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AIによる業務改革を成功させるには

No.675 | 2026年7月号

今月の視点

 生成AIをはじめとするAI技術の進展により、企業におけるAI活用への関心が高まり、具体的な活用を模索する動きが広がっている。業務効率化や判断高度化への期待は大きく、業種・規模を問わず「AIをどう使うか」が経営課題として語られるようになった。

 一方で、実際の導入状況を見ると、PoC(概念実証=Proof of Conceptの略) を実施したものの本格展開に至らない、 現場に定着しない、投資対効果を説明できないといったケースも少なくない。こうしたつまずきの多くは、 AIそのものの性能というよりも、検討の初期段階における構想の不足に起因している。どの業務を、 どのように変えたいのか、 AIはその手段として本当に適切なのか。こうした問いに十分向き合わないまま技術検討に進めば、議論は発散し、取り組みは中途半端になりやすい。

 今月は、初期段階に力点を置いてAI導入に向けた検討を進めた3社の事例を通じて、成果につなげるために必要なポイントを考えてみたい。

1 AI活用マスタープランの重要性

AI導入の検討は「どのような業務改革を実現したいのか」という目的から出発すべきものである。

しかし現実には、技術やツールを起点とした議論から検討が始まり、どの業務をどのように変えたいのかが曖昧なまま進んでしまうことも多い。その結果、導入後に実際の業務運用との乖離が生じ、活用が定着しないといった問題が発生しやすい。また、AI導入は相応の期間と負荷を伴うため、対象を広げすぎればデータ整備や業務調整に時間を要し、取り組みが停滞するリスクも高まる。

こうした状況を避けるためには、開発・導入工程に先立って、実現すべき業務改革の目的を明確にした上で、現行業務の分析を通じて、AIによる改善対象業務とその実現性を見極め、取り組みの優先順位を設定することが重要である。その上で、AI適用後の業務の姿や各業務への適用方法、その実現に向けたステップ及び時間軸を織り込んだマスタープランとして整理しておくことが導入の成否を左右する。

2 A社の事例 ~AIを活用した間接部門のスリム化

(1)検討の背景

A社は、日用品・消費財を中心に事業を展開するメーカーである。近年は新商品の投入や販路拡大により業容を拡大してきたが、その一方で市場競争は激化しており、価格競争への対応と収益性の確保が経営上の重要課題となっていた。

売上の拡大に伴い業務量も増加していたが、特に間接部門においては、業務の見直しが十分に進まないまま人海戦術で吸収してきた経緯があり、組織全体が肥大化する傾向にあった。個々の業務は現場の工夫によって回っているものの、全体として見ると重複作業や非効率な処理も多く、コスト構造の硬直化が進んでいた。

こうした状況の中、A社は間接部門のスリム化と生産性向上を目的として、近年注目されるAI活用の検討に着手することを決めた。各部門からは様々なAI活用のアイデアが挙がってきたが、会社として投資すべき業務の対象範囲や優先順位が定まらなかった。営業支援、問い合わせ対応、経理処理、データ分析など、検討テーマは多岐にわたり、「どれも有効そうだが、どこから着手すべきかわからない」という状態に陥っていた。

社長は停滞する状況を打開するため、次のように指示した。

「AIは有効な手段だが、どの業務を対象に、どういった時間軸で、どのような改善が見込めるのかが見通せなければ意思決定ができない。また、一気に全てを実現しようとしてもうまくいかないと考えられるため、現行業務を具に棚卸した上で、AI導入に向けた対象業務及び優先順位を具体化してほしい。」

