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実効性を伴った人権対応の推進

No.674 | 2026年6月号

今月の視点


 近年、日本企業において人権対応は、サステナビリティ分野の1つのテーマにとどまらず、事業活動の継続にも関わる経営課題として認識されるようになってきた。日本国内でも、著名企業や芸能界における人権侵害事案が注目を集めたことで、人権問題が企業の説明責任や取引関係に直結し得ることへの認識が高まっている。

 もっとも、その重要性に対する理解が広がる一方で、人権方針の策定や体制整備に着手していても、その先の人権課題の特定と影響評価、防止・軽減、モニタリング・改善までを一連の取組として進められている企業は必ずしも多くない。方針や仕組みを整えるだけでは、現場の活動に十分に組み込まれず、実効性を欠くおそれもある。

 今月は、形式的な対応にとどまらず、実効性を伴って人権対応を進めるために何が重要となるのかを、2つの事例を通じて考えてみたい。

1 人権対応が求められる背景と全体像

(1)人権対応の重要性が高まってきた背景

日本企業において人権対応の重要性が急速に高まってきた背景には、外部要請の変化がある。従来、人権対応はCSRや倫理の文脈で語られることが多かったが、近年は、企業活動の継続や取引関係、投融資、情報開示に関わる経営上の重要課題として位置づけられるようになってきた。その要因として、経済活動のグローバル化に伴い、企業の事業活動やサプライチェーンにおいて生じる人権への負の影響が国境を越えて問題視されるようになったことが挙げられる。強制労働や児童労働、劣悪な労働環境、差別・ハラスメントといった人権課題が国際的に顕在化し、企業に対して人権尊重の責任を問う流れが強まってきた。

この流れを後押ししているのが、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECD多国籍企業行動指針を基礎とした、各国の政策・法制度の整備である。欧州を中心に、企業に対して人権課題に対する取組や情報開示を求める制度が整備され、グローバルに事業を展開する企業では、サプライヤーに対して人権対応の状況を確認する動きを強めている。重要なのは、この影響が直接の規制対象となる大企業だけにとどまらない点である。実際には、サプライチェーンに連なる中小企業に対しても、取引条件や調達要件の一部として、人権方針の有無、人権DDの実施状況、具体的な是正対応の内容などが確認されるようになっている。

さらに、投資家や金融機関も、ESG要素の中で人権の尊重を重視しており、投融資判断やエンゲージメント(対話)において、人権対応を確認するようになってきている。人権問題が顕在化した場合には、その情報が短期間で広がり、企業に求められる説明責任も高まる。こうした中で重要なのは、個別の要請や問題へ場当たり的に対応することではなく、人権対応を体系的に捉え、自社の事業や業務プロセスに落とし込むことである。

(2)人権対応の全体像

「ビジネスと人権に関する指導原則」では、企業に求められる主要な取組として、コミットメント、人権デューデリジェンス(以下、人権DD)、救済メカニズムの3つが示されている。

このうち、人権DDは、人権課題の特定と影響評価、防止・軽減、実施状況のモニタリング・改善、説明・情報開示の4つのプロセスで構成される。このプロセスを継続的に実施し、人権課題に絶えず向き合うことが企業に求められている。

上記のプロセスのうち、ある調査では、「①コミットメント(人権方針)」や「③救済メカニズム」には取り組む企業が一定数みられる一方、「人権課題の特定と影響評価」、「防止・軽減」、「モニタリング・改善」といった人権DDの中核プロセスまで進んでいる企業は限られている。そこで、以下では、外部要請を契機に人権DDの取組に着手した企業の事例と、モニタリングを起点に改善を進めた企業の事例を通じて、実効性を伴った人権対応を推進するうえでの留意点について考えてみたい。

2 A社の事例

A社は、 生活関連製品を中心に複数カテゴリーの製品を企画・製造・販売するメーカーであり、事業の中心は国内市場にある。一方で、国内外に約20社の子会社を有しており、その一部は中国や東南アジアにも所在する。原材料・部材の調達、生産、販売の一部は、こうした海外拠点を含む体制で行っている。

A社では昨今の人権尊重の重要性の高まりを受け、人権方針の策定や社内通報制度の整備を進めてきた。人権DDについては、「いずれ取り組む必要がある」という認識にとどまっていた。

