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PMIにおける経営計画・実績管理高度化

No.671 | 2026年3月号

今月の視点


 M&A後の統合作業(Post Merger Integration、以下PMIと略)を進める上で、買収先の経営管理レベルのばらつきは、しばしば顕在化する課題である。特に、予算策定や実績管理の考え方が親会社と異なる場合、同じ数字を見ても解釈が揃わず、議論が深まりにくい。結果として事業戦略の整合がとれず、統合効果を創出できなくなってしまう。

 一方で、買収先には事業特性や歴史的背景によって生み出されてきた独自の管理手法が存在し、それを無視して親会社の枠組みに組み替えるだけでは、現場の負荷と反発を招き、PMI自体が形骸化するリスクもある。「何を揃え、何を尊重するか」を丁寧に見極め、グループとして共通の管理基盤を構築し、目線を合わせていくことが欠かせない。

 今月は、PMIの過程で買収先の経営管理高度化を実現した2つの事例を取り上げ、その要諦について考えてみたい。

1 経営計画・実績管理高度化の重要性

M&A後の統合効果を創出するためには、親会社と買収先の双方が共通の視点で事業を捉えられるよう、計画の立て方や実績の把握の仕方といった経営計画・実績管理(以下「経営管理」と略す場合がある)の枠組みを整備することが重要である。両社の「共通の物差し」が整ってこそ、グループとしての戦略策定や推進の質が高まっていく。

その取り組みとしては、特に主計に関わる「予算策定」と「実績管理」の2点の重要性が高い。両者は表裏一体の存在であり、両者が揃って初めて実質的な経営管理として機能する。

①予算策定の高度化

買収先の予算策定には、積算の根拠が曖昧であったり、前年度実績の延長線上での見積りに依存していたりと、精度が十分でないケースが少なくない。また、親会社と異なる管理粒度や科目体系を用いている場合、同じ「予算」という言葉でも意味合いや期待値が異なり、議論が噛み合わなくなることも多い。

高度化を進めていく上では、親会社が重視する管理軸との整合を図りつつ、買収先の事業特性に根ざした独自性は適切に尊重する必要がある。高度化は、経営の視点や論点を共有するための「共通言語」を整える行為である。この点を押さえることで、親会社と買収先の議論は格段に深まりやすくなる。

②実績管理の高度化

実績管理は、計画に対して現在どのような状況にあるのか、その差異がなぜ生じているのかを把握し、改善につなげるための取り組みである。買収先においては、実績の取得方法や粒度が統一されていなかったり、現場主導の判断に依存していたりすることで、親会社との比較や分析が難しいケースが見られる。

実績管理の中心にあるべきは「差異が出た理由を明らかにし、次の行動につなげる」という改善のサイクルである。数字を集めることが目的化してしまうと、経営管理は形骸化してしまう。親会社と買収先が共通の指標と視点で事業を読み取り、現場の行動につなげる仕組みこそが、実質的な高度化の要になる。

経営管理高度化の取り組みは、次ページの手順のように、計画的かつ段階的に進めていく必要がある。

2 A社の事例

(1)PMIにおける経営管理課題の顕在化

A社は、自動車部品を手掛ける中堅メーカーであり、精密加工を強みとして長年にわたり完成車メーカーの生産を支えてきた。しかし、市場環境が急速に変化し、EV化の進行や新興サプライヤーの台頭により、従来型の事業構造では成長の持続が難しくなりつつあった。こうした背景から、大手自動車部品メーカーであるX社の傘下に入り、PMIが開始された。

X社が統合作業の初期段階の調査を進める中で、X社とA社の間には予算策定の精度に関して大きな隔たりがあることがわかってきた。

営業部門の売上計画はX社の基準と合致し、顧客・製品別の積み上げについても一定の精度を有している一方で、その裏側を支える製造部門のコスト計画、すなわち工場の予算管理に大きな課題があった。具体的には、工場ごとに予算の作り方が異なり、数量・単価・工数といった積算の前提や根拠が十分に整理されていなかった。結果としてA社全体の収支予算は、売上に比してコストの精度が粗くバランスを欠いており、グループとしての経営判断に耐えうる水準になっていなかった。

X社の社長は、この状況に強い問題意識を持った。

「グループの総合力を高めていく方向で、統合による成果を着実に生み出していくためには、それぞれの会社の計画が共通の物差しでつくられ、同じ前提で議論できる状態が欠かせない。

しかしA社の工場予算は、積算の前提や考え方が工場ごとに異なっており、収益構造を同じ視座で評価するには不十分である。現状のやり方のままでは、A社の各事業の採算性や利益拡大余地をグループ全体視点で正しく位置づけることができず、統合後の戦略議論にも歪みが生じてしまう。

