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持続可能な地域再生の留意点

No.667 | 2025年11月号

今月の視点


 東京一極集中を是正して、各地域で住みよい環境を確保し、将来にわたり活力ある日本社会を維持していくことを目的とした“地方創生元年”から10年が経過した。

 今現在でも、地域再生に向けた活動が継続して行われている一方、人口減少と高齢化がさらに進行し、今にも消滅しそうな自治体として危機を論じられるところも出てきている。

 しかしながら、たとえ少数でも、自分の生まれ育った地域に思い入れのある住民は確かに存在し、ひときわ光る地域資源をもとに産業を興し躍動する事業者のいる地域も多くある。その火を絶やさぬために、地域住民、事業者、自治体らが自らの役割を果たし、相互に協力しながら一丸となって再生に取り組む姿を作り出すことが地域再生の肝になる。

 今月は、全国の地方自治体を廻り地域を支援した経験をもとに、ある自治体での地域再生の取り組みに焦点を当て、活動を中長期的に持続させるための留意点について考えてみたい。

1 地方自治体Aの事例

本章の事例の内容は、基本的に事実を基にしているが、どの地域かが明らかになることで関係者にご迷惑がかからないよう、登場する地域資源について、実際とは異なる類似例に置き換えた部分があることをご了承いただきたい。

(1)首長の思い

平成の大合併により複数の周辺町村を吸収した地方自治体Aは、少子高齢化が急速に進んでいるものの、周囲を里山に囲まれ、手つかずの自然が多く残る、風光明媚な地域である。

多くの地域住民の糧となる基幹産業は農業であり、豊かな自然環境に恵まれ、品質の良い農産物が収穫されている。収穫された農産物は、地元の流通加工センターを通じて周辺地域に出荷されるものが大半であったが、このところ、高齢化や後継者不足で離農者が増加しており、次の世代の担い手の確保が喫緊の課題となってきている。

自治体の首長は当地域の出身であり、この地域とそこで栽培される和栗をはじめとする農産物をこよなく愛しており、常々、この素晴らしさが全国的に知られていないことをとても残念に思っていた。

「この質の高い農産物を使用した付加価値の高い商品を作って地域のブランドを創造し、例えば都市圏に販売して味わってもらえるようにでもなれば地域経済に貢献できるし、知名度も上がる。また、それにより外部から移住したり、この地に関心をもってやってくる人材や担い手が増加すれば、さらなる地元の雇用創出につなげることができる。」

この発想に基づいて、首長は自治体の次の3か年事業計画を策定するにあたり、当地の地域資源を活用した特産品の開発と地域における六次産業化の将来像を示し、さらにそれに関連するビジネスを創出するという方向性を打ち出した。首長はこの方向性に基づいて、中長期的な視点で“地域の稼ぐ力”を創出するために、地元を大事にしている住民や事業者たちと一緒に検討することを議会に提案した。

このような首長の呼びかけに対し、彼を支持する住民や地元の事業者が手を上げ、自治体担当部署の職員が事務局としてそれを支援する形で、彼らを中心とした“地域再生プロジェクトチーム”(以下「PT」)が結成されることとなった。

PTの構成メンバーは、地域の食材を使用して長年加工食品を製造してきた地域の中でも有力な事業者、道の駅の販売経験者、和栗をはじめ地元の農産物づくりの名人と言われる生産者、兼業農家を営む住民とその子供たち、地元の高校生、これまで都市部でレストランを経営していたが一念発起して地元にUターンした住民、同じく都市部で菓子店に勤務してきたパティシエなど、数十人からなる大規模かつ多彩な顔触れとなった。まさに地域再生を賭けて地域の関係者が協力する検討体制となった。

今回のPTは、地域の中だけでなく、外部の視点からアドバイスを求めるため、他地域の道の駅の経営改善や地域商品の製造・販売に精通した、地域再生の専門家を招聘し、PTのマネジメントを託すことにした。