こうした状況の中、主要取引先から人権に関するアンケートが送付された。アンケートには、人権方針の有無に加え、重要な人権課題の特定や、サプライヤー管理を含めた人権DDの具体的な取組状況に関する設問が含まれていた。管理本部長は、これらの設問に対し、現状では人権DDに未着手であると回答せざるを得ないと考え、アンケートの内容と現在の対応状況を経営層に報告するとともに、今後どのように対応すべきかについて判断を仰いだ。

報告の場で、ある役員は「取引継続に影響が及ぶのなら人権DDへの着手を急ぐべきだ」と反応した。一方、別の役員は「児童労働や強制労働のような重大事案こそが人権問題ではないのか。当社は国内での事業活動がメインとなっているため、人権侵害のリスクは低いのではないか」と発言した。管理本部長はこのやり取りを通じて、経営層の間で人権対応の必要性や緊急性に対する受け止め方に差があること、また一部の役員には人権課題の範囲を限定的に捉える見方があることを認識した。

管理本部長は、「そもそも人権課題には何が含まれるのか」「取組の第一段階として、自社・子会社・取引先・委託先のどこまでを対象と考えるか」といった出発点が定まらなければ、人権DDの検討に進めないと判断した。加えて、調達・営業・法務・人事・経営企画など多くの部門の協力が必要になると予想し、管理部門だけで案を作るのではなく、各部門の実態と意見を十分に踏まえた検討が不可欠であると考えた。そこで管理本部長は、外部の知見を得るとともに、経営トップ主導の部門横断的なプロジェクトチームの発足と、外部コンサルタントの支援導入を提案し、経営層の了承を得た。

プロジェクトチームは、経営層の共通理解を作ることを目的に、経営層向けの勉強会を実施した。勉強会では、人権課題の種類、人権DDが求められる背景にある取引先要請や規制動向、企業の人権対応の全体像等を共有した。特に、「人権課題」の種類については、児童労働や強制労働といった国際的に注目されやすい問題に限らず、労働安全衛生や差別・ハラスメント、サプライチェーン上の労働問題など幅広い課題を含むことを共有した。あわせて、自社だけではなく、子会社を含むグループ会社や、調達先・販売先といった取引先でも起こり得る人権課題を認識し、防止・軽減に努める必要があることを確認した。

また、企業に求められる人権対応は人権方針によるコミットメントを起点とし、人権DD、救済メカニズム、そしてこれらの取組状況の開示を含む一連の取組であることを共有した。

この勉強会を通じて、経営層の共通理解が整ったところで、プロジェクトは人権DDの出発点である「人権課題の特定と影響評価」の検討に進んだ。この検討では、最初に対象範囲を定めることが重要である。対象範囲は、次の2つの観点から整理する必要がある。

・ 自社単体とするか、グループ会社まで含めるか

・ 取引の範囲として、調達先や販売先について、自社との直接取引先までを対象とするのか、その先の二次取引先まで含めるのか、また各種委託先を含めるのか

人権課題の特定と影響評価では、自社の各部門や子会社に対し、どのような人権課題が想定されるか、またその発生可能性と、発生した場合の深刻度をどう捉えるかについての意見を収集し、協議を重ねて認識を合わせることが重要となる。当初、プロジェクトチーム内には、この意見収集手段としてアンケートを実施するべきではないかという発想があった。

A社は約20社の子会社を有しており、子会社まで対象を広げてアンケートを実施すると、回収に加え、子会社ごとに異なる国の前提や実態を踏まえた調整が必要となり、意見収集と合意形成に時間を要する。そこで、プロジェクトチームは、当面は自社を対象に着手し、子会社への展開は自社の評価結果を基に段階的に広げていく方針とした。

取引先の範囲については、販売先の多くは自社の子会社や大手企業である一方、調達先には海外企業も多く、実態を十分に把握しきれていない状況にあった。さらに、事業運営への影響を考えると、工場のメンテナンスを委託している会社や物流業者、倉庫委託先などで人権問題が明らかになった場合、操業に支障が出る可能性があった。こうした状況を踏まえ、一次調達先に加えて、これら委託業者を対象とすることとした。

対象範囲が定まった後、プロジェクトチームは自社および一次調達先や委託先で生じ得る人権課題を、外部情報を参考に網羅的に洗い出した。ここでは、バリューチェーンのどこに、どのような人権課題が生じ得るのかを整理し、関連部門を明確にすることを重視した。洗い出した人権課題について、「侵害の深刻度」と「発生可能性」の2つの評価軸を用いて、プロジェクトメンバーだけでなく、関連する部門にも評価を求めた。

