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組織活性化への挑戦

No.653 | 2024年9月号

今月の視点


 経営者は、自社の社員が活き活きと働いているかどうかを常に気にかけている。市況の変化、会社組織の発展段階の節目、そして働き方改革やDX、SX、CGコード対応、仕事に対する人々の意識の変化など、企業を取り巻く様々な環境の変化に対応するために、組織の活力を高めておく必要がある。組織の活性化は、いつの時代も経営者を悩ませる重要課題である。

 営業施策やコスト削減といった比較的分かり易い取り組みと比較して、組織活性化は漠然としており効果も測りにくい。何から取り組んでよいか分からないことも多い。しかし取り組みが後手に回ればじわじわと社員の活力を蝕み、気づけば会社全体が茹でガエルと化してしまうこともある。企業にとって組織活性化は難しい課題であるが、挑戦を避けてはならない。

 今月はこの難しい命題に取り組む際の留意点を考えてみたい。

1 組織の活性化とは

(1)組織が活性化している状態

そもそも組織の活性化とは何を指すのだろうか。

組織が活性化した状態では、社員一人ひとりが活き活きと仕事をしている。企業ビジョンや経営理念の実現に向けて一人ひとりが主体的に仕事に取り組み、実力を発揮している状態である。そのためには会社の目標が明確になっており、その目標と求められる役割を各人が理解し、しかも一人ひとりの目標や希望と整合性がとれていなければならない。以下の図でいえば生産性が高く、同時に一人ひとりのモラール(士気、意欲)も高い状態である。

言いかえれば、社員が企業ビジョンや経営理念に共感し、ベクトルが揃っている状態である。

(2)活性化状態のもうひとつの捉え方

別の捉え方をすると、組織が活性化された状態とは非平衡な状態即ち不安定な状態であるとも言える。現状をよくしたいという改革のエネルギーは、危機的な状況つまり不安定な状態の中から生まれやすいためである。安定状態では社員は変化を嫌い、なあなあで納めようとするため、組織は不活性的となりやすい。一方で不安定状態では、変化を取り込むために、話し合いや協力関係が必要となり組織は活性化する。

経営者は意図的にこのような「ゆらぎ」を作り出すために、時にこれまでとは異なる方針や曖昧なビジョンを敢えて示すこともある。

(3)組織活性化の意義

この不活性の状態に長く留まっていると、組織は場当たり的なその場対応から始まる消極的サイクルの悪循環(下図左)に陥ってしまうことが多い。「一人ひとりが活き活きとして、お互いに言うべきことを言いながら協力する状態」は、安心して仕事に打ち込める環境を作り、この悪循環から脱却して積極的サイクル(下図右)に変移するきっかけとなる。安心して仕事に打ち込める環境によって、計画的・戦略的思考が生まれ長期的視野を形成する土台ができる。これは事前のトラブルを予測する力に繋がり、業務の計画化による負荷軽減への接点にもなる。かくして社員は適切な余裕をもち、能動的かつ外向き志向で業務にあたり、社内に加点主義の思想が根付く。人が育つ組織が形成され業績向上に向かい、積極的サイクルが回り出す。

2 組織活性化の二つのアプローチ

(1)ハードアプローチとソフトアプローチ

ここまで、活性化された組織とはどのような状態を指すのか、また活性化するためのポイントをみてきた。では実際に組織活性化への取り組みとしては何をすればよいのだろうか。各社が多種多様な取り組みを行っているが、それらを大別するとハードアプローチとソフトアプロ―チの二つに整理できる。

(2)ハードアプローチ ~6つの改善領域~

ハードアプローチとは、組織・業務・制度等を対象に、まず目に見えるものを変えることで目に見えないものを変えるきっかけとすることを指す。多くの取り組み事例があり、アプローチ方法が体系化され、成功事例や失敗事例の蓄積も多い。アプローチ方法やイメージを社内である程度固めた上で外部コンサルティング会社に相談や支援依頼をする場合も多い。

組織活性化へのハードアプローチは下記6つに分類できる。

①企業理念の浸透自社は何を目指すのか、どのような企業になりたいのかについて共有化し理解を深める
②経営戦略の策定中長期的な目標とそれに至るための戦略、方法を明らかにする
③組織構造の再編共通の目標に向かって協同したり、行動しやすいような仕組みや体制をつくる
④人事制度の改革必要とされる人材の育成と処遇の方策を定める
⑤業績管理方法の改定目標と実績を定量的に把握するための仕組みをつくる
⑥業務システムの改善実際の仕事のやり方を抜本的に改善し効率化し、より注力したい仕事に取り組めるようにする