(2)地域産品に関する現状分析と開発の方向付け

①地域資源の再点検

PTは、まず、地域で生産している農産物の現状を包括的に把握するため、以下のような項目を設定して調査を行い、一つひとつ点検することにした。

PTでは当初、なぜ、今更産品を見直さねばならないのかという意見が出た。しかし、それについては外部専門家から以下のようなヒントを教えられ、現状分析を行うことにした。

・ 地域の農産物にまつわる歴史や現在の栽培に関する事実を一つひとつ確認していけば、地域としての本当の魅力が思わぬところから発見されるかもしれない。

・ それら開発の一連の経緯をストーリー化して付加価値をつけた商品にすれば、消費者にとっては全く新しい商品と捉えられる可能性がある。

・ 地域住民が“これが当たり前”と思って食べている農産物の中にも、品質がとびきり上等で、これをうまく活用すれば、都市部の消費者に受け入れられる可能性が大いにある。

分析結果の主な内容は以下のとおりであった。

■この地域では、離農する農家が年々増加し、農家数が10年で3割減少しており、農業の担い手不足は予想以上に深刻な状況にある。少子高齢化の影響もさることながら、農業主体で生活に十分な所得を得られていないことが後継者の少ない要因になっている。

■地域の主要産物である和栗の産出量が全国に比して多く、栗に関連する事業者の中では有名な話であった。外部専門家が栽培の歴史を調べてみたところ、日本有数の和栗の原種にあたることがわかった。栗の木の樹齢はかなり高いが、栽培を継続している農家の丁寧な対応により、比較的きれいに整備されていた。

■農産物を加工した地域産品を扱う地元の道の駅は、全般的に売り場にインパクトがなく、年々売上が減少していた。原材料としては他の地域とほぼ同じものが使用されており、この地域独自の産品がなく差別化されていなかった。また、道の駅には地元以外の事業者が製造した商品も多く、地域に根差した商品群の抜本的な改革が必要であった。

■上記に関連して、地域産品の販路は、地元では道の駅をはじめ零細な小売店で販売するのみであり、以前、道の駅を運営する自治体出資の第三セクターの会社が販売経路を拡大しようとしたものの、外部とのネットワークがなく、なかなか開拓がうまく進まなかった。

事実を一つひとつ見つめ直すことで、PTは、地域産品の生産・販売における重要課題を共通認識することができ、また、外部専門家の意見は潜在的な顧客ニーズの一端と受け止めて、一から地域に根差した産品の製造・販売やサービスについて考え直すことにした。

②地域産品の発掘と体験型観光農園設立構想

PTは、点検した地域産品の中から、開発していくべき地域産品の選別を行うことにした。従前のように、個々の商品を様々な農産物を使って商品化しても総花的で特徴のないものになるとの考えから、この地域を代表して活用すべき特徴的な農産物を絞り込むことにした。様々な意見があったが、この地域で栽培されている和栗が、日本古来の和栗の原種にあたることを調査により突き止めたことが、商品選定の決め手となった。このような独自の特産品を、徹底的に活用して商品化すべきであると判断した。地元での和栗栽培の起源や日本和栗の原種といわれる理由や特徴を整理して消費者に訴求するとともに、それを活用した数種類の和栗の加工品を、開発の経緯まで含めてまるごとストーリーにして販売するという方向性がまとまった。

また、話し合いの中で、和栗の六次化商品を製造するにとどまらず、地域の栗の木が集積する場所を利用して体験型の農園を開設し、体験者が現地で和栗作りの歴史を学び、その収穫方法を習得し、自分の手で採ったものを調理して、甘栗や栗ご飯、栗入りカレー、栗の焼菓子や地栗のモンブランなどを食べながら、一日を通して楽しめる、“栗のテーマパーク”といえるような本格的な体験施設を作るというアイデアも出された。