まずは計画づくりの枠組みを整え、グループとして目線を合わせてPDCAサイクルを回していくことのできる土台をつくりたい。」

社長は、X社の財務経理部、経営企画部を中心とするプロジェクトチームを組成した。プロジェクトには、M&A後のPMIや業務改革に知見を持つ経営コンサルタントも参画させ、本格的な検討を開始することとした。

(2)現状把握と課題の整理

プロジェクトチームは、A社が有する国内3工場を対象に、予算策定と実績管理の実態を詳細に調査した。その結果、A社の経営管理上の問題の根源は、工場予算をつくる際の前提や積算の考え方が工場・担当者ごとに大きく異なり、組織としての統一した枠組みが存在していないことにあると判明した。

まず認識されたのは、材料費の積算方法のばらつきであった。X社では、製品ごとの材料構成や加工条件を踏まえて積み上げ式で計算するが、会社としての統一ルールが明確でなかったため、A社では図面から材料構成を拾い上げて丁寧に直近単価を積算している担当者もいれば、製品群ごとの過年度の平均材料費率を適用して一律処理する担当者もいるという、両極端な積算方法が併存していた。

同じ製品であっても、図面の材料構成に基づく積算と材料費率による概算では前提が根本的に異なるため、算出結果は比較の対象になりえない。会社として「材料費をどう計算すべきか」という基準がないため、算出された値の妥当性を評価することもできなかった。

労務費についても、標準労務工数に基づく算出が行われていたものの、その前提となる工数の捉え方が工場ごと、担当者ごとに異なっており、どの作業を労務工数に含めるかという根本的な考え方が揃っていなかった。標準工数の更新方針も担当者に委ねられており、設備等の前提条件が大きく変わっているのに昔の設定値がそのまま使われ続けているケースや、熟練者の経験則だけで調整されてしまうケースもあった。

実績管理については、予算との差異分析を適切に行えないという問題があったが、これは、予算側の枠組みを整えることで自然に解消される性質のものであり、実績管理そのものが重大な問題を抱えているというわけではなかった。

以上の調査結果から、A社における経営管理高度化の出発点は、工場予算の考え方・前提・積算方法をまず揃え、共通の基準で理解できる状態をつくることであるという認識がプロジェクト内で共有された。

(3)あるべき姿の設計

工場予算の前提が工場・担当者ごとに異なっていた現状を踏まえ、プロジェクトチームは、まず予算策定の考え方と積算の枠組みを揃えることにした。

工場予算の見直しにあたっては、数量、単価、工数、稼働といった基本要素がどのような前提で積算されるべきかを体系的に定義し、工場ごとに解釈の揺れが生じない構造を整えることを重視した。

材料費については、従来のように担当者によって積み上げ方式と平均材料費率方式が混在することがないよう、材料構成に基づく積み上げを基本としつつ、品種・製品群ごとに簡略化が可能な範囲を明示的に定めた。これにより、製品特性に応じた合理的な違いは残しつつも、根拠の不明確な概算が紛れ込む余地をなくすことを目指した。

労務費については、まず「何を工数に含めるか」という基本的な定義から再整理を行った。段取り時間を実績に含めるか否かといった扱いに工場差が残っていたため、作業時間、段取り時間、付帯作業といった構成要素を明確に区分し、標準工数の設定と実績工数の記録が同じ枠組みで行われるようにした。加えて、標準工数は一度設定して終わりではなく、定期的な検証と更新を行うことで古い前提が放置され続けることを避けるべく、運用プロセスの見直しを行った。

実績管理の見直しは、以上の予算側の設計方針に合わせて、同じ構造で数値を把握できるように進めていくことにした。予算の項目体系に合わせて実績の集計方法を整え、予算と実績を比較・分析した上で、スピード感を持って対策につなげられる環境の構築を図ることにした。

(4)業務運用への落とし込みと定着化

続いてプロジェクトチームは、業務運用への落とし込みに着手した。

A社では、工場ごとに独自の工夫は多いものの、予算積算の手順が担当者の経験や判断に依存する部分が大きいという現状の課題認識を踏まえ、運用の標準化と再現性の確保を主眼とした。業務運用で使用されているシステムや運用Excelファイルの計算ロジック・参照データ・項目体系まで踏み込んで、誰が作成しても同じ構造で積算できるように業務の根本的な見直しを図った。併せて、X社の管理会計システムとA社の基幹システムを連携させ、予算の積算構造と実績データが同じ項目体系のもとで更新されるよう情報基盤整備も並行して進めていった。

