研究とその成果を住民にわかりやすく還元することが重要と判断し、「在宅医療・介護に関する実践研究」を施設機能の一つの柱とすることとなった。

○認知症予防など、地域の関心が高く、基本的な知識の共有が早急に求められる研究テーマを年度ごとに設定し、民間の研究機関を中心にした研究活動を行う。
○研究の成果は、地域の住民及び事業者にわかりやすい形で還元し、住民の医療・介護に役立てる。

②在宅介護人材の育成と斡旋

介護サービスのスキルアップを目的とした研修と、地域事業者の人材調達を支援する機能を二つ目の柱とし、以下のような事業概要を想定することとなった。

○地域の事業者向けに医療・介護のキャリアアップや管理スキルアップのための研修、中小事業所では開催が難しい階層別研修を企画・運営する。
○研修で専門知識とスキルを身につけた地域の求職者のスムーズな就業を支援する。また、介護人材不足に悩む事業者と求職者を結びつける人材マッチングや人材派遣の事業を展開する。

③生活支援トレーニングサービスの提供

旧施設に付随していた宿泊機能や厨房設備を有効に活用し、退院した高齢者への生活支援トレーニングサービスの提供を3番目の柱とすることにした。

当初は、このサービスに介護保険が適用できないか自治体内でも検討が行われ、上位の組織に相談してみたが、介護保険法では個々のサービス内容がきめ細かく定義されており、これを少しでも逸脱すれば保険の適用は難しいとのことだった。結局、部屋数や収容人数の規模がそれほど大きくなかったことから、結局、このサービスにかかる費用は、大部分を自治体側が負担することとした。

最終的には、利用する高齢者の状況に応じた最低限のケアを行い、在宅復帰に向けた環境整備や、家族と一体となった生活トレーニングを支援するための機能と位置づけた。

○退院から在宅への復帰を目指す高齢者が、ほぼ在宅に近い環境でトレーニングを積み、確実に在宅復帰をめざすためのサービスを提供する。
○本人が介護サービスを受けながら、自立した在宅生活を継続できるようにするために家族がどう接すればよいかを学ぶためのトレーニングを行う。

2)各機能別業務内容

続いて、設定された各々の機能を具体化するため、施設での業務内容の検討に移った。

①在宅医療・介護分野の実践的研究

在宅医療・介護の実践研究業務は、要介護者を家族に持つ地域住民が求める研究テーマの選定と、研究機関に対するセンターとしての支援内容を軸に検討を進めた。

研究テーマについては、介護施設等を運営する民間企業グループの研究機関の事例を参考に研究テーマを洗い出した。介護のために最低限知っておくべき知識・スキルも確かに必要であったが、それ以外に要介護状態になるのを少しでも遅らせるため、高齢者が興味をもって積極的に研究結果を聞きたいと思うテーマや、実際に参加して体を動かすことで介護予防につながるリクレーションをかねたテーマを中心に、以下のような内容を洗い出した。

■高齢者の食と健康

■認知症・誤嚥性肺炎

■新たな介護予防プログラムの作成

■高齢者向けe-スポーツの展開

■ICT・介護ロボットを利用した在宅高齢者の見守り

■AIを活用した健康管理システムの開発

これらに優先順位をつけたうえで、年度ごとにテーマを決定し、自治体で予算化することにした。

研究の委託にあたっては、住民のニーズに関心を持つ民間企業や大学、地域の専門機関を予め選定候補として登録し、各々のテーマにもっとも明るいところに委託する仕組みを作った。常に高齢者の在宅医療・介護に関するタイムリーな研究テーマを選定するため、旬のテーマの情報収集や、研究に取り組んでくれそうな事業者のフォローなど重要な業務を洗い出し、業務内容を設定した。

②在宅介護人材の育成と斡旋

介護人材の育成・斡旋については、当施設での年間研修要綱と研修プログラムの明確化、人材斡旋の仕組みの具体化が論点となった。

この地域には医療・福祉の専門機関が多くあり、識者を講師にした、地域住民や介護関連業務従事者向けの各種定期セミナーが開催されていた。したがって、ゼロから研修を組み立てるのではなく、これらのセミナーに、専門的な在宅介護のスキルやノウハウを習得してもらうプログラムを開発し追加することにした。

補完するプログラムの内容については、地元の事業者や従業員に直接ヒアリング調査を行い、付加すべき研修項目と内容を明確にしたうえで年間スケジュールにした。研修のスケジュール化にあたっては、建物の中の教室の規模や教室数からの制約、講義1回あたりの収容人数、年間の必要開催数、講師の調達可能性などを考慮にいれ、どの研修を年間何回までやり切れるか、シミュレーションを実施し、一年間及び数年間で開催可能な研修を体系化した。