社長の指示をもとに、AI分野を含めた業務改革の推進に定評のあるコンサルタントも参画させてプロジェクトチームを組成し、改めて本格的な検討を仕切り直すことにした。

(2)AI活用マスタープランの具体化

プロジェクトチームは、まず間接業務全体の棚卸に着手した。

この過程では、単に業務を抽出するだけでなく、処理件数や所要時間、関与人数、判断の有無、ルール化の程度、使用しているデータの種類といった観点で業務の実態を掘り下げていくことを重視した。棚卸を通じて、特定の業務に作業が集中していることや、部門ごとに似たような処理を繰り返していること、一度処理した内容が別の工程で再度確認・修正されていることといった非効率の構造が詳らかになった。これらの非効率に対して「定型的で処理量の多い業務」、「一定のルールに基づく判断を伴う業務」、「柔軟で高度な判断を要する業務」といった性質の違いを踏まえて分類し、どの領域に改善余地が存在するのかを整理していった。

こうした整理と、各部門から寄せられたAI活用のアイデアを踏まえ、AIによる効率化が見込める対象業務を設定し、優先順位付けを行っていくことにした。優先順位の検討にあたっては、評価軸をどのように設定するかが論点となった。ある部門は効果の大きさを重視すべきと主張し、別の部門は実現可能性や現場負荷の観点を優先すべきと考えていた。また、短期間で成果が見える取り組みを優先すべきか、中長期的な変革につながるテーマを重視すべきかについても意見が分かれた。プロジェクトチームは各部門と丁寧に議論を重ね、単一の基準で判断するのではなく、期待される効果の大きさや、必要となる投資規模、実現の難易度、業務への影響、効果が現れるまでの時間といった各要素のバランスを見ながら優先順位を設定していった。

この評価プロセスを通じて、各部門の主張も徐々に整理されていった。自部門の課題解決を優先したいという向きもあったが、多面的な評価軸に基づいて整理していくことで、全社的な観点での優先順位が可視化され、合意形成が進んだ。

最終的に策定したマスタープランは、短期・中期・長期の三段階での構成とした。まずは毎月の経費計上や請求書照合といった業務を中心に、業務構造が定型的で処理量も多く、短期間での効果創出が期待できそうな領域に絞って着手することとした。ベンダーからの情報提供も受けながら、AIモデルを独自開発するのか、既存のツール等を導入することで実現を図るのかといった導入手段の選択についても、対象業務ごとに具体化していった。月次管理資料の経営・業績分析の高度化や、顧客からの問い合わせ対応の自動化といったテーマもAI活用を期待する声が多かったが、これらはまだデータ整備や運用設計が十分でないため、中長期的に適用範囲を広げていく対象と位置付けた。

マスタープランの策定により、「どのテーマを、どの順序で、どういった時間軸で進めるのか」が整理され、経営として意思決定可能な状態に落とし込まれた。

(3)段階的な取り組みと成果

策定したマスタープランに基づき、A社では優先順位の高いテーマから順次取り組みを進めていった。導入を進める中では、棚卸の過程で把握した業務のばらつきや曖昧な処理ルールについて整理するとともに、データの定義や業務プロセスの標準化を図った。これらの前提条件を整えたことで、導入後も現場で無理なく運用できる状態が実現された。

こうして、初期に着手したテーマでは、所期の狙い通りに短期間で効果を実感できるようになった。従来は人手に依存していた作業の負荷が軽減されるとともに、処理のばらつきが抑制され、業務品質の安定化にもつながった。さらに、作業時間の削減によって生まれた余力を、より付加価値の高い業務に振り向ける動きも見られるようになった。

これらの成果が現場で共有されることで、当初はAI導入に慎重だった部門からも前向きな評価が得られるようになり、次の取り組みに対する理解と協力が広がっていった。マスタープランに基づいて着実に成果が積み上がっていく過程が、組織全体の意識を変える契機となった。

現在もA社では、マスタープランに基づき次なる展開へと歩みを進めている。AI活用は一過性の効率化の手段にとどまらず、業務のあり方そのものを見直す継続的な取り組みとして定着しつつある。

