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グループ会社再編における合意形成

No.661 | 2025年5月号

今月の視点


 企業集団では、競争力や生産性を向上させるために、グループ会社再編に踏み切ることがある。

 その際、合併、会社分割、事業譲渡等の手段で、別の法人に属していたもの同士が一つの会社に集約される場合には、様々な場面で関係者同士の意見対立が起こりやすい。何かと手間やコストがかかるグループ会社再編において、関係者の合意形成はとくに苦労の多い課題である。

 グループ会社再編において必要になる合意形成は、グループが置かれた状況により千差万別ではあるものの、共通の心構えもあるのではないかと考えられる。

1 A社グループの事例

(1)グループ会社再編前の状況

製造業のA社グループでは、コア事業の大がかりな再編を終えたところであった。社長は次の段階として、物流会社の再編を考えていた。

貨物自動車運送事業を担うB社とC社の二つの会社を、以前に買収して完全子会社にしていた。また、A社の中に物流の企画・統制を担う物流企画部と各工場の出荷部門があった。これらを一つの会社に集約しようという構想を社長は持っていた。

A社社長が物流子会社の再編を考えたきっかけは、先に完了したコア事業の再編の過程で、物流部門や物流子会社に対しては、事業部門に比べるとあまり深く関与してこなかったため、いろいろな意味で状況が見えにくくなっていると感じたことである。

B社・C社の売上高のほとんどは、グループの荷物を扱うことで得られる収益である。事業会社側からは「二社に支払う物流費の負担が重く、荷量や地域によってはグループ外の混載便を使った方が安価な場合もある。グループの物流体制に制約されずに費用削減を進めたい」という意見すら出ていた。

「子会社だから」という理由で他社との比較を免れ、事業会社に負担をかけ続けているとすれば健全な姿ではない。物流会社自身が自立した企業として、サービスに磨きをかけ、生産性を高め、主たる顧客企業であるグループ各社から信頼を得られる存在でなければならないとA社社長は考えた。

(2)プロジェクトチームによる検討の概要

A社社長は、物流企画部のベテランスタッフを中心とするプロジェクトチームを編成して検討に着手させた。プロジェクトリーダーには、統合によって新たにつくる物流会社の社長にしたいと考えていた候補者を任命した。難度の高いプロジェクトになると予想し経営コンサルタントも入れた。

プロジェクトチームは、あらためて社長のニーズを聞いて、プロジェクトのねらいを整理した。

「物流について、自らが主導し事業会社を巻き込んで革新ができる自立した会社をつくることをねらい、改革の実現性を高めるためにグループ内の物流機能を統合する。」

統合の意義は三つあることを確認した。

「一つは、一人の経営者のもとで大局的な意思決定をすること。

最大の顧客であるグループ事業会社の商品の特性や輸配送・荷役における留意事項をよく理解している強みを活かし、より高いレベルのサービスを継続して提供することにより信頼を確立する。

二つ目は、「別の会社」であることによる物流関係者間の組織の壁を取り払い、物流業務改革における協力体制を築くこと。

三つ目は、互いの経営資源を集約して活かし、活動範囲の融合によって物流ネットワークを充実させ、それぞれの利益蓄積ではできない大きな投資でさらに発展する。」

次に三社の現状を確認した。

製造業であるA社の給与水準は、物流会社の一般的な水準よりも高い。統合の対象となる部門の社員に物流会社の一般的な水準の給与を適用すると、現状より約2割減収になる。

B社では、トラック1台の貸し切り運賃は業界の実勢並であるが、扱う荷物のほとんどがグループ内の荷物であるため、混載や帰り便の活用により荷量当たりの料金を大手並みに抑えることはできなかった。一方で、トラック1台当たりの料金がとくに高くないにも係らず、一人当たり売上高は業界平均を大きく上回っていた。時間外労働も多く、一人ひとりが長時間労働で高い収益を上げている構造である。

C社の貸し切り運賃も業界の実勢並であるが、一人当たり売上や給与水準の情報は、後述するC社社長の統合反対により、なかなかつかめなかった。

物流サービスの質については、B社・C社ともにA社グループの事業会社から高く評価されていた。グループの品質重視の理念に基づき、物流においても商品の特性や運送上の留意事項を配送員がよく理解して守り、積み降ろし時のルールや車両整備も徹底できている。また、誤配・遅配が時にはあるものの、A社商品の顧客ごとに約束した納期や個別の納品方法が概ね守られている点で顧客からも評価を得ている。