新しい業務運用の定着が進むにつれ、A社とX社の間で数字の読み方が揃い、議論の質が高まった。とりわけ、工場予算の積算構造が明確になったことで、A社の原価構造をX社側でも正確に把握できるようになり、従来は前提のすり合わせに時間を要していた計画策定の議論が、より本質的な戦略に関する内容へと移った。数字がどのような前提に基づくのかが明確になったことで、計画の妥当性や改善余地について、双方が同じ土台の上で議論できるようになった。

また、実績が予算の構造と同じ基準で整理されるようになったことは、工場内の改善活動にも変化をもたらした。工程別の負荷や歩留まりの状況が共通の枠組みで把握できるようになり、改善すべき領域が明確に示されるようになった。従来は担当者の経験や感覚に依存していた要因分析が、客観的なデータに基づくものへと移行したことで、現場の取り組みと経営管理の視点の結びつきが従来よりも強くなった。

予算策定と実績管理の高度化により、親会社と買収先が共通の視座で事業を理解できるようになり、建設的な対話が促進された。計数情報が同じ物差しで扱われるようになった結果、PMIに求められる戦略的な議論がより実質的なものになり、グループとしての一体的な運営に向けた土台が整った。

3 B社の事例

(1)PMIにおける経営管理課題の顕在化

B社は、生産設備の据付工事やライン更新工事、保守メンテナンスを主力とする中堅の設備工事会社であり、製造業の生産現場に密着した高度な施工技術と、現場判断の機動力を強みとして事業を発展させてきた。しかし、設備の大型化・高度化、案件の複雑化、協力会社の活用形態の変化など、事業環境は近年大きく変化しており、従来の現場中心の判断だけでは収益構造を安定的に管理することが難しくなりつつあった。こうした状況を踏まえ、B社は大手プラントエンジニアリング会社であるY社の傘下に入り、PMIが開始された。

統合作業を進める中で明らかになった最大の課題は、B社の実績把握の粗さと、工事ごとの収益構造を十分に説明できない管理基盤の弱さにあった。B社では、案件開始時に実行予算を丁寧に積み上げる文化は根づいていたが、その後の実績管理は会計伝票への集計を中心に行われており、費用は大まかな科目単位で計上されるのみであった。工事収支を振り返る際に必要となる「どの作業に、どの費用がかかったのか」といった情報は実務上把握されておらず、実行予算との照合は月次単位の粗い比較にとどまっていた。

PMIの進捗報告を受けたY社の社長は、強い危機感を示した。

「B社の施工技術や現場対応力には大きな価値がある。しかし、当社としてB社の事業を評価し、中長期の成長ストーリーを描くためには、工事収支を実態に即して把握できる管理基盤が不可欠である。実行予算は丁寧につくられているが、実績がその構造に沿って記録されていないため、計画と実績が結びつかない。このままでは、どの工事で何が起きているのかが見通せず、グループとしての意思決定に支障が生じかねない。」

実績の粗さがPDCAの起点を曖昧にし、工事の進捗や採算を早期に察知するための管理の目を弱めている点を、Y社は重大な経営リスクとして捉えた。実績の構造を整えなければ、いくら計画を精緻化しても意味を持たないという認識のもと、社長はプロジェクトチームの組成を決断した。

プロジェクトチームは、Y社の経営企画部および工事本部を中心とする部門横断的なメンバーで構成し、建設業のPMIの経験が豊富な経営コンサルタントの支援を得ることとした。

(2)現状把握と課題の整理

プロジェクトチームは、B社の主要工事で運用されている実績管理の仕組みについて、日々の記録方法から費用計上に至るまで、実務の流れを詳細に調査した。

B社では、案件開始時に作成される実行予算は、工程単位の材料費・外注費・自社工数・諸経費といった主要項目を積み上げる形で丁寧に作成されており、担当者による差はあるものの、それは工事の特性に由来するもので、意味のある違いだった。しかし、その後の実績管理は、会計伝票に基づく科目単位の集計が中心であり、実行予算で想定した作業単位や工程単位とは連動していなかった。

例えば、外注費が増えたとしても、それが工程変更に伴う追加発注なのか、仕様変更によるものなのか、あるいは遅延や手戻りが原因なのかといった情報は実務上把握できず、実績の金額は存在しているものの、その意味合いを読み取れないという構造的な制約があった。

また、実績データを蓄積する際の管理粒度にも大きなばらつきが存在した。同じ種類の据付工事であっても、ある担当者は作業内容別に費用を分類して記録していた一方、別の担当者は月次伝票の金額をそのまま工事番号につけて管理するのみで、細分化を行っていなかった。