研修費用は、教材費など一部を個人負担とし、残りの受講料は自治体側が負担することにした。

③生活支援トレーニングサービスの提供

生活支援トレーニングサービスは、これまでどの自治体も考えてこなかったサービスであり、ゼロからサービス内容を設定する必要があった。

事業コンセプトとして掲げた“在宅復帰を目指す高齢者が、在宅に近い環境で生活できること”を実現するには、本人の家族が一緒に宿泊できる機能を施設に持たせねばならないが、この施設は宿泊機能を有しており、事業コンセプトを実現するための制約はクリアできていた。

問題は、施設の中で、本人が自分の家にいる時と類似する環境をつくらねばならないことであり、それについては以下の2点に留意することにした。

■施設には常駐スタッフとして看護師を配置、それ以外のスタッフは緊急時の支援を行うこととし、通常は高齢者を見守ることにした。これは、そもそも高齢者が自力での生活を目標にした訓練を行う施設という位置づけを踏まえ、過剰な支援やサービスは敢えて慎むというものであった。

■自分の家で訪問医療サービスを受けていた高齢者には、それと同様な環境を施設内に作るため、外部の訪問医療、訪問介護の事業所をテナントとして入居させることにした。これにより、できるだけ自宅での生活と変わらない環境づくりが可能となった。

ここまでの検討経過を取り纏め、プロジェクトは首長に対して中間報告を行った。

首長からは、以下のようなコメントと要請があった。

「個々の事業の機能は住民のニーズに基づくものであり、どれも非常に充実していて良いと思う。しかし、これを、地域を代表するこれからの拠点施設と位置づけるなら、事業機能の一つひとつが独立して機能を果たすだけではもったいないと思う。」

「せっかく一つ屋根の下に複数の事業があるのだから、各々の事業が連携して相乗効果を生みだせる施設運営にしてほしい。各々の事業が連携しあい、地域の在宅医療・介護レベルの底上げを実現できれば理想的といえる。」

(5)各機能の連携可能性

中間報告の後、各事業の機能ごとの連携可能性について検討が行われた。

①研究センターと生活支援トレーニングサービスの連携

例えば、研究センターで行われるテーマの中には、実地でのデータを収集したり、開発した装置やシステムの効果を実証するための現場が必要になる。

この施設には、生活支援トレーニングサービスの利用者が居住しており、承諾を得られれば、施設の中で利用者のデータを収集したり、利用者に対して機器の使いやすさや使いごこちを検証してもらうことが可能であった。

利用者側から見れば、研究の成果を実際の介護の現場で実践してもらえる利点もあった。

また、このような研究の実証フィールドの確保が、研究機関を募集する際の大きなアドバンテージにもなると思われた。

②人材育成センターと生活支援トレーニングセンター

人材育成センターは、地域住民が身近にいる高齢者の介護に必要な知識やスキルをより多くの住民に学んでもらい、将来の介護人材の裾野を広げることを目的としたものである。

研修の中には実地指導が多く含まれるプログラムもあり、その実践の場として、施設内の生活支援トレーニングセンターを活用することができる。また、生活支援トレーニングセンターの利用者は、普段は介護サービスを受けていないが、必要に応じて周囲の支えが必要な時もある。そんな時に研修センターの人材が活用できそうだった。

実践の中で育った人材が、将来的に事業者に提供できれば、地域の在宅介護人材の需要と供給がうまく均衡し、事業者側の人手不足を解消することにつながると思われた。

③研究センターと人材育成センター

研究テーマの中で汎用性のあるものは、成果還元を単年だけでなく、新しい世代に繰り返し伝えていく必要があるため、研究内容をまとめて研修プログラムの中に関連づけ、一つの科目として研修センターで履修できるようにした。

また、研究機関等によっては、単独でなく、他の機関と合同で研究を行う可能性があり、彼らが研究しやすくするために、研修が開催されない時期に自由に研修室を利用してミーティングやプレゼンテーションを実施できるようにした。部屋にはWi-Fi機能を持たせ、複数の研究機関が合同でオンラインミーティングを開催できるような環境整備を行った。

(6)成果指標の設定

最後に、この施設の事業活動の評価をどう行うか、その成果指標について検討が実施された。他の事例を見る限りでは、多くの自治体で医療・介護分野での成果指標が設定されていたが、いずれも同じような指標が並んでおり、今一つインパクトに欠けるものが多かった。

このような指標を数多く羅列するだけでは、結局のところ、この事業が良いのか悪いのか判断できないのではないかという意見が多かった。

そこで、まず、この事業活動の目的に立ち返り、この施設で3つの事業活動を継続することで、最終的にこの地域で何を実現したいのか考えてみることにした。

そういう視点で再度事例を見直してみると、非常にユニークな考え方で成果指標を設定した地方自治体があった。この自治体は、自動車メーカーが原価低減のために達成すべき項目を体系化したものを参考に成果指標を関連づけていた。