(3)ソフトアプローチの考え方と事例

対してソフトアプローチとは、目に見えない部分にアプローチして徐々に変えていくことを指す。オフサイトミーティングなどがその一例であり、時間はかかるが個々人の主体的な意思に基づいて少しずつ改革していこうという考え方である。制度や仕組みのハードアプローチが西洋医学的であるのに対し、個々人の意識に直接はたらきかける場づくりであるソフトアプローチは東洋医学的であるといえる。

ハードアプローチと比較すると、最初の時点では何をすべきかがクリアではないことが多い。

(ソフトアプローチの実例)

3 A社の事例

(1)A社の概要

日本と東南アジアを主戦場とする卸売業A社は、中期の成長目標を実現できない状態が長年続いていた。現社長は会社トップに立ってからの年数が長く、業界の先を見据えた自らの構想を実現すれば、描いた成長を現実のものにできると確信していた。一方で社員は中期目標を達成できないことに慣れてしまい、社内に漂う停滞感は年々濃くなっていた。社長は今手を打たなければこの停滞感から抜け出せないと決断し、組織活性化プロジェクトチームを立ち上げた。プロジェクトチームがまず社内で広く匿名インタビュー調査を行ったところ、様々な課題が浮かび上がった。中でも深刻と思われたのは、会社が掲げる中期の成長目標への手触り感がなく、各部門は達成意欲の乏しいままに年度施策へ展開している点であった。この状況を打破すべく、プロジェクトチームは目標管理制度と評価制度を中心とした人事制度の改訂を提案した。報告を受けた社長は暫く考えたのちに次の指示を出した。「部門長らが中期目標への肚落ち感を持てない中、その達成を強いる人事制度を打ち出しては、さらに活力が削がれかねない。まずは皆の目線を合わせることが大切だろう。長期ビジョンをとりまとめ、 皆で共有して欲しい。」

(2)長期ビジョンから中期事業展開、そして短期施策へ

社長の意を受けたプロジェクトチームは、市場調査と業界関係者へのインタビュー、そして社長の長期事業構想を丹念に聞き取って長期ビジョンをとりまとめた。そこにはA社が目指す10年後の姿が夢を伴って描かれており、 これにより長期ビジョンと現実を繋ぐ位置にある中期目標の意味合いが明確になった。

続いてプロジェクトは長期ビジョン実現のための重点事業として、社内7事業のうち3事業を選定し、これら3事業の中期重点施策を各部門長とともに具体化していった。これまでの重点施策は部門長が単独で考えていたのに対し、今回は社長との対話を繰り返す中で中期の方向性を具体化することとした。

各部門長は重点施策具体化にあたって実際の推進役となる若手管理職クラスをプロジェクトメンバーに任命し、当該検討の目的が、「まずは長期ビジョンをふまえ中期目標を実現するための重点施策検討」であるとの認識の共有化を丁寧に行った。向かう方向が明確になった中での施策検討は前向きな空気の中で進み、若手と部門長が策定した施策案を社長協議で練り込んでいくという工程を事業ごとに数回繰り返した。

一連の検討によって長期ビジョン、中期目標、重点施策の繋がりが分かり易くなり、単年度目標達成の機運は着実に高まった。それだけではなく、長期を見据えた商品開発部門の人材育成や倉庫投資の起案など、これまでは社長任せだった経営資源配分について部門長から提案されるようになった。社長は、徐々にではあるが、各部門長の意識が変化してきたことに手ごたえを感じ始めていた。手を緩めることなくプロジェクトチームに次の指示を出した。「この変化の流れを止めてはならない。2年後に分社化し、純粋持株会社体制(以下「HD体制」)に移行したい。目的は組織を小さくすることで市場のニーズに即応できるスピート感を磨くことと、何よりも経営人材を育成し、増やしていくことである。」

プロジェクトは第二フェーズへと進み、HD体制への移行準備が進められている。HD体制移行に伴い、各社の業績評価の仕組みの構築、グループ各社の事業特性に見合った人事制度の改革、情報システムの変更など、様々なサブプロジェクトが並行して走っている。社員からは急激な変化に戸惑う声も出ているものの、中堅社員を中心に前向きに捉える者が多く、かつて社内に蔓延していた停滞感は薄れている。

4 B社の事例

(1)B社の概要

全国に約20の工場を持つ食品製造業B社グループは、近年M&Aを重ねてグループ会社を増やすとともに、計画的な製品開発を武器とした流通ルートの拡大で順調に業績を伸ばしている。しかし社長は将来への危機感を強く持っていた。B社グループはその商品特性から地域単位で営業と製造が行われており社内カンパニー制を敷いている。本来は買収して傘下に入れたグループ会社をも各地域カンパニーが統制して地域内全体最適を図るべきだが、必ずしもそのような視点で営業政策・製品政策を立案推進できてはいなかった。また、B社グループ全体でシナジーを発揮することも極めて重要であるが、そこまで考えて地域カンパニーを運営できる人材は非常に限られていた。