個々の評価結果を収集した後、プロジェクトチームは改めて関係者を集め、議論を行った。「なぜその評価を付けたのか」という各部門の判断理由の確認に加えて、同業他社の開示内容といった外部の公表情報も参照し、評価の妥当性を検討した。評価結果を可視化したものが、人権リスクマップである。

議論の過程では、各部門が人権課題を自らの業務に関連付けて捉える場面も見られた。例えば、調達部門の担当者からは、「これまで価格・品質・納期を中心に取引先管理を行ってきたが、繁忙期の急な増産要請や短納期対応が、取引先における長時間労働や安全管理の不備につながる可能性があるのではないか」との発言があった。また、管理部門からは、「工場のメンテナンスを担う委託業者や物流委託先に対して、自社従業員と同様の視点で労働安全衛生や通報体制を確認できていなかったのではないか」との指摘も出た。こうしたやり取りを通じて、人権課題は抽象的な社会課題ではなく、自社の業務上の判断や管理の在り方と結び付く問題であることが、関係部門の中で具体的に認識されていった。

こうした検討を通じて、「どの人権課題が自社にとって重要か」が具体化され、優先的に対処すべき人権課題に関する部門間の共通理解が形成されていった。A社にとっては、重要な人権課題を明確にしたことそのもの以上に、関連部門が人権課題を自分ごととして捉え、業務との関わりを意識しながら検討したことで、当事者意識の醸成につながった点が大きな成果となった。

この後、プロジェクトチームは調達方針の策定やSAQ(取引先への自己評価アンケート)の設計といった次の検討に進んでいった。この段階で重要な人権課題が明確になっていたことで、後続の防止・軽減策の検討においても、優先的に対処すべき人権課題から検討を進めることができた。

3 B社の事例

B社は国内外を商圏とする専門商社として、飲料・加工食品メーカー、外食事業者に対し、多様な食品原料の調達・供給を行っている。人権対応としては、これまでに人権方針を定め、社内通報制度を整え、基盤となる仕組みを構築してきた。加えて、人権課題の特定と影響評価を実施し、その結果を人権リスクマップとして公表していた。

ある時、競合他社のサプライチェーンで人権侵害が発覚した。その報道を受け、社長は「同じ業界にいる以上、他人事ではない」と考えた。

そこでサステナビリティ委員会において、優先的に対処すべき人権課題ごとに「現時点でどのような防止・軽減策を実施しているか」「どの部門が担当しているか」を確認した。その結果、人権課題への対応が整理されておらず、各部門の分担も明確でないことが把握された。各部門が実際に動くのは、救済メカニズムを通じて相談・通報案件が上がってきた場合に限られており、問題が顕在化してから対応していることが分かった。

社長は、これでは人権問題の発生を未然に防ぐことができず、対応が後手に回る懸念があることに危機感を強めた。負の影響の発生を防止又は軽減するには、人権課題に対してどのような対策を講じるのかを明確にし、その取組を平時の業務や管理の仕組みに組み込む必要があると考えた。また、場当たり的な検討ではなく、計画的に推進する必要があると社長は判断した。そこで社長は、外部コンサルタントを起用し、社長直下のプロジェクトチームを立ち上げ、人権課題に対する防止・軽減策と実行計画を具体化し、問題が顕在化する前に先手で対応することとした。

プロジェクトチームは、優先的に対処すべき人権課題への対応について、実務上どこが不足しているのかを明らかにするため、関係部門へのヒアリングや業務プロセスの確認を進めた。新規取引先の採否、契約更新、品質・納期トラブルの兆候検知、現場からの相談・通報受付、クレーム発生時の調査といった場面ごとに行うべきことがあるが、具体的に「何を確認するか」「どのような条件で調査や社内報告が必要となるか」「どのルートで誰に相談・報告するか」「どのような改善要請やフォローにつなげるか」が定まっていなかった。そのため、各部門の動きは個別案件への対応にとどまり、未然防止や影響の軽減に向けた取組としては十分に機能していなかった。