(3)六次化新商品の開発

PTは、六次化商品のアイデア出しを行い、候補としてあがった複数の新商品から、評価基準に基づいて開発対象を絞り込んでいった。

外部専門家が、ファシリテーターとして検討内容を巧みにアレンジし、メンバーが紙に書いた複数の商品アイデアを取り纏めながら商品群のコンセプト、商品の定義、商品の内容などを取り纏めた体系図を作りあげ、PTとしての考えを一つに纏めていった。

検討の中で再三にわたり確認したことは、今回の新商品は、地域の住民や事業者が地元の名誉をかけて開発するものであり、いきあたりばったりの開発とは一線を画するということであった。この地域の道の駅では、今までは徒に商品のアイテム数は多かったものの、パッケージやロゴに統一性がないため、地元の特産品がここでしか買えないというインパクトが低くなってしまい、結果として売上が伸びなかった状況を改善したいと考えた。

この考え方をもとに、新商品は個々に開発されるものではなく、地域で栽培する和栗を利用して開発された、商品群として共通のコンセプトに包含されるものと位置づけられた。さらに、地域再生の専門家と交流のあるデザイナーを呼び寄せ、商品群の中の各商品名のネーミングや商品パッケージまで、共通のコンセプトの中で統一性を持たせる工夫を行った。PTではこの考え方を“トータルデザイン”と呼び、共有化した。

こうして、統一的な商品コンセプトと共通のロゴを記したセンスの良いパッケージに入った複数の商品の試作品が完成した。

商品開発の詳細については、PTを小グループに分け、グループごとに個々の商品の中身を突き詰めていき、相互に開発の進捗を報告して意見を出し合い、さらに外部専門家の意見も取り入れたうえで商品の仕様を固めていった。首長も自らPTのメンバーとして検討に参加した。新商品の製造にあたっては、厳しい顧客の目に適う美味しいものに仕立てられるよう、メンバーであるシェフやパティシエの経験者なども協力を申し出て、まさに地域をあげての開発となった。

(4)販路開拓

“この地域にしかない特産品を使用した特別な商品を将来的に首都圏で販売できるようにしたい”という当初からの首長の強い思いを実現するため、新商品の販路開拓についてPTで検討を行った。

これは、他の多くの地域で実現できていない、きわめて難しい課題であった。地域住民の中には首都圏の小売店等とのネットワークを持っているものは誰もいなかった。

侃々諤々の議論を経てもなかなか突破口が見出せない中、検討メンバーのある自治体職員から、これまで事業者や自治体がイベント等で交渉したことのある企業にアプローチするアイデアや、外部専門家が過去の指導経験の中で独自に構築してきた大手小売店のバイヤーとのつながりを活用するアイデアが出されたことで、既存の“関係性”を活かした施策をとることとなった。

具体的には、PTのメンバーが、まず外部専門家がつながりを持つ小売事業者に依頼して、主催する商品鑑評会に出席させてもらった。そこで他の事業者が商品を提案する活気に満ち溢れた場の雰囲気を感じ取るとともに、バイヤー等から商品開発に対する厳しいコメントが寄せられる瞬間を実際に見ることができた。また、試作品として持参した自分たちの地域の新商品についても、バイヤーやスーパーバイザーから忌憚のないアドバイスが寄せられ、今後の商品開発にとって大いに参考になる意見を収集できた。これらは、まさに消費者の声を代弁した、販売現場からのニーズであった。

上記のような小売事業者への訪問によるマーケティングに加え、逆に小売事業者のバイヤーを地域に招いて、地域商品の原材料である和栗を栽培する場所や、その加工食品を製造する場所を案内する、少人数のバイヤーツアーを実施した。このツアーの中で、新商品が生まれた背景や、商品開発のストーリー、新商品にかける地域住民や事業者の思いが直接バイヤーに訴求され、バイヤーの心に残る印象的なツアーとなった。バイヤーの中には、“この地域の商品を首都圏で何とか売れるものにしたい”と早速本腰を上げるところも出てきており、外部専門家のネットワークに端を発した販路開拓は、地域住民たちと小売事業者のバイヤーとの直接的な信頼関係の構築へと進化して、コミュニケーションにより相互の理解を深め、商品販売の可能性をさらに高めることにつながっていった。

