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グループ企業のあり方について考える

No.652 | 2024年8月号

今月の視点


 企業集団がグループ企業を持つに至るには大きな理由がある。事業領域の拡大、必要機能の安定的な提供、経営人材の育成環境づくり等である。

 しかし、当初の想定に反してグループ企業の取り扱いに苦慮している企業も多く見られる。親会社が「グループに依存している」「競争力がない」「グループの成長のために外貨(=グループ外からの収益)を積極的に稼いでほしい」という思いを募らせている。

 グループ企業はそれぞれ一つの事業体であり法人であるが、グループ企業であるが故の経営の難しさが随所に存在する。

 グループが健全な成長を実現するためには、「グループ企業をどう有効に機能させ、成長に資するようにしていくか」が重要な鍵となる。

 複数の事例から、グループ企業のあり方、戦略検討についての重要な視点を炙り出したい。

1 グループ企業とは

本シリーズでは、「グループ企業」について「親会社と資本関係にある会社」と定義する。資本の濃淡は問わず、親会社の出資比率が半分に満たなくても、親会社と一体的に経営する側面があれば、グループ企業と捉える。

グループ企業は、エリア、事業、機能など様々な単位で設立されていることがあり、加えて企業がどうグループを経営するかは「百社百様」といえる。企業がどの成長ステージにいるかによっても、そのスタイルは大きく異なる。例えば、事業領域の拡大に努めたい場合には、「遠心力」を働かせ、グループ企業に一定の権限と裁量を与えることもある。逆に、事業の急激な拡大や縮小を行う場合には、親会社が強大な権限をもって推し進めることが有効になる場合もある。

そのため本シリーズで取り上げる事例の一つひとつは、当然ながらそれぞれに特殊性が強い。自社の業種や業態、企業文化、置かれた状況、成し遂げたいことなどにより、今何をすべきかは大きく異なる。そのことを踏まえながらも、グループ企業のあり方について検討する際に共通する重要な視点を抽出してみたい。

2 事例1:グループ企業を見極める

A社はある地方を本拠地とし、傘下にグループ企業を数十社抱え、多様な事業を展開するコングロマリット企業である。
A社では、20年前に中核事業の市場に大きな変動があったことから、長年にわたり、新たな事業領域への拡張を行い、自社で子会社を立ち上げたり、外部企業を買収したりすることを繰り返してきた。

A社オーナーは、20年前に事業領域の拡大を目指して以降、グループ企業に大きな権限と裁量を与え、様々な市場への参入を果たしてきた。グループ企業の評価については長期的な視点を大事にし、新たな領域への進出や投資、外貨の獲得を強く奨励してきた。グループ企業に派遣するスタッフも、役職定年後のベテランではなく、30代~40代のいわば現役世代を中心とし、将来的な幹部候補生の育成のよき場にもなっていた。こうした施策が効果を発揮し、A社グループは大きく事業領域を拡大し、大いに発展してきた。

A社は上場企業ではないものの、時代に即し、資本効率を意識した業績管理やグループ会社共通の指標なども設定し、グループ経営を高度化させようとしていた。

一方で、グループ企業の中には、以下のような問題、課題を抱える企業が増えつつあることが、オーナーの頭を悩ませていた。

・ 拡大した事業領域にて競争力を保持できていない

・ グループ企業間で、領域の重複が見られるようになった

・ 各グループ企業の本業がおろそかになっている

・ 各グループ企業のミッションが不明確になっている

・ 各グループ企業間の競争が歪んでおり、単なる収益の奪い合いになっている

・ 結果として、これまでのようなグループ企業の成長が見られなくなっている

これらの状況を見たオーナーは、「これまでのグループ経営は、事業領域の拡張や経営人材の育成などに一定の効果をもたらした。グループ企業を見る指標も整備し、さらにグループ経営を高度化させようとしているが、ここで一旦立ち止まり、各グループ企業の総点検を行ったほうが良いのではないか」と思うに至った。