B社は社長の強力なリーダーシップで事業を展開してきたがゆえに、各地域カンパニーは現状の事業範囲を拡大する発想が弱く、また地域間・部門間の壁が厚く高く、それらを越えて何かをする際には社長の指示待ちという風土が根付いていた。しかしながら、今後のB社の更なる事業規模拡大を見据えた時、社長一人がグループ全体視点で考えている状態から脱却する必要がある。このまま地域カンパニーと各地域のグループ会社がそれぞれ個別最適で事業推進していては、地域ごとに存在する強力な競合社には勝てないと社長は危惧していた。

グループの意識改革を進めて組織を活性化し次の発展段階へとステップアップするためには、まず幹部が自分たちで中長期の舵取りを考える組織風土へと改革する必要がある。社長は意識改革の起点となるべきカンパニー長を集め、対面ディスカッションを指示した。

(2)地域カンパニー長による経営課題の討議

参加者は各地域カンパニー長6名に外部コンサルタントを加えた7名とした。コンサルタントには議論における中立な進行役を依頼した。初回のディスカッションテーマは「地域ごとに、グループ会社を含めた全体最適を実現するための課題は何か」という広めの設定とし、初回に出た課題を次回以降に議論し深めていくこととした。

参加者は多忙を極めるメンバーだが、毎月一度以上は顔を合わせ、一年弱に亘り大いに議論を重ねた。各カンパニー長が地域の中期発展シナリオを自ら描くことの必要性とその際の重要要素の展開、過去のM&Aの振り返りと反省から今後のPMI(M&Aの効果を最大化するための統合作業)のあり方、予算編成ルールへの理解を深めることや人事関連制度の部分改定についても議論し、それらのうちいくつかは具体的な提案事項としてとりまとめて社長へ報告することを繰り返した。

(3)B社のソフトアプローチの要諦

このようなカンパニー長による討議は、普段のB社グループであれば社長が検討し意思決定する、または少なくとも社長の居る場で決定されるものであるが、今回は社長不在で議論した。

各カンパニー長は役員クラスであり、本来は会社全体を考えながら業務に取り組むべきであるが、実際には自カンパニー内の問題対応が優先されていた。このプロジェクトでは、自ずと「社長であればこう考えるのではないか」「先代の番頭格役員はこうしていた」など、自カンパニーのみに囚われない経営目線やB社ではなくB社グループとしての目線で各課題と向き合うことになった。

社長は同席しないことを徹底するが、プロジェクトリーダーである関東地域のカンパニー長とコンサルタントが各回の協議結果をとりまとめて社長に報告し、議論に対する社長のコメントや意見を次回討議に持ち帰ることで、ひとつの議題が複数回に亘って議論されスパイラルアップされていった。

各メンバーは、回を重ねる毎に、自ら考えるべき視点や実際の仕事の中で果たすべき役割を強く意識するようになり、活発な議論が交わされるようになった。

また、検討の中ですぐに実施できる施策は全ての検討が終わることを待たず実行に移すような動きが見られようになった。仕組みや組織を実際に変えるなどの施策である。対面討議自体はソフトアプローチに分類できるが、仕組みや組織変更等のハードアプローチが繰り出されることで活性化に向けた動きが全社的に広がっていくこととなった。

さらに、この討議に参加するカンパニー長たちは、今後のグループ経営を強化する上での鍵を握る人材である。今回の経営課題の討議より導出された施策は、カンパニー長のリーダーシップのもと実施に移され、討議への参加者たちが中長期の舵取りを自ら行い風土改革の先頭に立つ構図を作ることができた。

組織活性化のキーパーソンとなるカンパニー長が、各人の管掌領域を飛び越えて全社目線・グループ目線で討議するプロセス自体が、安住の場に留まれない「ゆらぎ」と言うべき状態であり、経営者がこのような状況をあえて作り出したことに大きな意味があると考えられる。

5 組織活性化に取り組む際の留意点

(1)背景の理解整理と目的の明確化

組織活性化は、ほぼあらゆる企業の共通の課題と言っても過言ではない。しかし、「なぜ今、組織活性化に取り組む必要があるのか」、「奏功した暁には今と何がどのように変化して欲しいのか」、「そのための取り組み方法は何か」は会社によって千差万別である。事例のA社とB社も、起点となった問題意識は異なるが、同じく組織の活性化に取り組んだ。

多くの企業が悩んでいるがゆえに、他社事例を拾おうと思えば特にハードアプローチであればいくらでも収集できる。しかし他社事例のどの施策を取り入れるかという考え方、即ち方法の選択を端緒にした場合、まず成果はあがらない。経営コンサルタントとして経営課題の解決に取り組む事例を様々な領域で見聞きするが、他社事例の模倣が特に通用しにくいのが組織活性化である。