(5)体験観光農園の設立

新商品の開発と販路開拓を行う一方で、地域の和栗の木が多く存在する場所を利用して、体験型の農園を作るアイデアについてPTの中で検討した。

これは、他の地域によくある、産物の収穫のみを目的としたものではなく、地域の和栗の特徴や栽培の歴史、収穫の方法について地元の専門家から学び、実際の農器具を用いた和栗の収穫方法を習得し、さらにその美味しさを引き出す調理方法を学んだうえで、現地での実体験を皆で楽しむという、一日プランのユニークな体験型施設であった。

開発にあたっては、レクチャーのための教室の建設や、収穫のための器具、調理のための設備機器等を新たに導入する必要があった。これに対して自治体の職員からは空き家バンクを活用して地元の古民家や空き家をリノベーションして使う可能性を検討する申し出があった。また、PTメンバーの一人である地域の金融機関関係者からは、財団法人からの助成を絡めた協調融資や、地域再生という事業の目的に賛同した一般の人たちの一定額の寄付を積み上げるクラウドファンディング等の手法を用いて資金調達を行い、新たに設備を購入する可能性などが提案された。

これらに関する進捗を報告したところ、首長からは、

「道の駅の業績改善を含め、 このような商品の製造・販売と体験型農園でのサービスの提供を地域の産業振興策として一体的にやっていくには、地域の中で、新たに専門的なビジネスを行う会社組織を設立した方がよいのではないか」との助言があった。

(6)地域商社の組織運営体制整備

首長のコメントの通り、PTは検討してきた内容を実施に移すためには、道の駅を運営する、自治体の出資した第三セクターによる従前のやり方では難しいと判断し、新たに地域の事業者らが出資する地域商社を設立することとし、組織やその業務内容について検討を行った。

地域商社の組織体制については、和栗の六次化新製品の生産・流通・販売を手掛ける「和栗製品事業部」と、和栗の体験施設を運営する「和栗体験観光農園事業部」の2事業部門を擁する構成とし、それぞれの事業に沿って業務内容をPTが組み立てた。

そして、PTは、この地域商社の経営について意思決定を行う最終責任者を選定することにした。

新商品の開発が具体化した頃から、すでに外部専門家の助言があり、自治体の関係者は事業推進の中心的な人材となる、責任者にふさわしい人材の見当をつけていた。そして、複数の候補者の中から、地元で和栗商品の製造を営む事業者の社長を地域商社の代表取締役に、また、道の駅の小売店運営経験のある自治体出身の職員を副社長に推薦した。

ところが、推薦された2名のうち、副社長候補からは、過去、道の駅の運営がうまくいかなかったことを理由に、この事業の将来のために自分が適任とは思えないので辞退したい旨の発言があり、説得に時間を要した。

この局面においては、他の地域住民らPTのメンバーが候補者に寄り添い、今後の事業展開に関しては、地域商社設立後もPTを継続し、皆で協力して支援することを約束し、また、その決意を新たにするために、今回のPTのコンセプトを象徴するロゴの入った名刺やTシャツ、ポスターなどを制作して、皆が一丸となっている姿を、SNS等を通じて対外にPRすることで、地域全体としての一層の結束を固めようとした。

これらの尽力により候補者は翻意し、予定通り副社長として会社を統括していくこととなった。

自治体は事業会社の財務面を含めて支援できる体制を整備し、地域住民をフォローするなどのバックアップの役割を明確にした。

外部専門家は、個人でも事業を展開しており、多くの人との繋がりや販路に関わる人脈も幅広いことから、今後も自治体に関わり、中長期的な視点で持続可能性を高めるために地域商社をフォローしていくこととなった。