オーナーは、急遽役員を集めたオフサイトミーティングを合宿形式で行い、自らの問題意識を共有するとともに、これからのグループ経営やグループ企業のあり方について意識の摺合せを行った。そこでは、グループ企業の管理を管掌する経営企画担当常務からも、「正直に言えば、指標や業績管理の仕組みは整備しつつあるが、グループ企業が大きく増加したことから、現状の経営企画部のリソースでは、すべてのグループ企業の経営方針やあり方について検討する手が足りていない。通常は月次や年次の決算、年度計画策定時などではコミュニケーションをとるが、トラブルが発生した際以外は深い議論や指導などは行えていない。各グループ企業の市場動向やグループ企業そのものの課題が正確に把握できているわけではない」という現状が共有された。

A社オーナーは、これらを踏まえ、改めて外部のコンサルタントを招き、プロジェクトチームを編成して、特に問題が大きいと想定される10社を対象に、そのあり方や今後の成長可能性について調査検討を進めることとした。

経営企画部と外部コンサルタントを中心としたプロジェクトチームの発足に際し、A社オーナーは以下をプロジェクトの基本方針として定めた。

・ 対象グループ企業の総点検を行う

・ 事業や市場の実態を具に確かめること

・ 成長可能性はあるか、課題は克服可能かを検証すること

・ 対象グループ企業の競争力の視点と、グループとしての事業ポートフォリオ、グループシナジーの観点から検討すること

・ 対象グループ企業の方向性を定めることをゴールとし、最終的には統合や縮小、撤退といった視点も視野に入れた検討を行うこと

プロジェクトチームは、上記基本方針に基づき、以下のステップで検討を進めた。

まずグループ本体企業の取締役、対象となるグループ企業の経営トップに、現状の事業運営上の外部環境認識、課題、今後の戦略、成長戦略等についてヒアリングを実施した。その結果に基づいて調査の重点を整理し、事業の実態調査として社内データの分析や現場責任者へのヒアリングを実施し、同時に最新の市場動向を収集した。

仮説構築の段にあたって、得られた各種情報を吟味し、市場の成長性や事業競争力、事業ポートフォリオの観点から、グループ企業を、❶成長をミッションとする企業群、❷現機能を維持し安定的に提供することをミッションとする企業群、❸収支改善などのテコ入れが必要な企業群にまず大別した。

その上で、個々のグループ企業について、1)単独で成長や効率化を目指す、2)外部とのM&Aやアライアンスにより成長を目指す、3)統合により成長や効率化を目指す、4)統合により生き残りを目指す、5)縮小・撤退を行う、などの具体的な打ち手の案を定めた。

検討に際しては、市場の成長性、事業の収益性、事業の規模などの軸を定め、各事業を評価しプロットした上で、各社の位置づけや打ち手を明確にした。また、この段階では客観性を重視し、敢えて対象会社との検討を避け、プロジェクト主導で仮説を構築した。このことにより、現状に囚われすぎず、思い切った仮説が構築できた。

この後、プロジェクト案をベースに再度グループ企業の経営トップとの対話を行うこととした。具体的な根拠や打ち手をベースにした対話を繰り返す中で、グループ本体企業とグループ企業の目線が揃い、課題が共有でき、打ち手や方向性に多少の修正はあったものの、対象10社の方向性を定めることができた。

10社の中には、比較的簡単にその分類や打ち手が見つかるグループ企業も存在した。例えば、業界の伸びが見込まれるものの、規模の経済が働きやすく、大手の寡占化が進んでおり、中堅規模のプレイヤーの将来的な苦戦が想定されるような事業は、如何に売上規模が大きくとも、事業実態も鑑みれば「将来的には撤退もしくは外部資本受入による一部撤退」という方向性を共有することができた。また、単体事業としては収益性が低く、撤退が妥当ではないかと常々思われていた事業も、ビジネスモデル上は必要不可欠で、収益性確保に向けたもう一段の工夫・努力を重ねてでも存続すべき「汗をかく機能」であり、むしろ川上・川下機能のグループ会社と統合することでより大きな成長を目指せるのではないか、という結論にスムーズに至った。