さらに、B社では協力会社を多く活用しているものの、協力会社からの請求書には細目が十分に記載されていないケースも多く、それが工事実績の粗さに拍車をかけていた。工事管理者による補足情報も体系的に記録されておらず、案件を振り返る際には、担当者の記憶や口頭での説明に頼らざるを得ない場面も多かった。そのため、実績を予算と突き合わせて「何が」「どれだけ」「なぜ」違ったのかを体系的に説明することが困難になっていた。

以上の調査結果から、B社の経営管理高度化における中心課題は、工事の実態を反映した管理粒度を定義し、実績をその単位で安定的に記録できる構造をつくることにあると整理した。

(3)あるべき姿の設計

現状分析の結果を踏まえ、プロジェクトチームは、まず実績をどの単位で捉えるべきかを定義し、その上で実行予算との対応関係を整える、という順序で「あるべき姿」を設計することとした。

第一の検討テーマは、工事実績の記録の粒度に関する基準づくりであった。設備の種類や工事の特性によって必要な作業内容は異なるものの、いずれの工事においても共通して捉えるべき主要工程が存在する。そこで、既存の実行予算の構造や過去の工事実績を分析し、設備据付・調整・付帯作業といった標準的な工程区分を抽出し、工事種別ごとに共通して使用できる項目体系へと整理した。これにより、従来は担当者に委ねられていた分類の揺れを抑え、どの工事でも同じ枠組みで実績を積み上げられる土台を整えた。

次に、実績をこの項目体系で記録するためのデータ取得の流れを再設計した。協力会社の請求書は工程単位で細分化されていないケースが多かったため、工事管理者が日々の作業報告から主要な作業別の実績を把握できる仕組みを設け、協力会社の費用情報と結びつけるルールを整備した。また、自社工数についても、従来のような総時間の一括記録ではなく、標準化した工程区分に沿って記録できるように整理した。こうした運用の見直しにより、属人性に左右されない実績記録の仕組みへと改めることとした。

さらに、実績の項目体系と実行予算の構造を対応づけられるよう、予算側の整理も必要な範囲で実施した。これまでの実行予算は費目別の積み上げが中心であり、工程別の構造が明確でなかった案件も存在した。そのため、主要工事区分ごとに予算項目と工程区分の対応を整理し、実績と同じ視点で読み取れるように再構成した。予算側を過度に細分化するのではなく、実績の構造と整合する最低限の粒度に整えることで、計画と実績の連動性を確保した。

このように、B社では、まず工事実績を捉えるための管理粒度の再定義、工事の予実管理のレベルアップを図ることがPMIにおける優先取組事項と位置づけられた。

(4)業務運用への落とし込みと定着化

こうして新しい業務の方向性が決定し、その枠組みを日々の業務の中で安定的に運用し、定着させていく段階に入った。

まずプロジェクトチームは、設計段階で定義した項目体系に沿って、日々の実績記録の流れを標準化した。協力会社の作業内容については、従来のように請求書の総額をそのまま工事番号に計上するのではなく、工事管理者が作業報告書から主要工程に整理し、その構造を維持したまま費用と紐づけて記録するプロセスに改めた。また、自社工数についても、従来の総時間の一括記録ではなく、工程区分ごとに記録する運用へと変更し、各作業の負荷を実態に即して把握できる環境を整えた。これらの取り組みにより、工事現場の多様な作業内容が、標準化された管理粒度に着実に落とし込まれていく状態が生まれた。

実績データが同じ基準で蓄積されるようになると、実行予算との照合も容易となり、工事ごとの収支の変動要因がこれまでよりも明確に把握できるようになった。従来は「外注費が想定より増えた」といった粗い差異にとどまっていた分析が、「どの工程で、どの作業が、どのような理由で増減したのか」という視点で整理されるようになり、工事管理者が状況を具体的に分析し、対策する動きにつながり始めた。

業務運用の変化は、親会社Y社との対話の質にも明確に表れた。以前は、数字の扱い方や項目の定義を確認するだけで議論の多くが費やされ、双方の認識が揃うまでに時間を要する場面が多かった。しかし、実績が標準化された項目体系で整理され、実行予算と同じ構造で理解できるようになったことで、議論の焦点は自然と「どの工程が収支を押し下げたのか」「再発防止にはどこから着手すべきか」といった本質的な論点に移行した。

現場にとっても、実績を工程別に可視化したことは改善活動を促進する契機になった。これまでは経験や感覚に頼って整理するしかなかった作業の負荷や手戻りの実態が、データとして示されることで、改善の優先順位が明確になり、改善の成果も検証しやすくなった。