民間が“主”となり、自治体や専門家が“従”となる官民の相互協力による連携ができあがり地域商社は無事設立され、販売拡大に応じた設備増強と資金調達計画まで含めた、3か年の中期経営計画が策定され、実施体制が固められていった。

2 留意点

(1)地域再生の主体は“地域の住民”

地域再生に向けた事業活動の主体は、ほかならぬ地域住民である。地域住民とは長年その地に生まれ育った人、地元の事業を継承した人、他地域から移住し、この地で新たな気持ちで生活し始めた人たちのことであり、経歴も様々である。そのような人たちが協力し、力を結集することで地域再生が実施されることになる。検討にあたっては、彼らが日常の生活の中で愛情を注いできた全ての地域資源を対象に、全力で取り組む必要がある。

検討を進める過程では、PTを構築し、再度地域の良さを見直すことで他に誇れる優位な資源を発見し、それを突き詰めることで地域の経済発展と住民の生活向上に役立てられることになり、一般的に“シビック・プライド”と呼ばれる住民の地域に対する誇りが醸成されていく。

たとえ、その火付け役は首長や自治体であったとしても、再生の主体は地域住民であり、彼らに生きいきと活動に取り組んでもらうために、自治体は黒子としての役割を担うことになる。

(2)外部の眼を踏まえた地域資源の見直しと磨き上げ

地域再生の要になる商品を開発するにあたっては、まず、現状を分析し、これまで地域で取り扱ってきたものの魅力や品質等を一つひとつ丁寧に見直し、どの地域資源を軸にした開発を行うかを明確にし、これと決めた資源を磨き上げていくことが求められる。

農産物などの地域資源については、地域住民や地元の事業者が自分たちの五感で再確認することが大切であるが、このステップでは特に、内部の眼だけでなく、外部の眼を活用することが効果的である。

事例においては、地域住民にとって当たり前で何の魅力もなさそうな産品が、外部専門家の目を通してみると非常に品質が高く、調べてみると国内の原種であることが認識され、それを新しい魅力として六次化製品を開発していくことにつながった。それまで何でもない、いつもの産品として見られているものを様々な加工食品にすることで六次化製品としての付加価値をつけ、それが生まれた背景や歴史、現在の栽培状況についてストーリー化することで、地域を代表する立派な商品ブランドを確立することができた。

(3)“トータルデザイン”による商品開発

新商品候補を一つひとつきめ細かく丁寧に検討するのはよいが、地域再生の目玉として打ち出そうとする価値を顧客に十分伝えるには、各々の商品が全体としての一体感を生み出していくことが重要になる。

事例においては、対象商品共通のコンセプトと開発ストーリーを構築し、プロのデザイナーの力を借りて顧客の目に留まりやすい共通のブランドロゴマークを設計し、パッケージも地域の事業者の工夫により特別感のあるおしゃれな姿に仕上げ、トータルデザインの商品として一体感のある品揃えを実現した。

地域再生を狙う戦略的商品にするのなら、単品ではなく、新たな商品群全体としてグルーピングし、商品のネーミング、商品の由来や開発のストーリー、パッケージに至るまで統一感を演出し、商品のトータルデザインを行うことで、地域一押しの“ブランド価値”を創出することが可能になる。

(4)事業の中心人材の発掘と育成

地域再生は、中長期的に持続可能な実施体制を構築したうえで、小さな努力を脈々と積み重ねて達成していくべきものである。

このような活動を持続可能にしていくには、プロジェクト推進組織結成当初の段階から、今後の事業推進の中心になる人材を、地域住民や事業者の中から見つけ出し、検討過程の随所で重要な役割を与えながら育成していくことが肝要である。

事業を推進する人材とは、統括責任者として、事業を責任もってマネジメントできる人であり、地域産品の六次化商品の製造・販売でいえば、食材の仕入れ、加工プロセス、販路開拓の勘所を押さえ、事業を引っ張るリーダーシップを有する人のことである。

