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経営シリーズ

  • 企業理念浸透・組織風土改革

経営革新を進めるスタフの心構え

No.644 | 2023年12月号

今月の視点


 一度確立した企業経営の型を全く変えずに持続的発展を遂げることは稀であり、多くの企業は、絶えず何らかの経営革新に取り組んでいる。

 事業や組織の構造を大きく変える場合もあれば、小さな変化を積み重ねて強みを磨き上げる場合もあるなど、個々の企業が置かれた状況によって形は様々であるが、どのような経営革新でも、経営者が進むべき方向を決断し、社内が一丸となって取り組む動きをつくることが必要である。

 それを実現する過程ではいくつもの壁が待ち受けていて、経営革新を成功させるのは容易ではない。経営革新プロジェクトに取り組むスタフは様々な難局を乗り切らねばならない。

 今月は、経営革新を進めるスタフにとって大切な心構えについて考えてみたい。

1 経営革新の難しさ

今後の持続的発展に向け、目的を見定め、全社的な動きをつくり出すために、経営革新を進めるにあたっては、下図のような手順を踏むのがよい。

一連の過程の中では、一般的に様々な障害に直面することが多い。企業によって程度の差があるものの、例えば、以下のようなことが壁になりやすい。

(1)自社の進むべき方向を見極める難しさ

①客観的に自社の状況を見つめること

今向かっている方向や、社内であたり前と思われていることに誤りがないかを確認し、「変えてはならないこと」と「変えるべきこと」を見極めることから経営革新は始まる。

しかし、自社の状況を客観的に見ることは意外と難しい。「日々の業務に追われ環境変化の的確な把握が後回しになりやすい」、「部門の視点が優先し経営の視点からとらえるべき情報が経営責任者に伝わりにくい」、「過去の成功体験への思い入れが強く客観的な見方ができなくなっている」といったことがよくある。

意識して自問する必要がある。

②革新につながる新たな切り口を見いだすこと

「社内の情報や着眼点に限界が感じられる」、「既成概念にとらわれて現状延長線的な検討にとどまりがち」など、新たな革新の切り口を見いだすことも容易ではない。

(2)具体的なプランへの展開を図る難しさ

①実行可能性の見極め

「これならできる」「よし、これでいこう」という思いが共有され、力強い動きにつながるプランをつくるには、実施段階まで見越して検討を詰めておかなければならない。

しかし、「実行を可能にする要点が明確になっていない」、「どのような人材がどれだけ必要か、どれだけ時間がかかるかなど必要な経営資源が読み切れていない」といった計画づくりにとどまり、「詰めが甘いため思いのほか行き戻りや追加コストが発生してしまった」という例が少なくない。

②期待できる効果の見極め

「実行してみないとわからない」という面が全くない計画をつくるのは難しい。「効果がどれほどかなかなか確信できない」、「リスクまたはそのヘッジ方法が読み切れない」、「社内の独特の行動様式に阻まれないか心配である」などの不安を完全に払拭することは困難であるが、意思決定・実行に向けて、次の段階に進む判断をしなければならない。

③実行可能な具体的レベルへの落とし込み

計画は、実際に現場で実行できる内容に具体化されていることが望ましい。しかし、関係者それぞれが現場の実状を断片的にしか知らず、どうやって実行可能にするかの議論が空回りしてしまうことも少なくない。

(3)関係者が前向きになるまでの難しさ

①真の実施推進責任者をつくること

経営革新の実施推進責任者は、経営責任者の意志、経営革新の目的、実現するための要点と方策を十二分に理解して実行に移す必要がある。強制的な指示や参画要請を受け、受身で担当している状態ではうまくいかない。

②経営責任者からの後押しの度合

経営責任者がどれだけ後押ししてくれるか担当者はたいへん気にかけている。「担当者が経営責任者に遠慮して、実状を率直に伝えられない」、「過去のしがらみから経営責任者自身がなかなか明確な意思を示さない」といった状況は、経営革新にブレーキをかける。

③関係者の合意づくり

「互いに現場の実状を理解し合っていないがための意見対立」、「実行することによる利害関係を意識した『各論反対』」、「自分自身がやりたいこと、自分自身が考えた方法を譲らないことによる対立」など、関係者の足並みが揃わないことが最大の障害になっているという状況がよくある。

これらの難局は、他社に倣ったり、外部専門家の知見を借りたりしさえすれば即座に解決するようなものではない。社内の力を結集して一つひとつ地道に乗り越えるべきものであり、執念ともいえる強い意志で取り組んでこそ、経営革新に真の成功をもたらす。