3 B社の事例 ~生産計画立案業務へのAI導入

(1)検討の背景

B社は、冷凍食品・加工食品を製造するメーカーである。主力製品は家庭用量販向けだが、外食・中食向けの業務用比率も高く、需要は季節性に加えて、天候、原材料市況、販促施策、取引先の急な注文変更などの影響を強く受ける。近年は原材料・エネルギー価格の高騰も重なり、余剰生産や緊急増産を抑制することの重要性が高まっている。

これまでB社の生産計画は、需要予測値を参考にしつつも、最終的には計画担当者と工場責任者の経験に依存する部分が大きかった。工場ごとに設備構成や段取り替え時間が異なることや、製品ごとの製造リードタイム、保管期限、原材料の調達制約など、計画を組み立てる際に考慮しなければならないことが多い。結果として、担当者が頭の中で制約を整理し、妥協点を探ることが日常になっていた。

社長は危機感を募らせていた。

「計画の巧拙が、原価と納期と品質に直結する。属人化したままでは、担当者が替わった瞬間に経営が揺らぐリスクがある。AIで全部を自動化する必要はないが、少なくとも、判断の土台を仕組み化して、計画の再現性を高めたい。」

この方針のもと、B社はAI導入の上流工程推進支援に定評のあるコンサルタントを参画させて生産計画改革プロジェクトを立ち上げ、AI活用を視野に入れた検討を開始した。

(2)AI活用マスタープランの具体化

プロジェクトチームは、まず生産計画業務そのものの構造を分析することから着手した。従来の計画業務は、需要予測値を起点としつつも、最終的には担当者と工場責任者の経験に基づく判断に大きく依存していたが、その判断の中身が体系的に整理されているわけではなかった。そのため、まずは「誰が、どの情報をもとに、どのような順序で判断しているのか」を一つひとつ可視化していくことにした。

具体的には、月次・週次の計画立案から日々の計画修正に至るまでのプロセスを分解し、各工程で参照される情報と判断内容を洗い出した。その結果、表面的には一連の計画業務として見えていたものが、実際には複数の判断の積み重ねによって成り立っていることが明らかになった。需要予測値に対してどの程度の安全在庫を持つか、設備の稼働順序をどう組み替えるか、急な受注変動にどう対応するかといった判断が、個別に行われていたのである。

こうした整理を進める中で、生産計画の難しさの本質が徐々に浮き彫りになっていった。それは単に計算量が多いということではなく、複数の制約が相互に影響し合う中で、何を優先するかを判断する必要があることだった。各工場の設備能力や段取り替え時間、製品ごとの製造リードタイムや保管期限、さらには原材料の調達制約などが複雑に絡み合い、単一の評価軸での最適化では全体として成立する計画を作ることが難しい構造となっていた。そのため、各制約に対して、絶対に満たすべきものと調整可能なものを切り分けるとともに、制約同士の関係性を整理し、計画立案における判断基準を定めていった。これにより、それまで担当者が暗黙的に行っていた判断が、共通の基準として言語化された。

次のステップとして、プロジェクトチームはAI適用領域の具体化を行った。定型的な処理や、複数の制約条件を同時に考慮した組み合わせの探索といった領域については、AIの活用によって効率化や精度向上が期待できる。一方で、突発的な需給変動への対応や、経営判断を伴う最終的な意思決定については、人が担うべき領域として位置付けられた。AIと人の役割分担を定義した上で、実際の導入に向けた検討が進められたが、ここで重要になったのは、どの範囲から着手するかという点であった。全体最適を一度に実現しようとすれば、前提となるデータ整備や業務見直しの負荷が大きくなり、導入が難しくなることが予想された。

そこで業務構造の整理結果を踏まえ、段階的に適用範囲を拡大していくマスタープランを策定した。まずは、比較的制約条件が整理しやすく、かつ効果が可視化しやすい領域を対象としてPoCを実施した上で、適用範囲を広げていく方針とした。このマスタープランにより、「どこまでを対象とし、どの順序で展開していくのか」が明確になり、検討はAIモデルの開発フェーズへと進んだ。