この事例を参考にして、当施設の活用により「最終的には介護給付費を1%抑制する」という目標が設定され、それを達成するための定量的、定性的な指標が洗い出しされ、一つひとつの関係を考えながら図3のように指標を体系化した。

(7)事業予算推計と開業までのスケジューリング

施設が稼働するための年間の費用とそれに必要となる収入額(自治体が運営先に支払う委託料)を想定するため、旧施設の収支計算書等を参考に、各費目の設定根拠を明確にしながら総費用の見積が行われた。

地域の在宅医療・介護人材データベースの整備など、事業によっては開業時にスタートできないものは予定開始時期を定め、今後10年間の施設収支を想定した。

微調整はあったものの、各機能の組み合わせた施設はリノベーションされた建築物の枠内に収まり、収支面においても収支均衡の予算でいけそうな見込みが立った。

最終的に建物のリノベーションが開始されてから1年半後に施設開業時期が決まったため、開業前から遡り、事業ごとの準備項目、内容を洗い出し、担当部署を明確にしたうえで、準備スケジュールを作成した。

2 地域に根差す医療・介護施設づくりの留意点

(1)関係者の思いを拾う

地域社会に根差す医療・介護は、「高齢者本人」「家族」「医療・介護事業者」の三者の連携が必要であり、高齢者本人ができるだけ自宅で自分らしい生活が送れることを目指していくために、三者にとって必要な機能を揃えることが重要になる。

事例では、拠点施設の将来像についての意見交換とそれに基づく実態分析が行われ、結果を整理する中で、高齢者本人だけでなく、介護する家族が抱える不安や、人材不足で思うようなサービスができない事業者のジレンマを解消するために必要な機能を考えることなった。そこから、高齢者のいる家族に必要な知識を提供するための実践研究と成果還元、事業者の抱える人材不足の解決のための研修運営、自宅と医療・介護施設の中間にある生活支援サービスという3つの機能が明らかになっていった。

医療・介護サービスを受ける高齢者本人だけでなく、同居する家族や在宅医療・介護サービス事業者といったところまで視野を広げ、その思いを拾いあげることで、より地域の実情に沿う施設づくりが可能になる。

(2)施設内の機能連携により導入効果を最大化する

地域の医療・介護に貢献できる拠点施設の業務内容検討では、必要な機能を単体で配置することにとどまらず、機能どうしの相互連携により最大限の効果を生み出せることが望ましい。

事例においては、プロジェクトチームが施設に求められる機能を具体化し、業務内容と手順を設計する中で、「研究」、「人材育成」、「生活支援トレーニング」の3機能の相互連携について検討を行った。その結果、多くの相乗効果を見いだすことができた。

拠点施設内の機能の連携を図ることで、施設利用効果の最大化が可能となり、地域の医療・介護の一層の充実が期待される。

(3)成果指標にストーリー性を持たせる

地方自治体で医療・介護関連施設の新事業を始めるにあたっては、この施設が活用されることで、地域の在宅医療・介護に対してどれだけ効果があり、地域にどれだけの貢献ができたかをチェックする指標が必要になる。

大事なことは、一般的な効率性指標を並べ立てるのでなく、施設事業を実施することで最終的に何を目標にするかを定め、そのためにどの指標をどういう順番で目標達成するかのストーリー性を持たせることである。これにより、指標どうしの関係が住民に理解され、実践する側も評価する側も納得のいくものになる。

事業の評価を曖昧にしないためには、できるだけ定量的な指標を導入することが重要であるが、あまりそれにこだわりすぎると、逆に本来の目的を見失い過度に効率を追求するなどの恐れがあるため、指標選定は慎重に進める必要がある。

(4) 首長のリーダーシップ

今回のような事業を円滑に進めていくためには、地域の関係者の協力が不可欠であり、それらの賛同を得て成功に導くには、トップである首長のリーダーシップが何よりも大切になる。

事例では、老朽化した施設のリノベーションにあたり、首長がいち早く議会の声に対応し、かねてから温めていた自身の地域在宅医療・介護についての基本構想を議会に説き、施設づくりの方針を明確に提示したことが、その後の施設の機能や業務内容までのスムーズな検討につながった。検討のためのプロジェクトチームも、首長の声かけにより時間をロスすることなく設置され、効率的な検討を進めることができた。

地域の将来的なまちづくりを方向づけるのは自治体の首長の重要な役割である。特に高齢化が急速に進む地方自治体においての医療・介護の方向づけは喫緊の課題であることから、これまで以上に首長の主体的な関与が求められる。

高齢化社会が一層進展する中での地域社会の医療・介護の実現には、高齢者とその家族、及び医療・介護事業者の一層の奮起が前提になり、そのどれか一つが欠けても成立しない。これらが三位一体で相互に連携しあうことで、持続可能な地域社会が実現する。そのための基盤になる施設整備が、今、地方自治体に求められている。