まず意識を変えるべき層が、自社固有の背景と意識改革の必要性を十分認識することが重要になる。そのためには、現状の事業の発展段階を的確に理解し、自社の先人たちの取り組みやその結果を確認し、現時点で解決すべき課題と自らが何をしなければならないかを自分自身で考える必要がある。そうすることで当社の組織活性化の必要性や目的が実感として理解できるようになる。遠回りに思えてもプロジェクト発足後はまず、このプロセスを丁寧に辿ることが肝要である。

(2)二つのアプローチの併用

企業組織は、組織機構や制度など目に見えるもの(ハードな部分)と、社風・組織体質などといわれる目に見えないもの(ソフトな部分)とから成る。目に見えないものを変えない限り企業の変革はなく、目に見えないものは一朝一夕には変わらない。明文化が可能な戦略や形で表せる組織を変えることは、企業が変わる大きなきっかけになるが、それだけでは企業の本質までの変革には至らない。

A社の事例において、長期ビジョン策定自体はハードアプローチとして捉えられる。ビジョンそのものも重要であるが、むしろその策定方法や取り組み過程を通じて組織活性化のキーになる部門長と若手管理職クラスの意識を変えていくことを狙ったソフトアプローチと捉えることもできる。B社事例でも同様である。さらにA社では、プロジェクトと並行して、実は社長が一年間かけて全国の拠点を回り、一度に5名程度の社員らと直接懇談をするなどのソフトアプローチを実施している。

各層の意識に変化が出てきた後、組織体制変更とそれに伴う経営管理の仕組みの変更というハードアプローチに着手し、多面的、持続的に活性化に向けた諸施策を講じている。

B社の事例はソフトアプローチから始まり、関係者の意識に変化が生まれ、様々なハードアプローチの取り組みを経て、会社全体の変革への動きへと発展していった。

事例にあるように、ソフトアプローチとハードアプローチを自社の課題や社風に合わせ併用していくことが成功への道を拓く。

(3)課題の整理と入念な検討計画

組織活性化に取り組むプロジェクトが解決すべき社内の問題を列挙すると、その膨大さに途方にくれることもある。組織活性化への挑戦を会社トップが決断するとき、問題は複雑に絡みもつれている場合が多い。まずは丹念に問題を解きほぐし、課題の連関を整理することが必要である。一見解決不能な難題に見えても、その解決に繋がる下位の課題を数段階たどれば、手の届く解法が必ず見いだせる。

A社の事例では表出している中期目標未達成という問題に対して、プロジェクトチームは、目標管理制度や評価制度改定を提案したが、社長は、そもそも中期目標に社員が腹落ちしていないことが問題であり、そのためには、なぜそのような目標が必要か、即ち長期的にどのような会社になりたいのかを共有化することが根本課題と考えて検討を指示されている。

列挙した全ての課題にやみくもに対応しようとせず、会社の状況、対応できるリソース、論理的に端緒とすべきことは何なのか、最も根本の課題は何なのか等をよく吟味した上で検討計画を立てる。課題を的確に整理して自社にあった検討計画が立案されれば、組織活性化プロジェクトは5合目に差し掛かったと思ってよい。それほどに課題整理と検討計画立案は重要である。

同時に、特に組織活性化においては、取り組みによる社員の意識や社内のムードの変化をよく見極めながら次のステップへのタイミングを見極めることが大切となる。あまり意識の変化が無いうちに次の課題に移行したり、多くの取り組みを並行して実施すると、中途半端な形になりかえって逆効果が生じることもある。A社の事例でも、社長は、各部門長の意識が変化してきたことに手ごたえを感じ始めた時に、手を緩めることなく持株会社化移行への検討の指示を出している。

(4)粘り強く執拗に

組織活性化とは社員一人ひとりを活き活きとした状態にすることだが、人の心を動かすのは容易ではなく確実な施策はない。

また、改善効果が表れるまでには長い時間がかかると覚悟した方がよい。医療機器メーカーのテルモが山梨の工場で全員参加の生産保全活動に取り組んだ際には、問題発見の目が養われて工場設備に対する自主保全の精神が現場に浸透するまで3年かかったという。またオフサイトミーティングに辛抱強く取り組んだトヨタカローラ秋田では、始めて4~5年の間にも変化は見られたが極めて緩慢であった。一進一退を繰り返し、組織活性化を実感し定着するまで10年を要したという。

B社の社長は「経営者が学ぶべきものを三つに絞るならば、戦略、会計、そして心理学である」として、一人ひとりの心にアプローチする努力をひたすらに重ねておられる。

経営トップとその直轄プロジェクトが熱意をもって粘り強く執拗に取り組まない限り、組織活性化は実現しないと思ってよい。