2 経営革新を進めるスタフにとって大切な心構え

経営革新は全社一丸の主体的実践によって実現する。うまく社内の力を揃えることこそが革新を成功させる要件であり、それができればいつしか大きな変革を遂げることができる。

ただ、様々な事情や制約条件があってなかなかことが進まず、社内外の環境変化がそれを待ってくれないようなとき、経営革新プロジェクトの中心となるスタフの働きが、たいへん重要になる。とくに以下のような場面において、真価を発揮するために大切な心構えがある。

(1)経営革新の目的の具体化

①経営責任者の意図の理解

経営革新の最終的な責任を負うのは経営責任者であり、経営革新の目的を具体化するにあたっては、経営責任者の意図するところを出発点とするべきである。「経営革新に携わるスタフが、はたして自分の意図を的確につかんで知識と経験を活かしてくれるかどうか」を、経営責任者は常に気にかけている。

経営責任者の意図は、多くの場合、最初は抽象的なことばで示される。これを具体的・定量的な目的に置き換えるためには、スタフの側で段階的に具体的な作業課題に展開して経営責任者の確認を求め、その過程を通じて真意を確かめていかなければならない。

繰り返し指示を仰いで経営責任者の意図を的確に理解することが、まさに、経営革新の目的を確かめることに他ならない。

②的確な課題形成

スタフは、複雑に絡み合う問題点や解決すべき課題の一つひとつを慎重に吟味していく必要がある。なぜそれが問題となるのか、解決後にどういう状態が想定できるか、必要な経営資源は何か、どんなリスクがあるか、関係者の取り組み意欲は、・・・など、必要な問いかけを自ら行い、考えた結果をわかりやすく整理して経営責任者と協議することの連続である。

ただし、あらゆる課題を均等に並べて示しても有効な協議にならない。おさえるべき「へそ」にあたる課題は一つであり、それを明らかにすることが肝要である。最終的にその課題を明らかにすることができれば、他の諸課題の位置づけが自ずと明らかになる。まずは最優先課題に力を集中して一気に解決の方向に持っていくことが有効な場合が多い。

③公正な立場

経営責任者は経営全般に目を配り、そこには社内外から多くの情報が集まってくるが、日々の現場の詳細な実態をすべて把握しきれているとは限らない。現場は役割に応じた成果を出すために日々努力を続けており、そこで起きることについては他の誰よりもよく知っているが、全社のことを見渡す機会は多くない。

相互のこうした背景や立場をよく理解したうえで、それぞれの思いと情報や知恵がうまく共有され活かされるような橋渡し役になることが、スタフの極めて重要な役割の一つである。経営責任者の意図とそれを具体化するために必要な現場の状況をよく確かめ、公正な立場で客観的にわかりやすく、そして無用な誤解や混乱が生じないように表現しながら協議を重ねる姿勢と能力を身につけ発揮することが求められる。

(2)既成概念にとらわれない現状分析作業

①事実に基づいて考える

経営革新の必要性について共通認識を確立するためには、まず、これまで定説とされていたこと、わかりきっているといわれていたことにとらわれず、あらためて調査し分析し、事実に基づいて根本的に考え直さなければならない。

既成概念にとらわれずに、現場の声に耳を傾け、状況を具体的に分析し、印象を数字に変えて判断すると、実状は既成概念と違うことが意外に多い。部分的には正しくてもそれが現場を代表していないこともあれば、数年前まではその通りであっても今はすっかり変わってしまっているということもある。

②関係者との協同作業

経営革新に携わるスタフは、関係する事実を発見し分析して、その中から重要なものを見つけだす技術を持ち、プロジェクト遂行の手法を身につけていても、現場の仕事の専門家ではない。その仕事を本当に知っている現場の人に聞くことからまず始めるべきである。

現状分析作業は関係者の協力なくしては行えないが、協力を得る体制を整えて運営することによって、広く関係者の参画意識を高めることにもなる。

(3)経営責任者の意思決定の準備

①「手づくり」の革新提案

企業のあらゆる意思決定は経営責任者によって行われ、革新提案も意思決定により実施に移されて初めて成果を生むに至る。よって経営革新の提案は、経営責任者の意思決定に役立つものでなければならない。

どの会社にも一社一社固有の存在意義があり価値観がある。他社がやっていることは自社がやらなければいけないこととは限らない。むしろ他にない特徴を持っているからこそお客様の支持を得て存続していけるともいえる。当然、取り組むべき課題領域や取り組みの方向性は企業ごとに全く異なる。