人が生み出しているこうしたサービス品質の良さを維持しつつ、効率化を図り、同業他社との競争に耐えうる価格と収支構造を実現するためには、輸配送網の充実、物流センター運営ノウハウの向上、出荷指示・実績把握・荷物追跡等のシステム更新、誤配・遅配撲滅、人員確保等々、たくさんの課題に取り組んでいかねばならない。

そのために早い時期から社員の一体感を醸成するべきであるという方針を確認し、組織の統合も人事制度の統合も段階を踏まず、統合の期日に一気に実施することを前提に考えていくことにした。

この場合、A社から移ることになる社員の給与が減額になることに対し、月例給与の差額を二年分補填する措置を取ることにした。

そして、人材の採用・定着に資するような魅力ある会社を目指し、業績連動賞与を入れ、会社業績・個人業績によって業界内では高い水準の年収が実現し得る仕組みを入れることにした。

(3)三つの合意形成

プロジェクトチームは一連の検討の過程で、三つの合意形成に腐心した。

  • プロジェクトメンバーの合意づくり
  • グループ会社経営者との合意形成
  • 従業員の意識への働きかけ

以下は、それぞれの概要である。

1)プロジェクトチームメンバーの合意づくり

社長の意を受けて再編のねらいを整理し、現状確認を経て、プロジェクトメンバーは物流会社を統合することの意義について理解を深めていった。

ところが、検討が具体的になるにつれて、プロジェクトチーム内での行き違いが目立つようになってきた。新会社の社長候補であるプロジェクトリーダーと、物流企画部のベテランスタッフたちとの間での口論が頻発するようになった。

例えば、営業面の議論で「B社・C社の距離の近い営業所の事務を統合するのはよいが、他社との共同配送やグループ外の荷物の取扱量拡大は容易ではない」「当面の収支計画には見込んでいない」「それで本当に利益目標が達成できるのか」と、リーダーが詰め寄られることがあった。また、人事面に関して「採用強化・離職防止のために魅力ある会社にするのではなかったか。なぜA社出身者の給与を下げるのか」という疑問がぶつけられることもあった。

基本構想を一緒に話し合い、目指す方向は同じはずなのに話がかみ合わない様子を見たコンサルタントは、すぐに事態を収拾する必要があると考え、対話の過程を振り返った。確かに早い段階で基本構想についての共通認識をつくったが、そこには実現に長期を要する内容も含まれていた。その後の具体化の過程で、将来像と当面の現実的な目標とが異なる事項がいくつか出てきた。いずれも今後のことを語っているが、議題ごとに、いつ実現することかを添えずに断片的に話していることも増えて、混乱につながっているとコンサルタントは推察した。

そこで、具体的な検討がある程度進んだこの段階で、あらためて新会社の基本方針をプロジェクトチーム内で再確認し、必要であれば議論して調整することをプロジェクトリーダーに持ち掛けた。その準備として整理すべき項目をリストアップし、プロジェクトリーダー自身の言葉で内容を整理してもらうことにした。

各項目にプロジェクトリーダーが書き込んだ内容の中には、一部にコンサルタントの予想と異なるものもあったが、納得できる内容であった。コンサルタントの勧めにより、プロジェクトリーダーは自ら書いたこの方針をプロジェクトメンバーに説明した。「新物流会社の方針」に対して、プロジェクトメンバーから異論が出ることはなく、ベテランスタッフの一人は「これこそ新会社の設計図だ」と述べた。

新会社の全体像を俯瞰的に整理して内容を共有したことにより相互理解がすすみ、これ以降、プロジェクトチーム内で意見がかみ合わない言い合いはほとんどなくなった。

2)グループ会社経営者との合意形成

プロジェクトチーム内の合意づくり以上に関係者を悩ませたのは、C社社長が統合に反対したことである。何度か協議を重ねて互いの意見の共通点を見出そうとしたが「統合」に真っ向から反対された。

C社社長は主に以下のことを主張していた。

「グループの物流改革には協力する。しかし、物流会社の統合には賛成できない。統合はせずに、A社物流企画部が各社に業務委託する今の形態で協力し合えばいい。統合の利点が見えない。