こうした状況を踏まえ、プロジェクトは、何を・誰が・どのような手順で・いつまでに整えるのかを明確にする必要があると判断した。その際、全ての人権課題や取引先に一律に対応するのではなく、事業や商流の観点から特に影響が大きい人権課題から着手し、実際に運用できる範囲で定着を図りながら、段階的に対象を広げていく方針をとった。

この方針に基づき、社内で取組を進めるための実行スケジュールを整備した。あわせて、社外に対しては、優先的に対処すべき人権課題への対応をどの順で進めるのかを示すため、実行スケジュールとは別に、取組の方向性をロードマップとして整理した。実行スケジュールでは、担当者、責任部署、対応内容、手順、期限を明確に定めた。あわせて、人権課題ごとに、必要に応じて、教育・研修、ルール整備、取引先への働きかけ等をどう行うのかを明確にした。さらに、定めた内容の理解・実践の定着を誰が責任を持って確認するかも明らかにした。

また、競合他社のサプライチェーンで人権侵害が発生したことを受け、自社の一次サプライヤーに対して人権対応状況を確認する必要があると考え、SAQ(取引先への自己評価アンケート)を実施する方針を実行スケジュールに組み込んだ。SAQは、回答結果を通じて実態を確認し、必要に応じて改善を促すことを目的とする。しかし、回答結果を社内で確認し、改善につなげるには相応の手間がかかる。初めからSAQの送り先を広げすぎると、回収だけで手一杯となり、肝心の回答結果の確認や、結果を踏まえた対応まで手が回らなくなるおそれがある。そこで、一次サプライヤーの中でも重要な取引先に絞り、人権課題に紐づく確認事項を揃え、回答結果に応じて追加確認を行い、課題や改善策を協議しながら、必要な改善要請やフォローにつなげることとした。

策定した実行スケジュールについては、年4回開催されるサステナビリティ委員会においてレビューし、進捗を確認のうえ、必要に応じて見直しを行う運用とした。このようにB社は、優先的に対処すべき人権課題に対する防止・軽減策について、計画を具体化し、サステナビリティ委員会を軸に防止・軽減策が実際に機能しているかをモニタリングすることで、人権課題への対応を各部門任せにせず、全社的に進める体制を整えた。

4 留意点

(1)企業活動と人権との関わりに対する認識の共有

人権対応を進めるためには、経営トップから関係部門・現場まで、「なぜ今取り組むのか」「何を人権課題として捉えるのか」「どこまでを対象とするのか」といった基本認識を共有することが重要である。これらの認識が揃わないままでは、経営判断が定まらず、関係部門や現場も自らの業務との関わりを理解できないため、人権対応を自分に関係する課題として捉えにくい。その結果、当事者意識が醸成されず、方針や体制を整えても、取組の着手や実務への反映が進みにくい。

特に、人権課題が顕在化しやすいのは、日々の業務プロセスの中である。例えば、サプライヤーの選定や契約更新では、取引先における過剰労働、労働安全衛生、外国人労働者の権利、強制労働・児童労働の有無が問題となり得る。工場や物流拠点では、安全で健康的な作業環境の確保や、差別・ハラスメントの防止が重要となる。営業・販売の現場でも、顧客・消費者や取引先従業員に対する差別的対応や不適切な苦情対応が人権課題となり得る。企業が配慮すべき相手は、自社従業員だけでなく、取引先従業員、顧客・消費者、地域住民にも及ぶ。現場担当者に人権への理解がなければ、問題の発見や是正対応が遅れ、重大な人権侵害につながるおそれがある。

こうした事態を防ぐには、人権に関する知識を一方的に伝えるだけでなく、自社の事業や商流に結び付けて人権対応の全体像や対象範囲を整理し、「自社の業務のどこに人権課題が関わってくるのか」ということについて関係者の理解を促す必要がある。A社でも、人権課題の特定と影響評価の議論を通じて、調達部門が短納期対応と取引先の長時間労働との関係に気づき、管理部門が委託先の労働安全衛生や通報体制の確認不足を認識した。こうした具体的な気づきが、関係部門に人権課題を自分ごととして捉えさせ、当事者意識の醸成につながった。経営層での議論に加え、関係部門との対話を通じて論点や対象範囲に関する認識を共有し、現場も含めて主体的に向き合う姿勢を育てていくことが、人権課題の特定と影響評価や防止・軽減策の具体化を支える前提となる。