事例では、PTでの商品アイデアの取り纏めや、外部専門家と一緒に納得いくものができるまで加工商品開発の試行錯誤に取り組んでもらい、PTの代表者として小売店のバイヤーに対して自分たちが精魂込めて作った商品をしっかり説明してもらうといった重要な役割を与え、経験を積ませることで、この事業の中心人材としての育成が図られた。

事業を推進していく中心人材がいてこそ、地域再生は継続される。

(5)地域住民の心を一つにする仕掛けづくり

事業推進の主体者に指名された人材は、地域のために尽力しようと意気に感じて積極的に検討に取り組むが、事業内容が具体的になり、いざ実施する段階が見えてくれば、初めての経験を前に武者震いもするであろうし、“本当に自分で大丈夫なのか”と一抹の不安を感じることもある。

事例においても、過去の道の駅運営が見込みどおりいかず、販売不振で赤字を計上した苦い経験から、それに関わっていた人材が、プロジェクトを外れたいと申し出てきた経緯があった。

このような不安を解消していくには、本人の気持ちの強さや忍耐力に加え、これまで一生懸命やってきた地域住民を含めたPTのメンバーや自治体職員の一層の協力が必要になる。中心人材の周囲に皆が寄り添い、PTの意思を統一するために、共通のロゴをデザインしたユニフォームや名刺、ポスターなどを作成することで、皆の気持ちを具体的な形にすることも効果的である。このようにして地域としての一体感を作り出すことが地域再生推進の原動力となる。

(6)“関係性”を利用した販路開拓

地域で開発した製品をいきなり都市部で販売しようとしても、ゼロからの販路開拓は難しい。そんな時は、まず、過去のイベント等で協力してもらったり、事業の中で何らかの形で関係した地域や団体とのネットワークを活用して販路開拓を行っていくことが近道になる。

事例では、外部専門家が、自身の活動の中で信頼関係を構築してきた首都圏の大手小売事業者のバイヤーとのネットワークを活かし、ある小売事業者の主催する商品鑑評会に参加し、他の地域の事業者が出品して商品を売り込む際の熱気や販売への執念などを感じ取り、本当の商売の厳しさを学ぶとともに、参考出品した自分たちの地域商品に対する率直な感想をもらうことで、商品レベルアップのヒントが得られた。

また、一方で、現地見学を中心としたバイヤーツアーを行い、商品の原材料の栽培・加工の場所を実際に見てもらい、モノづくりに励む地域住民の“思い”とともに商品の持つ価値を伝えることで、この地域産品を何とか販路に載せたいと思ってもらえるような動機を与えて強固な信頼関係を構築し、新たな取引へとつなげていった。

自治体や外部支援者を含めたプロジェクト関係者の持つ“関係性”を利用した販路開拓が地域再生にとっては重要になる。

(7)首長の役割は“方向付け”と“陰ながらの支援”

自治体の首長が地域再生において果たすべき役割は、地域住民が燃える思いで自分たちの事業を成功させようとするきっかけを作ることにある。そのために、首長として地域の未来を考え、様々な考えを持った地域住民が積極的に身を乗り出してくるような魅力的な方向付けを行うことが重要になる。

地域再生のプロジェクトを立ち上げたうえで、プロジェクトのオーナーとして、立ち上がりや、中押し、ダメ押しが必要な時には適切な助言を行い、事業を持続させていく努力を惜しまないことが求められる。

事例のような数年に亘る長期のプロジェクトにおいては、何らかの要因で足踏み状態がつづくこともある。そのような時に備え、自治体職員によるフォロー体制について目を配ることも必要になる。また、プロジェクトが盛り上がり、地域住民の中から主体的な推進者と実施体制が固まれば、あとは中心人材に任せ、逆に一歩引いて陰ながらの支援を行うことがのぞましい。

首長がこのような役割を果たすことで事業の主役である地域住民が活性化し、持続可能な地域再生が促進される。