グループの物流費が高いのは、事業会社の営業・生産の活動に起因する部分が多い。物流会社にできることには限界がある。事業会社から無理をいわれても対応してきた。急な配車・出荷場前での待機・納品先ごとの多様な納品条件への対応等々、外部の物流業者ではしないようなレベルで対応している。時間外労働もいとわず働いて対応している。

グループのおかげで成長できたことは間違いないが、債務の個人保証など矢面に立ち体を張ってやってきたし、親会社の政策に協力してもうまくいかなかったときの責任は子会社が負ってきた。理想論のようなプランには賛同しかねる。」

頑ななC社社長の姿勢を受けて、プロジェクトチームは三社統合の意義を再確認した。

「グループの物流に関する重要課題は山積しており、改革にはたいへんな努力を要する。A社物流企画部が考え、B社、
C社、A社出荷部門が実行すればよいという単純な話ではなく、組織の垣根を取り払って協力して取り組むことが必要な構造改革である。三社統合ありきですすめるべきである。

三社統合の意義は、

①グループの理念に精通したグループを代表するにふさわしい人が全体を見て経営するということ

②別会社であることによる組織の壁を取り払い、協力して大きな物流業務改革をすすめる体制とすること

③三社の経営資源を活かして物流ネットワークを充実するとともに、それぞれの利益ではできない大きな投資で発展すること

この三つを同時に満たす体制をつくる。よそと競争することが原則であり、何年か後には実現しなければいけない。C社社長の主張は、プロジェク方針と根本から異なっている。三社統合をいかに実現するかの姿勢で取り組むべきである。」と確認した。

「C社社長が述べていた物流会社の立場・事情は、そのとおりだと思う。そのことを解決するために一緒になるのだと言おう。そのためにA社側にも物流会社のためにやるべきことは全て実行してもらおう」ということになり、A社と新物流会社の関係についても提案をまとめた。

プロジェクトチームは、こうした準備をしても合意までに時間がかかることがありうると考え、その場合の対応についても検討した。

統合期日から必要な手続の所要期間を考慮して遡ると、一か月以内の合意が必要である。万一、その期日までに合意に至らない場合には「C社の臨時株主総会を開催し、取締役会の構成員を変えて統合承認の決議をとる」等、今後の展開シナリオに応じた行動を決めておくべきである。

さらに、C社の経営実態に係る資料を入手する努力も必要である。決算の詳細情報、組織・人事情報等であるが、C社社長が統合反対の立場から提出を拒んでいる。提出を拒み続ける場合は、監査役を通じて提出を求める。

その後まもなく経営実態に係る情報は入手できたので、内容を精査した。C社社長とその親類、その他の幹部の業務実態や報酬についても確認できた。

プロジェクトチームは、以上の状況を踏まえ、一か月以内の合意に向けた活動を進めることをA社社長に報告した。

報告を聞いたA社社長は、自らC社社長と話し合うことにした。A社社長は、C社社長に対してこれまでの経営への労いと評価を伝えたうえで「統合してより良い物流会社をつくることに協力してほしい。あなたには新会社の専務取締役になってもらうことを考えている」と伝え、年間報酬額も内示し、方針に従うとの回答を得た。

最後はA社社長の強権発動で決着させたともいえるが、プロジェクトチームがA社社長の方針をよく理解し、合意に至るアクションを突き詰めて考え腹を括っていたことが、A社社長の判断に役立った面もある。

3)従業員の意識への働きかけ

新会社への移行にあたっては、A・B・C各社の社員がどう受け止めるかが、プロジェクトメンバーの懸念事項であった。

A社から移行する部門の社員は、これまでも「本業からはずれたところにいる」と見られることがあったうえに、別会社に移り給与も変わることになる。何も手を打たないと多くの人が意気消沈するのではないかと心配された。

B社、C社については、買収されてグループ会社になっているとはいえ、別法人として独立的に運営されてきたため、これから融合し互いに協力して経営効率の改善を円滑に進めていけるだろうかという不安があった。実際、ある工場で荷積みのために両社のトラックドライバーが居合わせたとき、どこから話が漏れたのか、B社側の社員が統合の噂を知っており、「先にバースにつけさせてもらうぞ。今度おたくはうちの下に入るのだろう」と発言し、C社側社員を刺激するようなことが生じていた。

プロジェクトメンバーは、士気に影響することであるため、統合を社内に発表したら直ちに丁寧な説明を繰り返すことが大切であると確認し合った。各部門の班長を集めたミーティングや会食、班単位のミーティング等の場を使って説明した。