A社グループでは、この10社の検討をベースに、グループとしての戦略やグループ企業の戦略、計画策定、業績管理の仕組みを再編成し、今も継続し、試行錯誤を重ねながらグループ企業のあり方を常に点検している。

3 事例2:グループ企業の構造的課題に挑む

B社グループは、首都圏を中心に、中核である小売業に加え、サービス業、建築業などの生活関連産業を幅広く手がけている。

中核且つ祖業である小売業を中心に、消費者のニーズを途切れずに捉まえ、次々と事業領域を拡大させてきた。B社社長は、商品・サービスの設計やデザインを重視しており、事業領域を拡大する中で、デザイン・設計・意匠などを担うグループ企業b社を立ち上げ、グループとともに成長させてきた。

事業領域の拡大がひと段落し、コロナ禍を経たところで、B社社長はあらためて今後のグループ全体の成長戦略を描くこととした。これまでと同じく、消費者に寄り添いながら事業領域を拡大していく戦略を構想する一方、これまでb社が培ってきたデザインや設計、意匠などのノウハウを外販することによる成長にも注力することを謳った。

B社社長は、「b社は良いノウハウや技術力を持っている。時折驚くような外部案件を獲得し、業界では有名な表彰を得るなどしている。しかし、それが継続的な動きとなっていない。b社の外販の伸長を成功させ、グループ各社がこれまでの成長の中で培ったノウハウを活かして積極的に外部に打って出ることの範を示してもらいたい」という思いを持っていた。

このような思いがある一方で、グループ企業の中ではやや異質な面もあるb社の戦略を検討するために、外部コンサルタントを入れることが必要であるとB社社長は判断した。

早速プロジェクトチームが組成され、「業界の潮流や環境をよく見極め、b社が今後何を強みとしてどう戦っていくのか」を検討することとした。

プロジェクトチームでは、外部環境を具に棚卸することを試みた。先進企業へのヒアリングや業界有識者へのヒアリングから市場の動向などを具に拾い上げ、b社が目指すべき方向感や今後成長するために身に着ける必要のある技術領域などを早期に見出すことができた。例えば、デザインや意匠の世界でも、その制作過程だけではなく、如何にデジタル技術を見据えたものとするかがポイントとなるといったことが明らかになった。

b社の実態分析も行ったが、目指すべき方向感と現状とのギャップが極めて大きく、このギャップを埋めなければ折角見出した戦略が実現されないことをプロジェクトチームは痛感した。b社の収入の大半がB社グループからの発注であることは誰もが知るところであったものの、以下のような経営上の問題点を解決できるかどうかが今後の成長戦略の成否を左右すると考えられた。

・ B社グループの事業領域拡大や、ヒット商品・サービスの有無が、そのままb社の業績となってしまっている

・ 親会社であるB社からの出向者が全部門長を占めており、B社のローテーションルールに従い、極めて短期間(2~3年)で異動を繰り返している

・ 大きな戦略レベルでは、「外貨の獲得」、「デジタルへの対応」というお題目は出向者が変わっても不変ではあるが、戦術レベルでは出向者の嗜好や性格が色濃く反映されており、プロパー人材は混乱してしまっている

・ デジタル領域など一定の専門性を持った人材を採用するが、戦術レベルの変更が相次ぐこと、人件費水準が業界では低いことから定着していないこと

・ プロパー人材の離職率が高止まりしてしまっていること

プロジェクトチームは、外部環境から導き出された目指すべき方向感を現実のものとするには、b社が抱える構造的な課題を解決することが不可欠であると認識し、B社社長へ報告を行った。

B社社長は、プロジェクトからの報告を受け、「b社のように機能を外販する成長戦略は、これまでの中核事業から滲み出していく拡大戦略とは一線を画すものかもしれない。B社の中核メンバーがb社の成長もハンドリングするのが良いと思っていたが、どうやらそれは最善ではないということがよくわかった。b社の採るべき戦略には全く違和感がなく、むしろその戦略を実現するために最適な体制はどういったものなのか、聖域なく検討するように」とプロジェクトに命じた。