業務運用の再構築と定着化を通じて、B社の工事収支管理は従来の属人的な判断に依存するものから、工事の実態を反映した一貫性ある仕組みへと移行した。

こうした実績管理の高度化は、Y社との議論や現場の改善活動が同じ視点で行われる環境を生み出し、PMIにおけるグループ一体運営の実質的な進展を支えるものとなった。

4 留意点

A社とB社の取り組みは業種も課題も異なるが、PMIにおいて経営計画・実績管理を整えるプロセスには共通する要点がある。本章では、それらを5つの視点に整理し、買収先の管理の高度化を進める際に意識すべきポイントをまとめる。

①是正すべきばらつきを見極める

買収先の業務分析を進めていくと、買収側と差異がある部分に何通りもの業務処理方法が見つかることがよくある。一見すると統一性に欠け、全てを是正していかなければならないように見えてしまうが、現場の知恵や環境条件に根ざした合理性を持つ場合もある。A社の製品特性に応じた材料費積算方法や、B社の実行予算づくりはその典型である。

合理的差異を無理に標準化しようとすればかえって現場の管理レベル低下を招くこともある一方で、根拠が曖昧な属人的なばらつきは、精度低下や管理の不整合を招くため、徹底して是正しなければならない。

まずは尊重すべき「合理的な場合分け」と、是正すべき「根拠のないばらつき」を切り分けることが経営管理高度化の最初の一歩となる。

②子会社の独自性を活かす

親会社が高度な管理手法を持つ場合、同じ手法を買収先に導入したくなる。しかし管理手法は、事業特性と密接に結びついているため、単純な当てはめが有効に機能するとは限らない。A社、B社の事例はともに、親会社の仕組みとの差異は踏まえつつも、徹底した現状分析を行った上で、子会社の事業特性や、組織の歩みの中で形づくられてきた独自性を活かせるように、その会社に合った制度を組み立てていったからこそ、有効に機能する仕組みになった。

高度化の目的は、両社が同じ視座で議論できる状態を整えることにある。買収先の独自性と、グループとして揃えるべき基準の双方を踏まえて検討を進める姿勢が欠かせない。

③個人の力量に頼らない仕組みをつくる

高度化プロジェクト推進前のA社では、担当者の経験によって材料費や労務工数の積算精度が大きく左右され、同じくB社では、実績は記録されているものの、その意味づけや差異の説明が担当者の記憶やスキルに頼らざるを得なかった。

いずれの場合も、管理の精度が個人の力量に依存しており、担当者が変われば再現できなくなるという脆さを抱えていた。

経営管理の精度は「数値の定義」、「項目体系」、「積算ロジック」、「実績の集計方法」といった仕組みで担保されるべきものであり、誰が担当しても同じ前提で同じ結論に至る状態ができて初めて管理は安定する。

個人の力量ではなく、仕組みそのものが精度を支えるようにしていくことが高度化の要件である。

④現場の理解を醸成しながら進める

経営管理の高度化は、現場に新しい手順や基準を求める取り組みであり、単に形式を押しつければ反発が生まれる。A社でもB社でも、現場には「業務が増えるのではないか」という懸念があった。

しかし実際には、現場自身も「なぜこの数字になるのかが説明しづらい」、「改善の手がかりをつかみにくい」といった課題を抱えていた。高度化の目的を丁寧に説明し、現場の知恵や実務の流れを踏まえて仕組みを設計していくことで、現場にとっても「負担」ではなく「改善のための道具」として受け入れられやすくなった。現場が理解し、自分たちの仕事に役立つと実感できる状態をつくることが、長期的な定着を支えることを忘れてはならない。

⑤高度化は新たなスタートラインになる

予算と実績が同じ基準で結びつき、事業を共通の視点で語れるようになると、親会社と買収先の議論の前提が揃う。A社では工場予算の構造が整い、B社では実績の粒度が揃ったことで、両社とも親会社と同じ土台で事業を読み取れる状態が生まれた。

しかし、そこで取り組みが完結するわけではない。むしろ、その段階に至って初めて、差異がどこで生じているのか、改善の余地はどこにあるのか、どの方向に成長機会を見出すべきかといった、本質的な議論を実質的に進めることが可能になる。

経営計画・実績管理の高度化とは、グループとしての議論を深め、成長のサイクルを加速させるための土台をつくる営みである。その意味で、高度化の完了はゴールではなく、グループが同じ未来に向けて歩みを進めるための新たなスタートラインとなる。