(3)段階的な取り組みと成果

策定したマスタープランに基づき、B社ではまず対象領域を限定して具体的な導入に向けた取り組みを開始した。初期段階では、比較的制約条件が整理されており、かつ計画結果の良否を評価しやすい製品群と工場を対象とし、AIによる計画支援の有効性を検証することとした。PoCでは、前工程で整理した業務構造と制約条件をもとに、AIが担う範囲と人が担う範囲を切り分けた上で、計画立案プロセスの中で実際に活用していった。具体的には、段取り替え時間や設備制約を踏まえた生産順序の候補提示や、需給バランスを踏まえた全体の計画案の生成といった領域についてAIを活用し、その結果をもとに担当者が最終的な調整を行う形とした。

稼働当初は、AIが提示する計画案に対して現場から違和感が示される場面も少なくなかった。しかし、AIの出力と人の判断の違いを突き合わせて検証する中で、これまで言語化されていなかった判断基準が明確になり、業務の前提がより精緻に整理されていった。こうした検証の結果は、AIモデルの改善にとどまらず、業務ルールやデータ定義の見直しにもつながり、計画業務全体の精度と一貫性の向上に寄与した。

また、AIの役割を「判断の代替」ではなく「判断の補助」として位置付けたことも、現場への定着を促進する要因となった。担当者はAIが提示する複数の選択肢を比較検討しながら、自らの判断を加えて最終的な計画を確定することができるため、従来の業務プロセスとの連続性が保たれた。この結果、AIに対する過度な抵抗感が生じることなく、徐々に活用が進んでいった。

AIモデルの稼働を通じて、生産計画の立案プロセスにおける再現性は着実に向上した。従来は担当者ごとの経験や判断に依存していた部分について、一定のロジックとデータに基づく裏付けが与えられるようになり、計画の妥当性について関係者間で共有しやすくなった。また、急な需給変動に対しても、複数の代替案を迅速に検討できるようになり、対応のスピードと質の両面でも期待通りの改善につながった。

稼働の成功を受けて、B社ではマスタープランに基づく更なる適用範囲の拡大と精度向上の取り組みを継続している。稼働初期段階で得られた知見をもとに、他の製品群や工場にも適用を広げていくことで、全社的な生産計画の高度化が実現されつつある。

4 C社の事例 ~画像AIを活用した物流現場管理高度化

(1)検討の背景

C社は、複数の物流拠点を展開する総合物流企業である。主に地場の小売・メーカー向けに、入出庫、保管、配送を一体で提供しており、取扱貨物の種類や量は日々大きく変動している。近年は取扱量の増加や荷主ニーズの多様化が進む一方で、現場の人手不足と人件費の上昇が深刻化しており、業務の効率化と省人化が喫緊の経営課題となっていた。

各拠点では、入荷から出荷に至るまでの作業が複数の工程に分かれており、作業の進捗や人員配置は現場責任者の判断に委ねられていた。作業状況の把握は主に目視や経験に依存しており、どの工程で滞留が発生しているのか、どこに負荷が集中しているのかといった情報は、定量的に把握されていなかった。このため、各拠点で行われている改善の効果を客観的に評価・比較することが難しく、他拠点への改善の水平展開や、全社的な生産性向上の動きには結びつきにくい状況にあった。

こうした中、C社ではAIを活用した現場管理の高度化に関心が高まっていた。中でも、カメラ映像を活用して作業者の動きや作業状況を分析し、工程のボトルネックやムダを可視化する技術は、有力な打ち手として注目されていた。

一方で、各拠点のレイアウトや作業内容は大きく異なり、作業のばらつきも大きいことから、「本当にAIが有効に機能するのか」という不安も根強かった。現場からは、特定の作業では有効でも全体最適にはつながらないのではないか、導入後の運用負荷が増大するのではないかといった懸念が示されていた。