プロジェクトチームは、他社事例も参考にしながら、b社の本格的な成長のために最適な体制、最適な社内の仕組み、制度の検討を行った。

例えば、b社のプロパー人材比率を設定することとした。これからより専門性を高め、外部の競合と戦い顧客を獲得していくためには、よりデザインや意匠の業界に精通した人材が不可欠であるためである。積極的に専門性の高い人材を獲得することを目指し、採用戦略の見直しも行った。

専門性の高い人材を採用、定着させるための人事制度の改定も行うこととした。B社グループで不文律的に設定されていた給与の上限を撤廃し、専門性の高い社員を処遇するコースを設けるなどの手立てを講じることとした。

b社は、B社社長のリーダーシップのもと、新たな戦略とその戦略に最適な体制・仕組みの構築に向け動き出した。早速に既存のプロパー社員もこの動きを前向きに捉え、新たな取り組み、新たな仕組みの提案などが次々に起こっているという。

一般的にグループ企業は、他のグループ企業や親会社の仕組み・制度の引力が働き、b社のような動きを取れないことがある。そのような状況下で、「外貨の獲得」というような戦略の変化が掛け声に終わっているケースも多くあるのではないだろうか。B社グループのように、あるグループ企業へのミッションを大きく変え、成長に向かわせるためには、グループ企業に存在する課題、とりわけグループ企業であることによる構造的な課題を解決し、枷を外すことが必要である。

4 事例3:グループ企業をあらゆる角度から点検する

C社は関西地域を中心に、インフラ関連の事業を幅広く展開する企業である。C社では、グループ企業が20社以上あり、その事業内容や対象とする市場も異なり、数年前から「どのようなグループ経営を行うべきか」検討を重ね、資本効率も加味した各種指標を整備していた。

C社グループでは、本業を中心として成長していくために一定規模の投資が必要であり、ノンコア事業や不採算事業の見直しが喫緊の課題となっていた。

C社社長は、ノンコア事業や不採算事業の見直しに際し、これまでC社グループが地域に密着し、雇用を何よりも大事にしてきたことを振り返り、「数字だけによる冷徹な判断はしない。ノンコアであったとしても、不採算であったとしても、しっかりと当事会社や従業員に向き合い、納得のいく答えを出していきたい。多少決断が遅れたとしても、当社は投資会社ではなく、地域に密着するインフラを支える会社であることを忘れてはいけない」と考えた。

C社では、施設のメンテナンスや清掃を行うc社をパイロットケースとし、事業の見極めを行うこととした。C社グループでの事業の見極めは今後一定期間続くと考えられ、c社の検討はそのパイロットケースであり、グループ全体へのメッセージにもなると考え、C社社長は、万全を期してコンサルタントを活用し、経営企画部とプロジェクトチームを組成し検討させた。

プロジェクトチームは、以下のステップを設計した。

❶客観的な市場、外部環境、事業実態分析の実施

❷現状のc社課題の抽出、課題が解決された姿の明示

❸現実シナリオの策定(撤退~現状維持)

❹発展シナリオの策定(あらゆる手立てによる生き残り)

❺c社を交えたシナリオの集中検討

❻c社に関する意思決定

まずプロジェクトチームは客観的に、市場や成長性、事業実態に関する分析を実施し、将来的な成行収支試算も行い、今後の検討のベースとした(❶)。

加えて、c社が現状抱えている課題を、綿密なインタビュー調査を経て抽出するとともに、それらの課題が解決されると
c社はどのような姿となるかも描いた(❷)。

ここからプロジェクトは、ありとあらゆる戦略シナリオ、オプションを検討した (❸、 ❹)。現実的に現状維持を行うシナリ
オ、撤退を行うシナリオ、思い切った投資やM&Aにより成長を目指すシナリオ、業界大手とのアライアンスにより生き残るシナリオ、業界スタートアップと提携することで成長するシナリオ、地域の有力な競合企業と統合することによる生き残りシナリオなど、あらゆるシナリオを検討し、必要投資額、コストや効果、リスクなどを洗い出した。この「あらゆるシナリオの抽出」に3週間の時間をかけ、徹底的にシナリオを洗い出した。