(2)優先度と実行可能性を踏まえた対応

企業が人権対応を実効性のあるものとして進めるには、人権課題の影響の深刻度と発生可能性を踏まえて優先順位を設定し、どの課題から着手するかを明確にすることが重要である。人権課題は多岐にわたり、全て同時に扱うのは現実的ではない。そのため、自社の事業や商流との関係が深く、影響の深刻度や発生可能性の観点から優先度が高い課題を特定し、重点的に取り組む必要がある。

人権課題の特定と影響評価を実際に進める際には、対象範囲を見極めることも求められる。対象を最初から広げすぎると、情報収集や関係者との認識合わせに時間を要し、取りまとめが遅滞する可能性がある。したがって、まずは自社を対象に人権課題の特定と影響評価に着手し、そこで得られた結果や進め方を踏まえて、子会社や取引先へ段階的に広げていくことが有効である。

また、取引先への働きかけについても、対象を広く設定して網羅性を追うのではなく、確認や追加対応まで含めて運用できる範囲から始めることが重要である。重要な一次取引先や事業継続への影響が大きい委託先など、優先度が高く、実際に対応を定着させやすい範囲から着手することで、無理なく実効性のある運用につなげやすくなる。こうした優先度と実行可能性の双方を踏まえた対応こそが、人権尊重を企業活動に定着させる基盤となる。

(3)円滑な推進を支える計画の策定

人権対応は、関係部門が多く、対応内容も多岐にわたるため、役割分担や進め方が曖昧なままでは、個別案件への都度対応にとどまりやすい。優先的に対処すべき人権課題に対して「誰が」「何を」「どのような手順で」「いつまでに」行うのかを明確にした計画を策定し、関係部門が実際に動ける状態にすることが重要である。

具体的には、調達・人事・法務・現場など複数部門が関与する横断的な取組であることを踏まえ、人権対応の全体像と具体的な行動を示す計画を策定する。計画の中で、担当者、責任部署、対応内容、実施手順、期限を定めることで、役割分担や進め方が共有され、関係者間の協力体制が築きやすくなる。対応内容についても、対応の方向性を示すだけではなく、どの場面で何を確認するのか、どの条件で追加確認や報告、改善要請が必要となるのか、誰に相談・報告するのかといった判断基準や手順まで落とし込むことが求められる。基準が不明確なままでは、部門ごとの対応にばらつきが生じ、取組の実効性が損なわれるためである。

また、必要に応じて、社内で取組を進めるための実行スケジュールと、対外的に取組の方向性を示すロードマップを整理することも有効である。前者は日々の業務の中で対応を進めるための計画であり、後者は企業としての方針や到達点を示すための計画である。両者を整理することで、社内での実行管理を進めやすくなり、対外的にも取組の方向性を示しやすくなる。

さらに、計画は関係部門間の意思疎通や社内調整を円滑にするうえでも重要である。あらかじめ進め方や役割分担を明確にしておくことは、経営層との協議や予算確保の場面において、取組の必要性や優先順位を説明するうえでも役立つ。関係者が実際に行動に移せる水準まで計画を具体化することが、人権対応を継続的に推進するうえで不可欠である。

(4)継続的なモニタリングと改善

計画策定後も、それが形式的なものにとどまらず、実際の業務の中で運用されているかを継続的に確認することが重要である。事業環境や取引先の変化に伴い、サプライチェーンの構成や人権課題の現れ方は変化するため、当初に策定した方針や対応内容が現状と乖離することもある。したがって、進捗確認と見直しを定期的に行う仕組みをあらかじめ組み込み、必要に応じて対象範囲や対応内容を更新していくことが求められる。

ここで確認すべきは、単に「計画どおりか」という進捗状況だけではない。重要性の高い人権課題対策が負の影響の防止や軽減につながっているかまで点検する必要がある。例えば、取引先に対するSAQを実施したかどうかだけでなく、その回答結果を踏まえて改善要請を行い、その後の対応状況を継続的にフォローできているかを見ていくことが重要である。

制度や体制が整っていても、運用が設計どおりに機能しているとは限らない。人権DDでは、実施状況を定期的に点検し、その結果を踏まえて見直しや改善を繰り返すことが求められる。こうしたモニタリングと改善のサイクルを欠けば、取組は一過性のものとなり、各部門任せの対応に戻りやすい。会社としての方針に基づいて継続的に人権課題への対応を見直し続けることこそが、実効性の確保につながる。