この状況を踏まえ、自社の現場においてAIが機能する前提が整っているのかを見極めた上で、AI導入に向けたステップを展開していくことを決め、プロジェクトチームを組成した。技術偏重になることを避けるため、プロジェクトチームには業務改革に強みを持つコンサルタントも参画させることにした。

(2)AI適用可能性の見極め

プロジェクトチームは、主要拠点を対象に詳細な現場調査を実施し、作業内容、工程の流れ、設備配置、作業者の動線、カメラ設置環境などを丹念に確認した。その上で、画像AIが一般に適用可能とされる条件と、自社の現場との間にどのような差があるのかを整理していった。

調査を進める中で、当初の想定とは異なる現実が徐々に見えてきた。拠点ごとに工程や作業手順が大きく異なり、同一工程であっても作業内容が一定でないケースが多いこと、また例外対応が日常的に発生していることから、標準的な作業パターンを前提とした分析自体が成立しにくい状況であった。さらに、データ取得環境にも大きな制約があった。現場は照明条件や作業環境が一定ではなく、作業者の動きが固定されていないため、安定した映像データを取得することが難しい工程が少なくなかった。新たなカメラを設置する上でも、視野の確保や安全面への配慮が必要となり、想定通りに配置できるとは限らなかった。

調査と併行して実施したベンダーとの議論においては、技術的には対応可能であるという案も提示されたが、導入後の運用負荷が無視できないことがわかった。モデルの調整や例外対応を含めた運用には継続的な人的リソースが必要となり、現場の体制を踏まえると、その負荷を吸収しながら安定運用することは容易でないと判断された。こうしてプロジェクトチームは、技術的に実現可能であることと、現場で無理なく運用できることは別の問題であるという認識に至った。

検討を進める中で、プロジェクトチームの視点は徐々に変化していった。当初はAIをどう導入するかということに軸足を置いていたが、調査結果を受けて「AIが機能するための前提が整っているのか」という問いに移っていった。

AIを有効に機能させるためには、一定の作業パターンが存在し、それを捉えるためのデータが安定的に取得でき、かつ運用として継続可能であるという前提条件が満たされることが望ましいが、これらはまだ十分に満たされていなかった。このまま導入を進めた場合、期待した効果が得られないばかりか、現場の負荷を増大させる可能性が高いこともわかってきた。

この状況を踏まえて、画像AIは将来的には有効な手段となり得るものの、現時点で全面導入を志向することは望ましくないという結論に至った。

(3)段階的な取り組みへの転換

こうした検討結果を受け、まずはAIを有効に機能させるための前提条件を整えることを先行し、その上で適用可能な領域から段階的にAI活用を推進していく方針へと転換した。

この考え方に基づき、プロジェクトチームは前提条件の整備を起点としたマスタープランを策定した。マスタープランにおいては、まず初期段階として、現場業務の標準化および作業実績や進捗状況をデータとして記録・蓄積する仕組みの整備を進めることとした。これらはAI導入の前提となる基盤であり、この段階が確実に整備されなければ、その後の高度化は成立しないという位置付けである。その上で、基盤が整った領域からAIを活用した分析や現場運営の高度化に段階的に取り組んでいく方針とした。マスタープランの策定により、「どの段階で何に取り組むか」が定まり、このステップで取り組みを進めていく方向性が組織内での共通認識となった。

現在C社では、マスタープランで定めた初期段階の取り組みを着実に推進し、これまでばらつきの大きかった業務の標準化が進んだ。また、作業実績や進捗状況のデータ化が進んだことで、現場の状況を定量的に捉えるための基盤も整備されつつある。

取り組みの進展により、当初は抽象的であったAI活用についても、どの領域であれば適用できそうかという見通しが立ってきた。初期の成果を踏まえた次の段階としてのAI活用が現実的な選択肢として見え始めている。