プロジェクトではこの現状認識(❶、 ❷)及びシナリオ(❸、
❹) を持ち、 C社社長を交え、 c社と集中的に検討を行った (❺)。
集中検討を行うに際し、プロジェクトチームの中には、「ここまでシナリオを広げると判断ができなくなるのではないか」、「生き残りの可能性がある中で、撤退すべきという判断ができなくなるのではないか」と危惧する声もあった。これらの懸念に対しC社社長は、「しっかりと事実とオプションを提示し、ともに考えることが重要である。撤退が絶対ではない。撤退にしても、継続にしても、成長にしても、C社とc社がそれぞれ納得していなくてはいけない」と述べ、集中検討を実施した。

約1週間、オフサイトにて集中的な協議・討議を行い、結果として、「c社事業は撤退しかない」という結論に至った。

客観的な外部・内部の情報をベースにした検討で、参加者の目線が揃い、各シナリオのレビューや可能性についても真摯な議論が行われた。

c社の社長は「ここまでc社の事業やシナリオを検討してくれるとは思っていなかった。c社を預かる身としても、撤退は納得できる結論である。事業撤退は厳しい決断ではあるが、自信をもって社員に説明できるし、社員も必ず理解してくれる。」と述べた。

C社グループでは、「撤退するべきではないか」という候補にあがっていたグループ企業c社が、結果としてその通り撤退することとなった。しかし、C社社長は、このプロセスにこそ意味があったと確信しているという。事業継続するにしても、撤退するにしても、関係者が曇りなく認識を共有していることが重要であり、そのためには、一方的に撤退を突き付けるのではなく、突き放して考えさせるのではなく、真摯にどうすべきかをともに考えることが重要だからである。

このプロセスを経ることにより、C社では他のグループ企業、グループ社員が、後ろ向きになることはなく、その後の各種事業の見極めや撤退に関する判断もスムーズに行うことができた。

5 グループ企業のあり方を考える際のポイント

(1)ファクトをつかむ

グループ企業が多ければ多いほど、中核事業から離れれば離れるほど、その実態は親会社から見えていないことが多い。市場の動向や事業の実態、競争力など、想像以上に見えていない。

また、見えていないことだけではなく、「見えている」と思ってしまいがちなことも、大きな問題となる。ファクトを正確に把握できていないにもかかわらず、風評や噂、印象で意思決定をしてしまい、選択を誤ってしまう例も多い。

たとえ本業と近い業種業態や、本体企業とグループ企業が受発注関係にあるような場合であっても、市場は常に変化しており、技術革新が起きていることもある。

グループ企業から見た場合も、仮にグループ向け収益が多いような場合には、当該市場を正確に認識できているとは言えないことがある。

正しい意思決定は正しいファクトファインディングからしか生まれない。事業実態にしても、市場の動向についても、必要に応じて外部のコンサルタント等の力も借りながら、改めてしっかりと抑える必要があることに留意しなければならない。

(2)事業ポートフォリオと競争力の2つの視点

グループ企業やその事業を見る際には、❶グループとしての事業ポートフォリオの視点、❷個別の事業としての競争力の視点の両方が必要となる。

グループ企業が行っている各事業には、グループ全体のポートフォリオや、グループの他の企業や事業とのシナジーから見た意義、必要性が存在する。この視点は極めて重要ではあるものの、ここに重点を置きすぎると、競争力のない事業を生き永らえさせてしまうということになりかねない。

一方、個別の事業の競争力だけで物事を判断しようとすると、グループとのシナジーや、グループ全体として一つのバリューチェーンを持つことの意義などを失わせてしまう結果を招きかねない。