とくにA社から移る社員には、A社人事部が処遇についての説明を一人ひとりに行う際に同席させてもらい、「新会社は『物流』の会社なので、物流に携わっているあなた方が主役になる」ことを強調した。

三社すべての社員に向けて「一つになることで協力して大きな物流改革をすすめていくことができる。互いのネットワークや人材を活かすことができるとともに、別々に経営していたのではできなかったような大きな投資も可能になる。

我々の配送サービスの質は高い。A社グループの商品や営業に対する理解が高く、他社に頼んでも同じコストでは対応できない。この品質を維持しながら経営効率を上げていけば、ゆくゆくは業界他社に優る給与水準の実現も夢ではない」ことを、プロジェクトメンバーから伝えていった。

新社長となるプロジェクトリーダーも直接話をする機会を設け、シンプルに「安全第一」「一人ひとりが主役」を繰り返し伝えた。

こうした努力もあって、結果的にA社の対象部門、B社、
C社の全社員が新会社の社員となり、新会社に生まれ変わった月から、過去最長の連続無事故月数を更新するなど士気は高まり、プロジェクトメンバーの懸念は杞憂に終わった。

2 グループ会社再編における合意形成の留意点

(1)互いにどこまで了解できているかを文書で確かめる

グループ会社再編では、会社が置かれた状況により内容は様々ではあるものの、事例で見たようなプロジェクトチーム内の認識共通化、再編当事会社の役員・幹部との合意、転籍や処遇変更等の影響を受ける社員との合意が必要となる。

意見の相違や、提示する条件への疑問等が生じたとき、まず行うべきことは、互いの意見のどこが一致していてどこが異なっているかをよく確かめることである。相違点にのみ着目して説得しようとしても、議論は収束しないことが多い。

一致点と相違点を確認するにあたっては、極力内容を文字にし、当事者同士が一緒に見ることができる状態で話し合った方がよい。

事例のA社のプロジェクトチーム内の合意づくりでも、C社社長との合意形成でも、プロジェクトチームは、状況を分析し文書にして関係者との確認を進めていったことが改善に役立った。相違点を確認する着眼点は、概ね以下の事項に係る認識が揃っているかどうかである。

①統合の意義・目的

②現状認識

③変えるべきことと変えるべきでないこと

④対応策・手段

⑤実施するための条件

⑥実施により生じる効果または問題点

(2)筋書を想像し展開に応じた態度を決めて協議に臨む

意見対立が生じる背景には、議論になっていることについての互いの認識や思考過程の違いの他に、過去の出来事などに起因する相手への信頼のなさ、自社の社員の処遇など守りたいものの存在、自分の立場の変化などもある。焦点が当たっている部分だけにとらわれず、敬意をもって相手の話を聞くことが大切である。

その上で、相違点が把握できたならば、その相違点は合意を取らなければいけないことなのかどうかをよく考える。すべての相違点を同等に扱っていてはいくら時間があっても足りない。合意が必要かどうかを判断するためには、当方として譲れない目的を突き詰めておく必要がある。譲れるところはできる限り譲ることで、相手の姿勢が軟化する可能性が高まるが、ここまでは合意しておく必要があるという範囲を明確に持っておくべきである。どのような展開になるか、ありそうなケースを幾通りか想像し、展開に応じてどう対応するかを想定しておくといった準備が欠かせない。

事例のC社社長との合意形成では、合意を取るべき論点をプロジェクトチームが明確に整理し、交渉のシナリオに応じた具体的なアクションについて突き詰めて考え提案したことが、A社社長の意思決定に役立ったと考えられる。

(3)新しい組織の理念をあらためて社員に訴えかける

グループ会社再編で所属する会社や処遇内容が変化する多くの社員に対しては、「このような会社でありたい」「このような社員でありたい」と思える新組織の理念をあらためて整理して示し、その実現が可能であると訴えかけることが重要となる。

事例では「自分たちが主役になる」「自分たちが努力すれば利益を享受できる」ことを新会社の役員・幹部予定者が、可能性の合理的な根拠とともに繰り返し示したことが奏功した。

以上の留意事項は、グループ会社再編に係らず、会社の重要な経営課題に取り組んで何かを変えようとするときの合意形成においても、心構えとして活かせるのではないかと思う。