5 留意点

本稿で取り上げた3社の事例では、現行の業務を丁寧に捉え直し、AI活用に向けたマスタープランを展開することで、現実に即した導入検討を進めてきた。

以下に、これらの事例を踏まえ、AI導入の検討を進めていく上で留意すべき点を整理する。

①AI導入を目的化しない

まず出発点として重要なのは、AI導入そのものを目的としないことである。AI活用の検討では、「AIを使って何ができるか」という技術的な発想から議論が始まりやすいが、本来は「業務をどのように変えたいのか」という目的から出発すべきである。AIはあくまでその実現手段の一つに過ぎない。

A社では、各部門から多様なAI活用のアイデアが挙がる中で、それらを個別に検討するのではなく、間接業務全体を俯瞰し、どの領域に優先的に取り組むべきかを整理することから着手した。B社においても、生産計画の高度化という目的を起点に、業務の構造整理や役割分担の設計を進め、その中でAIをどのように位置付けるかを検討してきた。

改善目的を起点として検討を進めることで、AIを適用すべき領域とそうでない領域が自ずと整理され、限られたリソースを効果の見込める取り組みに適切に配分することが可能となる。

②業務の構造を可視化する

変えるべき対象業務を見極めるためには、業務の構造を可視化する必要がある。単に業務を抽出するだけでなく、業務の中でどの情報をもとに、どのような条件で判断が行われているのかを含めて整理しなければならない。

B社では、生産計画業務を分解し、制約条件や判断ポイントを整理することで、業務のどの部分に改善余地があるのか、どの領域であればAIの適用が現実的なのかを明らかにした。この整理によって、AIに委ねる領域と人が担う領域の切り分けが可能となり、実行可能な導入方針の設定につながった。

業務の構造を可視化することで、改善余地のある領域やAI適用が現実的な領域を選定できるようになる。これにより、その後の優先順位付けや導入検討の確度が高まる。

③AI活用の前提条件を整える

業務構造を整理した上で、そもそもAIが機能する前提条件が整っているかを見極める必要がある。業務の標準化やデータ整備といった基盤が不十分なまま導入を進めた場合、AIの出力が現場の実態と乖離し、活用されない、あるいは運用負荷だけが増大するといった事態に陥りやすい。

C社では、現場調査を通じて前提条件の不足を明らかにし、「導入できるかどうか」ではなく「導入すべき状態にあるかどうか」という観点から意思決定を行った。その結果、AI導入を急ぐのではなく、業務の標準化やデータ整備を先行させる方針へと転換した。

AI活用においては「今やるかどうか」も重要な判断であり、前提条件が整っていない段階で拙速に導入を進めないことが、結果としてAI活用の成功につながる。

④優先順位を明確にする

AI活用の可能性は広範にわたるため、検討を進めるほどに対象領域が拡大しやすく、何から着手すべきかが曖昧となり、検討が発散するリスクがある。このため、導入に向けた初期の検討段階において優先順位を明確にしておくことが欠かせない。

A社では、業務棚卸と評価軸に基づいてマスタープランを策定し、「今取り組むべき領域」と「将来に回す領域」を切り分けた。この整理があったからこそ、個別の要望に振り回されることなく、段階的に成果を積み上げることが可能となった。

優先順位が明確になることで、どのタイミングで何に取り組むべきかが整理される。その結果、検討や実行の過程における判断のばらつきが抑制され、場当たり的な意思決定に陥ることを防ぐことができる。

⑤AIの特性を理解して活かす

最後に、AIの特性を正しく理解した上で活用することが重要である。AIは、大量データの処理やパターン抽出、複数条件を同時に考慮した候補提示といった領域に強みを持つ一方で、前提条件が曖昧な判断や、状況に応じた最終判断を柔軟に行うことは得意ではない。

B社では、複数の制約条件を同時に考慮した計画案の生成をAIに担わせ、人が最終的な調整と判断を行うという役割分担にすることで、現場で無理なく運用できるようにした。

AIに人の判断を代替させるのではなく、人の判断の質と速度を高める存在として位置付け、その特性に適した領域で活用することが、AIの価値を最大化することにつながる。