ゆえに、経営革新はいつでも「手づくり」であり、企業の実状を一層よく知ろうという姿勢で、社内の人々の話に耳を傾けるスタフほど「手づくり」にふさわしい。誠実なスタフはことばの重みやことばにならない心の動きにも気を配る。経営責任者が懸念していることをよく理解し、現場の実状を聞いて分析し、実施可能性を十分吟味した革新提案と、それを評価するための視点を用意し、経営責任者の決断に役立とうとする。

②経営視点を持ち見識を高める

経営革新の提案づくりの過程では、社内になかった新たな革新の切り口を見つけることが必要な場合も多い。外部専門家の知見の提供をうけることで、よりよい方向性を見いだせることもある。ただし、それは、どこか他の企業でうまくいった枠組みを持ち込んで当てはめるのとは違う。あくまでも考える手だてや参考とすべき事例として分析し、自社にとって最もふさわしいあり方を練り上げるためのヒントである。

新たな切り口を得るために、経営革新に係るスタフは、どのように情報を収集し、それをどう活かすかを常日頃考えておくことが大切である。絶えず社外に目を向け、経済・社会の動向、多様な企業・商品・サービスの動向等に広く関心を持ち、今後、自社を取り巻く環境がどのように変化し、どのように自社の好機やリスクになりうるか、想像力を働かせておくべきである。

(4)期限を設けて成果を出す

いつ終わるかわからない検討は、やがて誰からも相手にされなくなる。経営革新の成果を上げるには「時機」をとらえるという大事な要素がある。企業を取り巻く環境条件、関係者の取り組み気運の盛り上がりなどは時間とともに変化する。「今こそ」というときをとらえる機動性と集中力が求められる。

スタフの重要な要件の一つはスピードである。経営革新に取り組もうとするとき、調査・分析の対象となりうる情報は山のように多い。また、理想を追い求めて際限なく調査や議論を続けてしまうこともある。しかし、現実を踏まえて重点を絞り、そこに力を集中する方が成功への早道である。全社的な視点に立って、一定の期間の中で、具体的な成果が得られる仕事をしなければならない。

(5)関係者の合意形成

①足並みを揃える

経営責任者はいつも総論賛成、各論反対に悩まされている。企業における上下左右の相互不信の空気は、多くの場合誤解に基づいている。誤解に基づく不信感をぬぐい去り、足並みを揃えることは容易でないが、経営革新を進めるうえで避けて通れない。

関係者の支持が得られなければ、実施責任者はいつも重圧にさらされ続けなければならないし、はじめから腰が引けてしまうことにもなりかねない。また、仮に新しい仕組みや制度を実施に移すことができても十分な合意を得られないままの見切り発車では早晩形骸化してしまう。

経営革新プランができ上がっても実施に結びつかないのは、足並みが揃わないことによる場合がたいへん多い。経営革新プロジェクトのスタフには、優れたプランを素早くつくり上げることへの貢献が当然求められるが、それだけでは十分に役割を果たしたとはいえない。

関係者の足並みを揃えて確実に実施に移せる保証を残すことがスタフの最も重要な役割であり、それは関係者との徹底した協同作業を通じて初めて可能になる。

②対話の中から合意に至る論点を見極める

役に立つ革新提案は、それにかかわるすべての人が十分な協議を重ね、ともに考え、ともに話し合う対話の果実として生まれる。

関係者の合意形成に至るには厳しい協議の繰り返しをいとわない勇気が必要である。反対意見をよく聞いているとその中に、真剣に会社をよくしようと考えている故の貴重なヒントがある。

とても折り合いがつきそうもない関係者間の対立に直面してもあきらめず、あくまでも公正な第三者の立場で、両者の合意点と相違点を注意深く見つめていくと、目的認識自体がすり合っていないのか、方法論の違いか、リスクに対する懸念の相違か、……など、具体的な違いが少しずつわかってくる。明らかになった相違点をどうしても埋めなければならないときは、必要な事実確認やシミュレーションを直ちに行う。決着しそうにない空虚な議論を際限なく続けるのは無益である。

③説得するより話を聞く

関係者の協力体制をつくり上げようと心から願うのであれば、どのようなときでも説得するべきではない。あくまでも共感の糸口となる接点を見いだすために集中して耳を傾ける。短時間の説得で本心からの合意は得られない。そればかりか、まだ知り得なかった大切な事実に二度と出会う機会がなくなるかもしれない。

経営革新では、現状の延長線上から脱し、一部方針を大きく転換させるような飛躍をねらう。しかし理想的にみえる革新プランができ上がっても実施されなければ役に立たない。

自社の特色と現実を十分考慮した「手づくり」の革新提案で、社内に蓄えられている潜在力を最大限に活かすことができてこそ、スタフが役に立ったといえる。