グループ全体が置かれている状況や、グループ企業が置かれている状況により、ポートフォリオと競争力の視点の重点の置き方は異なる。状況によっては、「敢えて」徹底的に片方だけの視点から検討をすることもあるが、一般的には両方の視点をもって検討をする必要があると言えるだろう。

(3)どこまでグループ企業に寄り添うか

(2)のポイントと似ているが、親会社やグループ全体の視点に立った時、グループ企業や個別の事業にどこまで寄り添って検討するかも一つのポイントとなる。

徹底的にグループ企業に寄り添い、どうにか再生、発展させようとすること、あるいはグループとしての雇用の確保や地域への貢献など、グループ企業の視点に立って検討をすることは重要である。しかし、これが行き過ぎると、どの事業も辞められない、辞めるべき事業から撤退できない、という状況に陥ってしまう。

逆に、グループ企業には寄り添わず、冷酷にグループ企業を見極めていく視点も重要である。ただし、あまりにもこの視点が強すぎると、「本業以外やる意味がない」ということにもなりかねない。事業の縮小や撤退のスピード感は生まれるものの、将来的な成長の種を失うことになりかねない。

グループ企業について検討をする際には、予めどういったスタンスで検討をするのか、どういったバランスをとるのかということも念頭に置いておくことが求められる。

(4)構造的な課題に着目する

グループ企業を見る際には、その事業だけをみるのではなく、組織や人材を含めた、構造的な課題に着目する必要がある。

人材で言えば、出向者の数やその占めるポジション、プロパーの採用や育成、登用状況などに着目する必要がある。場合によっては、出向者の専門性とグループ企業の事業がマッチしていないこともある。出向者が頻繁にローテーションにより異動してしまうことが課題となっている場合もある。さらにミクロな視点に目を転じれば、とある出向者の経営者としての能力に依存してしまっている、というような状況が生じていることもある。また、人事制度、とりわけ給与水準なども重要なポイントとなる。グループ全体の水準に引きずられやすいグループ企業の給与水準が、当該業界の水準と乖離していることもあるからである。

事業の観点で言えば、「グループへの依存度」の高低が一つのポイントとなるだろう。グループへの依存度が高ければ、グループ企業は安定した売上を確保できているとも言えるが、グループ外部の売上を確保するためには、その営業力が課題になることも想定される。あるいは、製品やサービスの内容がグループ仕様となっており、市場とずれが生じている可能性もある。

いかに戦略自体が正しかったとしても、これらの構造的な課題に着目し、その解決のための手立てを採らないと、その戦略が実現されることはない。

(5)グループ企業との対話

グループ企業の戦略を実現させるためには、当のグループ企業からの理解も必要不可欠である。また、グループ企業と対話を重ねる中で、(4)にあるような構造的な課題が浮き彫りになることもある。グループとして、親会社として強力に物事を決めることも重要だが、グループ企業との対話なくして、着実な成果は得られないだろう。

対話を行うタイミングも、一つのポイントである。適切なタイミングでの対話が重要となる。例えば、撤退なども視野に入っている検討の冒頭から対話を重視しすぎると、グループ企業からの反発や防御反応が起き、検討が円滑に進まないこともある。親会社など検討主体としても、市場や事業の実態をある程度は掴んでからでないと、実りのある対話になりにくい。また、グループ会社が「親会社はわかっていない」と思いはじめてしまうと、検討がスムーズに立ち上がらない。

あくまで、グループやグループ企業の置かれた状況、それぞれの業種や業態により、これらのポイントは重点や濃淡が異なる。しかしながら、どの場合でも、これらのポイントを念頭に置き、入念に確認をし、それぞれのバランスを見定めながら検討を行うことが、グループ企業、ひいてはグループの成長のために重要である。

グループ企業に対して、横ぐしを差すために共通の指標や業績管理のための指標を設定し、管理することは重要である。そのうえで、真にそのグループ企業や事業を変革していく、撤退も含めた大きな決断をしていくのであれば、それらの指標の背景までより深く入り込み、意思決定を行おうとする姿勢が重要となるのではないだろうか。